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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百五十二話 父に捧げる最期の涙

「ちょっとライ! 先に行かないでよ」


 瓦礫の奥から現れた金髪の少女が怒っている。その後ろには黒髪の少年がいた。ライが合掌しながら答える。


「ランと残月か。空気読めよ、英雄の死を悼んでいる最中だぜ」


 ランは慌てて合掌する。隣の残月は気怠そうに横に倣った。三人は同じ制服を着ている。アドルガッサーベールのメンバーのようだった。


「左京はどうした?」


「大使館にいる。彼は水門重工の代表と一緒に暫定政府とリモート会談。あまり戦場に出てくるタイプじゃないしね。鬼強いくせに」


「スメラギとラリーンは?」


「収容所の方だよ。さっき連絡あった……囚人は全員死んでいたみたい」


「そうか。レンはどこだ?」


「そこに来てるよ」


 ランが指を差した先に金髪の幼い少女がいた。感情に乏しい表情で荒廃したビル群を眺めている。


「よし、ここは国内旅団に引き継いで大丈夫だろう。これでビビっていた西洋連合も動き出すな」


 ライは壊滅した町を見た。道中に住人の死体が折り重なり腐臭が漂っている。老若男女、ある意味差別なく満遍なく死んでいる。死人の虚ろな瞳がライを見ていた。


「俺は決して忘れない……アデルキリアの地で死んでいった同胞の無念と普通人(やつら)の罪を――」


 その呟きに感情らしいものは感じられなかった。背中を向けていて表情は見えない。ランは不安に駆られて声を掛ける。


「……ライ?」


 ライは笑顔で振り返った。


「ラン! レン! 残月!」


「な、なによ」


 明るく振る舞うライはいつものライだった。


「これまで異人って差別用語だったよな?」


 ランは金色の瞳をぱちくりしている。ライはいつも突拍子もないことを言う奴だった。


「そうね。異邦人、異教徒、人とは異なる者……そんな意味合いだと思うけど」


 ランの言葉にライは大きく頷いた。


「今日この日から俺たちは堂々と『異人』を名乗る。『異能を使う者』としてな!」


「ふーん」


「反応(うっす)っ! いいか、異能(これ)は神から授かった才能……ギフトなんだ」


「ま、そうかもねえ」


 ライは拳を高く突き上げるとこう宣言した。


「つまり俺たちは神に選ばれた者――『ギフター』だ!」


――ライは不思議な少年だった。年は十代半ばに届いていないだろう。それなのに人を惹き付ける何かを持っていた。悲惨な戦地で底抜けに明るい。太陽のような少年だった。


(私もこの人のように強くなりたい)


 フローラはライを見ていた。金色の髪と金色の目、そして金色のマナ――胸の奥がビリッとした。


(エストリエ……?)


 自分の感情なのか、それとも自分の中にいる月の精霊が反応しているのか、フローラにはもう分からなかった。


 私はフローラ。


 私はエストリエ。


 私たちに残された感情(モノ)は『敵』を殺したいという怨念だけ――。


「パパ……」


 フローラの瞳がパルチザンの骸を映している。あの時、フローラは確かに視た。月光爆発の瞬間、雷の壁が父の死体を守ったのを――。


 フローラはふらつきながら歩いた。ライの横を通り過ぎ、父親の身体に触れてみた。


 この人は私のパパ。


 この人はフローラの父親。


 殺された。


 死んだ。


 悲しいはずなのに悲しくない。


 なぜ泣きたいのに泣けないの?


 私の心はどこへいってしまったの?


 力を得た代償が父の死を悲しむ心だとしたら――それはきっととても高かった。


「フローラ」


 エリクが隣にいた。私の頭を撫でている。


「ねえ、エリク」


「なんだ?」


「パパが死んじゃった」


「ああ」


「ママもソフィアも死んじゃった」


「ああ」


「でも悲しくないの。涙が出ないの。私って変なのかな」


 エリクが泣いていた。泣きながら私の頬に手を添えた。


「お前……自分で分からないのかよぉ……今泣いているじゃないか……」


 気が付くと私は泣いていた。ポロポロと涙が溢れてくる。悲しくないのに涙が止まらない。きっとこれはフローラの涙なんだ。明日はもう泣けないかもしれない。だから今は涙を流そう――これが私が父に捧げる最期の涙だから。



 ◆



――ソフィアは目を開けた。リビングのソファーに座っている。そこから見える窓には月が浮かんでいた。


「あれ? 私寝ていたのかな……南先輩を玄関で見送ってから……パパが帰ってきて……って、え! な、なんで泣いているの? 私」


 ソフィアは泣いていた。慌てて目を擦る。


「あれ? パパ」


 フィルが隣に座っていた。温かい手でソフィアの頭を撫でている。


「私ったらおかしいの。なんで泣いているのか分からないの。悲しい夢を見ていたみたいなの。恥ずかしいわ、何か寝言言ってなかった?」


 フィルは何も答えない。


「パパ……どうして泣いてるの?」


 フィルは泣いていた。疲れ切った表情で涙を流していた。ソフィアはこんな父親を初めて見た。フィルは愛娘を抱きしめた。


「もういいんだよ……もう……いいんだ」


「パパ?」


 月明かりがリビングを照らす。キラキラと輝く月色のマナが二人を優しく包み込んでいた。

【参照】

ラン→第十八話 シュウの師匠

ラリーン→第五十九話 難民キャンプの情報屋

スメラギ→第二百六話 異人狩りの不意打ち

左京と残月→第二百五十七話 赤目の支配者は笑う

世界で一番最初に異人と名乗った者→第三百三十一話 赤い目が呼び醒ます記憶

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