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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百五十三話 金蛇昇竜伝説

 シュウは雨蛇公園の湖畔に来ていた。森の中、視線を横に移すと湖が見える。たっぷり水分を含んだ風がザワザワと吹いていた。天気予報を見ると雨かもしれないが確認するほどの興味はなかった。


「ここだったな。シャーロットさんが死んだのは……」


 シャーロットは背後からの狙撃で死んだ。そのタイミングで南とフィオナが現れた。しかし事件の関与をフィオナが否定していた。責任を感じているとアリスが謝罪していた。そして協会のトップに代わって亜梨沙が頭を下げた。


「あいつらじゃなかったのかもしれねーな」


 シュウは事件現場に来ても冷静だった。膿んでいた生傷がカサブタになりつつあるのだろう。そろそろ前へ進む時期か――そう思い始めていた。


「俺がギフターになればシャーロットさんの捜査ができる……か」


 ポツンと何かが降ってきた。上を見ると葉っぱの隙間から水滴が落ちてくる。パラパラと枝が揺れる。雨だった。湖面に波紋が広がっていく。


「そもそも俺はシャーロットさんのことをどう思っていたんだろう」


 考えても分からない。それよりも雨が鬱陶しい。近くに雨蛇神社があったことを思い出した。(走るか)マナを練ろうとして思いとどまる。雨の中でエレキの技を使うと感電する可能性があるからだ。


「あれは……」


 赤い和傘を差した巫女がシュウの方に歩いてくる。さらりとした灰色の髪、雪のように白い肌、そして赤い瞳――マナリンクのリッカだ。微笑を浮かべてシュウを見ていた。


「濡れてしまいますよ、シュウ様」


 リッカはそう言うと傘を差しだした。自分より年下の少女なのに艶かしい。巫女装束でそう見えるのだろうか。それとも赤い目がそう思わせるのだろうか。シュウは傘を受け取るとリッカを招き入れた。相合傘。肩が重なり体温を感じる。


「リッカちゃんは巫女だったのか」


「はい」


「ふーん。でもなんでここに来たんだ?」


「なんとなくです。ふふ、来て良かったですね。こうして逢えましたから」


 リッカは白い肌を桃色に染めてはにかんだ。シュウは心拍数が上昇するのを感じて顔を背けた。わざとらしく咳払いをして誤魔化す。降りしきる雨が地面を叩き土の匂いが立ちこめていた。


「シュウ様、拝殿へ参りましょう。雨が止むまでゆっくりしてください」


 リッカはそう言うと神社へ向かって歩き出す。シュウはリッカが濡れないように歩幅を合わせた。



 ◆



 雨だからか参拝客はいなかった。広い拝殿の中は神聖な雰囲気が漂っている。木と畳の香りが和の郷愁を呼び覚ます。


「ん?」


 奥の神棚に金色の蛇の置物が祀られていた。よく観察すると蛇の絵や彫刻など、至る所に蛇の姿がある。神妙な面持ちで眺めていると、リッカが茶と和菓子を運んできた。


「雨蛇神社のお菓子です。甘い物はお好きですか」


「あ、ああ。ありがとう」


 シュウは甘い物が好きではないが言わなかった。雅な銘々皿(めいめいざら)にはデフォルメされた蛇の饅頭が乗っている。キュートな蛇と目が合った。


「なあ、リッカちゃんってヘビが好きなのか?」


 リッカはきょとんとした。


「この部屋、ヘビに寄せすぎじゃね? 俺、あんまし爬虫類好きじゃねーんだよな」


「まあ、シュウ様ったら! 雨蛇神社は蛇神信仰なのですよ」


 リッカは口元に手を添えて可笑しそうに笑う。


「海に千年、山に千年生きた蛇は龍となり天へ昇る。金色の鱗を纏いて雷と雨、神風を呼ぶ龍神となる――金蛇昇竜伝説が雨蛇神社に伝わっています。雨蛇神社(あまへびじんじゃ)はもともと金蛇神社(かなへびじんじゃ)と呼ばれていたのです。その名残で金色の蛇をご神体として祀っているのですよ」


 リッカは熱を帯びた瞳でシュウを見詰める。


 金蛇? シュウはある予感が頭をよぎり疑問を口にした。


「もしかして蛇の民の金蛇って……この神社と関係あんの?」


「はい」


 重大な事実をあっさり肯定した。


「え? 俺って神様の末裔なの?」


「蛇神を信仰する者にとってはそうです」


 嫌すぎる事実に思わず顔が引きつる。


水門重工(みなとじゅうこう)の高原家は蛇神を信仰していますし、『龍』や『蛇』の名を冠する異人組織も蛇神を信仰している可能性が高いですね」


「もしかして雨夜(あまよ)が俺に懐くのも、(みなもと)さんが俺を『シュウ様』って呼ぶのも俺が金蛇だから?」


「ええ、シュウ様の素性を知っておられるからでしょう」


「金蛇警備の木村さんや高橋さんが俺を『坊ちゃん』って呼ぶのも……?」


 リッカは頷いた。


「リッカちゃんが俺を『様付け』するのも……?」


「シュウ様のお人柄もございますよ」


 リッカが頬を染めた。シュウはシンユーの言葉を思い出していた。


――お前さ、リーシャ様に心配掛けるなよ――


(龍尾……龍の名を冠する組織だ。龍尾の頭領が俺を気にかける理由って……まさかな)


 シュウは蛇饅頭をムンズと掴んで口に放り込んだ。そしてリッカの赤い瞳を見る。シュウには聞きたいことがあったのだ。

【参照】

金蛇警備の木村と高橋→第十七話 金蛇警備保障

雨蛇神社と公園→第四十一話 デート当日の早朝

シャーロット狙撃事件→第四十四話 世界の終わり

水門重工の源→第五十三話 便利屋の少年と大企業の令嬢

シュウを気に掛けるリーシャ①→第五十八話 龍の器

事件の関与を否定したフィオナ→第七十三話 フィオナのお礼

マナリンク→第八十三話 マナリンク

リッカ→第八十四話 赤目の少女

シュウを気に掛けるリーシャ②→ 第九十九話 テロリスト

シュウに懐く雨夜→第百十二話 雨夜が来た

シュウを気に掛けるリーシャ③→第二百四十七話 五天龍と不吉な女に気を付けろ

シュウを気に掛けるリーシャ④→第三百二十八話 電拳の調停

事件のことを謝罪したアリス→第三百三十二話 悪意と悪夢の一夜

頭を下げた亜梨沙→第三百四十一話 彼女の事件を追っている

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