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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百四十六話 手腕家の傾聴

 南は小柄なわりによく食べた。黙々と料理を口に運ぶその姿は、腹を空かせた野良ネコのようであった。隣でソフィアが慣れない手つきで世話を焼いている。常に執事やメイドに囲まれて育ってきた愛娘は、世話を焼かれることはあっても逆はあまりない。その珍しい光景をフィルが微笑ましそうに眺めていた。


「先輩……美味しいですか?」


 南は小さく頷いた。


「そ、そうですか! これもどうぞ、ミリアの自信作です!」


 ソフィアが甲斐甲斐しくローストビーフを取り分ける。南はそれをフォークでザクッと突き刺すと口の中へ放り込んだ。「あ……」その様子をソフィアは目を丸くして見ている。ポカンと口を開けるソフィアを見て、ミリアが「ふふ!」と吹き出した。


 フィルはナイフとフォークを置くと口元を拭いた。


「南くん、いつも食事は一人ですか?」


「うん」


「お姉さんはお仕事で忙しいんでしょうね。またうちに食べにきてください。あまり一人でいたらいけません」


「なんで?」


「食事はみんなで食べた方が美味しいでしょう」


「よく……分からない」


 南は小さな声で呟いた。



 ◆



 食後、南はソファーに座って夜景を見ていた。ソフィアは風呂で席を外している。バックにはクラシックが流れており優雅な時が過ぎていく。フィルは南の向かいに腰を掛けた。


「食事はどうでしたか」


「……おいしかった」


 目の前の少年は表情に乏しく感情が欠落していた。娘とさほど年齢の変わらない少年の将来を考えると胸が痛む――しかし南は誘拐犯からソフィアを助けてくれた。そして学校でも面倒を見てくれている。全てが欠落しているわけではない。フィルはそう思っていた。


 オープンキッチンの中ではニックとミリアが食器を洗っていた。カチャカチャ……静かな空間に食器が擦れる音が響いている。クリスがケーキとコーヒーを運んできた。


「高広屋の限定品ですよ。どうぞ」


 フィルはコーヒーを飲みながら微笑んだ。


「まずはお礼を言わせてほしい。誘拐事件で君がソフィアを助けたとシュウくんから聞いています。君のお陰で旅行が台無しにならなかった。ありがとう」


「別に……任務だったから」


「そうですか? 風の噂で聞いていますが、君の任務はカラーズという組織の検挙だったでしょう。君は自分の意志でソフィアを助けた。そして、お姉さんでも警察でもなく……シュウくんに託した。違いますか?」


 その問いには答えず目の前のケーキを口に運ぶ。


「君とは一度こうやって話したかったんです。ギルハートの任務に参加してくれるんですね。お姉さんも同行するとか」


「うん、そうだよ」


「その任務にはシュウくんも参加する予定です。ご存じですか?」


 一定のリズムを刻んでいたフォークが止まった。フィルはソフィアから事情を聞き二人の関係を知っている。一流のビジネスマンであるフィルは洞察力に長けていた。言葉を交換しながら人の心を探っている。これはある意味での攻め――フィルは南に興味があったのだ。


「ギルハートへ行く前に聞いておきたかったんです。君達はどういう関係ですか?」


 南はケーキの切り口を見たまま答えた。


「……殺し損ねた相手」


「なるほど」


「あまりないんだ……僕が標的を殺せないこと。あの時は邪魔が入ったんだ……あのおばさん強かったから」


 南から冷気(マナ)が漏れ出ている。口元は微かに笑っていた。急速に部屋の温度が下がっていく。ニックとミリアの視線が南に向けられた。


「この前、電拳のシュウが協会に来てギフターと試合をしたんだ。僕と戦った時より強くなっていた……今やったらどんな結果になるのか……ちょっと楽しみ」


「シュウくんを殺したいのですか?」


 フィルの問いに南は顔を上げた。漆黒の瞳がフィルの目を見据える。


「ううん。姉さんがシュウとは戦わないって決めた……だから殺さない」


「そうですか」


 南の視線を受け止めながら相槌を打つ。聞き耳を立てる周囲の表情は硬いが、フィルは微笑を浮かべたまま南を見ていた。


「僕はシュウの大切な人を守れなかった」


「……ん?」


 話の風向きが変わった。真意が掴めない。フィルはコーヒーを飲んで間をつくる。


「シュウは必死だった……任務でもないのに。アリスもココナも他人のために死のうとしていたんだ。人は遅かれ早かれ死ぬのに……まだよく分からないけど最近少し思うんだ。多分死に方が大事なんだって」


 南はそこまで言うと、再びケーキを口に運び始める。冷気が霧散し部屋の温度が少し上がった。


(ふむ……)


 もう少し彼の心に触れてみよう――フィルはそう考えた。

【参照】

ソフィアを助けた南→第二十七話 黒川南とフィオナ=ラクルテル

シュウとバトル→第四十五話 絶対零度

殺し損ねた→第四十六話 雷火のラン

南の後悔→第六十三話 無登録難民の居場所

他人のために命を懸けるアリス→第百八話 魔女の千里眼

南に興味があったフィル→第百二十五話 ソフィアの再会

他人のために命を懸けるココナ→第二百二十九話 迫りくる恐怖

シュウから南との関係を聞いたソフィア→第二百三十六話 シュウと南の関係

ギフターと戦ったシュウ→第三百三十九話 少年と殺気と理不尽な一撃

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