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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百四十四話 月の精霊は笑う

『わらわはフローラでありソフィアでもある。だが、月夜叉――エストリエと呼ばれる方がしっくりくるのう』


 ソフィアは南の手を取って自分の頬に添えさせる。手から伝わってくるマナは圧倒的な強さを秘めていた。カラーズが手も足も出なかったのも頷ける。


『わらわは人間の言葉で言うところの神や精霊、悪魔や妖怪。……月の精霊という表現が一番近いかの。遙か昔、東欧で生まれて七百年は生きておる。容姿は子供ゆえ、サブカル的に言うならロリばばあじゃな!』


 エストリエと名乗るソフィアがピョンと飛びついてきた。随分と俗世的な精霊だった。


「……ハーフハーフってどういう意味?」


『ソフィアを愛し守りたいと執着するのは母フローラの残留思念。実際に異能を使うのはわらわじゃ。まあ我らはマナで強く結び付いておるから同一視しても構わんが、大きく違うことがあるとすれば、わらわはこの娘に対して深い愛着はない』


「じゃあなんで憑いているの?」


『フローラは死に際にフィルとソフィアを強く想った。異常なほどにな。それが死後も残る執念……残留思念となったのじゃ。もともと訳あってフローラに憑いていたわらわはその思念と一緒にソフィアのマナに焼き付けられてしまったのじゃよ。迷惑な話じゃ』


 ソフィアは自身を指差して笑う。


『フローラは幼少期に東欧のアデルキリアで戦争に巻き込まれた。過酷な殺し合いの中で狂気を宿しての。桁外れな異能を秘めて十歳やそこらで異人島のギャングのボスになった。そうそう、今のソフィアくらいの年齢じゃ。盗み、殺し、臓器売買、なんでもやった。お主が最初に抱いたソフィアのイメージはこちらであろう』


 ソフィアは気分が高揚しているのか話が止まらない。南は冷めた目でそれを見ている。


『フローラは血と争いを好むサイコじゃったが……異人島へ視察に来たフィルに一目惚れしたのじゃ。ギャングのボスがアメリカの御曹司にな。いやぁ、大恋愛じゃったよ。なれそめを聞きたいか? 聞きたいであろう?』


 ソフィア――エストリエはおしゃべりだった。ソフィアがあまり活発に喋る性格ではないので溜まっていたのかもしれない。そこで南が口を挟んだ。


「憑依の条件(トリガー)は……ソフィアへの敵意?」


 己のマシンガントークに気が付いたソフィアはハッとなった。ペロッと舌を出してはにかむ。


『その通りじゃ。フローラはこの娘への敵意(・・)に過剰に反応する。ソフィアが敵と認識するとそれはフローラに伝播し本体(ソフィア)の意識を乗っ取る。そして対象を殺そうとするのじゃ。条件反射のようなもの――カウンター型の異能と言って良い。フローラの愛が深すぎるのじゃ』


「……」


『だからあの時……ヴィオラといったかの。初等部の校舎でソフィアとヴィオラが揉めた時、お主が間に入ったのは正解じゃった。お主が盾にならなければヴィオラを殺していたであろうよ』


 南はピョンピョンと纏わり付いてくるソフィアの頭を押さえながら問う。


「どうして……急激にソフィアのマナが濃くなった?」


『それは違う。今のソフィアは不安定で希薄な存在となっている。マナは濃くなっているのではなく薄くなっているのじゃ。その分、わらわとフローラのマナが漏れ出て濃く視えている、ダブって視えている……反比例の関係じゃよ』


「ソフィアの精神が不安定な理由は?」


『母親の死、誘拐事件の惨劇、来日による生活環境の変化、将来への不安と焦り……あとは……』


 しばしの沈黙。ソフィアは微妙な表情を浮かべて南を見る。何かを告げようとして口を閉じた。


「……なに?」


 南は首を傾げた。


『うーん。これをわらわの口から伝えるのはどうなんじゃろうなぁ。人間の感情というものはよく分からん。ま、情緒不安定になるとフローラも過敏に反応するからの。今のソフィアはかなり危うい状態じゃな』


「このままソフィアの症状が進むとどうなる?」


『問題は二つある。まずフローラは今もフィルに執着しておる。フローラに悪気はないがフィルの生気(マナ)は吸われ続けておる。いずれは死ぬるな……卑猥な表現をすると、生者と亡者のえっちっちじゃ。きゃは♪』


 ソフィアは頬を染めてもじもじしている。七百歳の少女が照れていた。


「もう一つは?」


『日に日にソフィアは弱っていることじゃ』


「弱ったまま放っておくとどうなるの?」


 ソフィアは一瞬ためらったが口を開いた。


『ソフィアの人格や想いは――消えてしまうな』


――七時の時報が鳴った。監視カメラがオンになる。ソフィアはふらついて南に寄りかかってきた。


「あれ……私……?」


 ソフィアは南の顔を見上げて真っ赤になった。


「ご、ごめんなさい! 私ったらこんなこと……!」


 慌てて身体を離した。耳まで赤くして小さくなっている。


「もう七時だから帰るよ。君も迎えが来ているんじゃないの」


 南はソフィアに背を向けて歩き出した。その背中にソフィアは声を掛ける。


「あ、あの! 先輩」


「なに?」


「あ……なんでもありません」


 ソフィアは何かを言いかけて言葉を呑み込んだ。その表情は暗い。南はそんなソフィアを置いて訓練室を出て行った。

【参照】

フローラとの死別→第六話 冬の日

アデルキリア→第十二話 せっかく異人の友社に入社できたのに私の知能が低すぎる件【落合茉里咲】

フローラ→第七十五話 フローラ=エリソン

ソフィアの変化①→第百二十五話 ソフィアの再会

ソフィアとヴィオラの喧嘩①→第百六十話 ソフィアとヴィオラ

ソフィアとヴィオラの喧嘩②→第百六十一話 ソフィアのモヤモヤ

異人島のギャング・月夜叉①→第百七十九話 絶海の孤島

ソフィアの変化②→第二百三十五話 モブの気持ち

異人島のギャング・月夜叉②→第二百九十一話 闇の少女は光を纏う

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