第三百四十五話 南、エリソン家へ招かれる
南が訓練室を出てロビーに入ると、そこに一際背が高い黒人の男とメイドの少女がいた。男の首にはギフター証が掛けられている。アメリカ支部のBB級と書いてあった。
「先輩、どうしたんですか?」
後ろからソフィアが追い付いてくる。ヒョコッと南の背中から顔を出すと、パアッと笑顔になった。
「ニック! ミリアも来てくれたのね」
「お嬢さま、遅くまでお疲れ様でした」
ニックと呼ばれたギフターが頭を下げた。メイドのミリアは表情を変えずに南を見ている。いや、マナを視ていた。ジッと視線を動かさない。ダークブラウンの髪と透き通る肌、そして翠眼……造形は整っているが無愛想だった。南はそのプレッシャーに負けて、ふいっと視線を逸らす。横を通り過ぎようとした。
「先輩! 待ってください」ソフィアは南の腕を掴んだ。「……なに?」南はぶっきらぼうに振り返る。
「ねえ聞いて! こちらが私の異能の先生! 南先輩です!」
ソフィアは胸を張って南を紹介する。何故か誇らしげだった。そして南を見上げるとこう続けた。
「先輩、あちらはギフターのニックとメイドのミリアです。どちらも私の護衛なんです」
「……別に聞いてないけど」
南は塩対応だ。ニックは笑いながら口を開いた。
「覚えていないと思いますが、私は五年前に君と会っています。君は初等部にいて私はアメリカから異能訓練に来ていました。やっと去年BB級に上がりましたよ。君はAA級に上がったそうですね。おめでとうございます」
ニックが握手を求めるが南は応じない。ソフィアが慌てて間に入った。
「ごめんね、ニック。先輩は照れ屋なの。異能以外はちょっとダメなところがあって……」
これではどっちが先輩だか分からない。ニックは吹き出した。
「はは、構いませんよ。ところで南くん、今日この後のスケジュールは決まっていますか?」
南は首を横に振った。
「旦那様が君を家に招きたいと言っています。これから行きましょう」
ニックの言葉にソフィアの笑顔が輝いた。
「パパが? それはグッドアイディアね! 先輩、いいでしょう?」
ソフィアのテンションに南は引き気味だった。ただでさえ陽気な外国人と仏頂面のメイドが独特なオーラを放っている。行くわけがなかった。
「僕は行かな……」
ソフィアが南の言葉を遮った。
「華恋先輩とアリス先輩に聞いたんですけど、先輩って部屋に帰ってもチョコとゼリーしか食べないのでしょう? そんな食生活じゃ病気になってしまいますよ。私の家にはご馳走があります!」
「……ご馳走?」
「はい! ミリアとクリスの料理はプロ級です! 行きましょう?」
「……」
南は無言で頷いた。
「チョロい」
そのやり取りを見ていたミリアが小声で呟いた。
◆
氷川SCの一等地にそびえ立つタワーマンション。氷川タワーレジデンスのペントハウスがソフィアの自宅だ。エレベーターを降りると目の前が玄関である。扉を開けると映画俳優のような金髪の男が笑顔で立っていた。父親のフィルである。
「パパ、ただいま!」ソフィアがフィルの胸にダイブする。「ソフィー、お帰り!」フィルのテンションも高かった。その後ろで執事服を着た初老の男、クリスが微笑んでいる。
幸せそうな家族――しかしそれがとても儚く見える。南はそう思った。
「君が南くんかな。ソフィアがいつもお世話になっているようです。ありがとう」
フィルは南の肩に手を置いた。「別に……なにもしてないけど」南はそう言うとフィルの顔を見た。元気を装っているが不自然に痩せている。顔色も悪い。マナが薄くなっていた。明らかに衰弱している。
「取り敢えずリビングでくつろいでいて。ジュースでも飲みますか?」
「うん」
「先輩こっちです! 案内します」
ソフィアが南の手を引いてリビングへ入っていく。クリスがドリンクの準備をしにキッチンへ向かった。フィルは南の背中を見送るとこう問うた。
「ニック、どうだい? 噂の南くんは」
「……対峙するだけで冷や汗が止まりませんね。マナの底が見えません。どういう制約であの境地に到達しているのか分かりませんが……」
「うん、なるほど」
フィルは頷くとミリアを見た。視線の意味することを察してミリアが口を開く。
「学校で一番お嬢様の身近にいる彼なら……お嬢様の異変に気が付いていると思います」
「そうか。呼んで正解だったな」
フィルは短く答える。先刻までの子煩悩な顔ではない。厳しい表情を滲ませていた。
【参照】
護衛のニック→第百二十五話 ソフィアの再会
メイドのミリア→第百二十六話 ソフィアの愛
ニックと南→第百二十九話 ソフィアの学校生活
異能以外はダメ①→第二百五十五話 ダメダメなキミが気になる腹黒少女
異能以外はダメ②→第三百二十話 女騎士とマドレーヌ




