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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百四十八話 パルチザンの少女

 東欧のアデルキリアに雪が降り始めた。吹雪は空も大地も灰色に染め上げて、死体や武器、破壊された戦車を覆い隠していく。街が闇に包まれても明かりは灯らない。人の姿が見えない。異人強制居住区域は政府の管理下に置かれ厳しい生活を強いられており、夜間の外出は禁じられていたからだ。


 深夜のこと。異人の子供達が真っ白な息を吐きながら森の中を歩いていた。金髪(ブロンド)の少女をリーダーにしたストリートチルドレンだ。マナを展開し吹雪から身を守っているが、寒さだけはどうにもならない。後ろを歩く少年が口を開いた。


「ねえ、フローラ。まじ寒いんだけど」


 フローラは雪風になびくフワフワのブロンドを押さえながら答える。


「だから外に出られるんじゃない。不良親衛隊(クズども)のガードが甘くなるから。隣村にあるパルチザンの拠点に行って物資受け取る話になってんのよ」


 十歳ほどの少女が場を仕切っていた。フローラの父親が反政府異人組織パルチザンの幹部であることは無関係ではないが、彼女のカリスマ性と強い異能がそうさせていた。


「しっ!」


 フローラは会話を中断させた。身を屈めて前方を注視する。後ろの少年達もそれに倣った。


「寒いかもしれないけど……マナの展開を解いて気配を殺して」


「マジかよ。ママのミルクが恋しくなるぜ」


 愚痴りながらマナを閉じる。吹雪が容赦なく生身の身体に襲いかかった。フローラは暗闇に目を凝らす。


(あれは……)


 幼い姉妹が走っていた。姉が妹の手を引いて懸命に雪の中を駆けている。それを武装した男達が高笑いしながら追い回していた。


「便器がどこに逃げるんだよぉ!」「お前等は楽園送りだ! 可愛がってやるぜ」「異人だから死なねーだろ、撃っちゃえよぉ」


 男達は暫定政府直属の治安維持部隊だ。懲罰部隊が元となっており、軍法会議で有罪となった兵隊や収容所の捕虜、政治犯などで構成された犯罪者集団だ。異人を害悪と見なし徹底的に弾圧してきた。女、子供を見境なく誘拐して暴行し、そして殺す。戦争よりも略奪を優先することで悪名高い連中だった。


「きゃあっ」


 威嚇射撃で姉妹が転倒した。男達は銃を構えながら距離を詰める。姉妹は恐怖で顔を歪めながら抱き合っていた。


「ここじゃ寒くてムスコが反応しねー。面倒くせぇから殺しちまうか」「だな、異人は絶滅させろってのがお上の意志だ」「異能使ってみろよ! まあこのチョッキにはマナ結界が張られているから、普通のサイキネ程度は無効化するぜ。ひゃはは」


 嘲笑的に銃を向ける。姉妹に抵抗する素振りはない。覚悟を決めてギュッと目を閉じた。自分の命はあと何秒か……無力に死を待っていると――メリメリッ! 突然目の前の男が膨張し弾け飛んだ。「ぐほっ」真っ赤な血が真っ白な雪を染め上げる。


「な、なんだ!」


 男達が動揺し円陣を組む。すると闇夜に少女の声が響き渡った。


「わあぁぁ!」


 木の陰からフローラが飛び出した。鬼の形相で男達に襲いかかる。「ちっ! 異人の少女兵か!」直ちに体勢を整え発砲した。しかしマナ壁で届かない。


「敵は一人残らず死ねぇぇ!」


 フローラが手を薙ぐとゴキゴキゴキッと鈍い音がして男の首が捻り飛んだ。そのまま残りの男達に肉薄すると結界チョッキの上から至近距離でマナ弾を撃ち込む。ドパッと血が噴き出し一瞬で絶命した。


「はぁはぁ……!」


 純白の吐息が闇に溶けていく。ブロンドと白い肌が血に染まっていた。少年達が集まってくる。


「はは、雑魚いな。こいつら、普通人(モブ)の兵隊かよ」


 少年は男の首を蹴飛ばした。兵隊の中には金で雇われた異人が紛れていることがあるのだ。普通人だと高を括っていると自分達が狩られかねない。


「た、助かったんだぁ……あはは! ありがとうございます……あなた達はパルチザンですか?」


 命が助かった姉妹は泣きながら笑っていた。フローラは大きく頷く。


「うん、そうだよ! 町で活動しているの。家族を連れ戻すためにね」


 フローラの母親と妹は「楽園」と呼ばれる強制収容所にいる。そこは劣悪な環境で囚人はいつ死んでもおかしくないが、それでも生きていてくれればまた会えると思っていた。


「これから村へ行くけど、あんたたちはどうする?」


「私たちはこの先で地下組織のアドルガッサーベールと合流します」


「そっか。あんたたち視たところ精神感応系(イー・エス・ピー)だね、戦闘は不利だ……エリク!」


 エリクと呼ばれた少年が二丁の銃を姉妹に渡した。


「ほらよ。敵と遭遇したら必ず三発は撃てよ、どっかに当たるから。捕まりそうになったら自分を撃て。弄ばれて死ぬよりマシだろ」


「はい! そちらもお気をつけて」


 フローラ達は姉妹の後ろ姿を見送ると、再び村を目指して歩き出した。その場には死体と大量の血痕が残される。しかし吹雪は止むことを知らず、次第にそれらを消し去っていった。

【参照】

アデルキリアとアドルガッサーベール→第十二話 せっかく異人の友社に入社できたのに私の知能が低すぎる件【落合茉里咲】

アドルガッサーベール①→第七十六話 異能研

アドルガッサーベール②→第百二十二話 五大元素

アドルガッサーベール③→第百八十七話 シュネーレーゲンブルク

アドルガッサーベール④→第二百五十七話 赤目の支配者は笑う

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