第三百四十三話 ハーフハーフの降霊
黒川南とソフィアは協会の異能訓練室にいた。ソフィアにマナ・コントロールを指導した南は既に自主練に入っている。訓練室の監視カメラはオフにしていた。これはAA級ギフター以上に与えられた特権である。
制限時間はあるものの、この特権を利用して新しい異能に挑戦したり必殺技を考えるギフターは多い。当然この間に問題を起こした者は懲戒処分の対象となり降格、もしくは除名を免れない。
そんなことを知らないソフィアは備え付けのベンチに座ってボーッと南の<氷結能力>を眺めていた。貸し切りで二人きりだ。時刻は六時を過ぎている。初等部の生徒はとっくに帰宅している時間帯だが、部活や訓練をする者は残っていることもある。
(どうして先輩はマナが切れないんだろう)
氷槍、氷結、氷根、氷壁、雪嵐、氷剣……マナ切れを起こすことなく淡々と繰り返す。ソフィアはマナを展開し冷気から身を守りながら観察していた。
(先輩に誘拐事件のお礼を言いたいんだけど……今更感が半端ないような気がするわ)
言いそびれてしまっていた。時間も経ちすぎている。何も言わない南に責任があると思いながらも、モヤモヤしていた。この気持ちがなんなのか自分でも分からない。アンナや瑠璃にも相談できない。誰にも愚痴をこぼせない。誘拐事件が公になっていないからだ。目の前にいる朴念仁以外に真実を知る者はいないのだ。
(そう言えば、最近はアンナと瑠璃と話す時間がないな。私、避けられているのかな……ううん、そんなことない。私たちは親友なんだから……)
ソフィアはベンチに座りながら目を閉じた。しばらくすると寝息が聞こえてくる。ソフィアは日頃の疲れでうたた寝を始めた。
◆
南は一息ついてペットボトルの水を飲んだ。気が付くと七時近くになっていた。ソフィアの寝顔を一瞥してから監視カメラを見上げる。あと十分でモニターがオンになる時間だった。
「久々に……あれやろうかな」
南は訓練室の中央に戻った。深呼吸をしてマナを練る。南は外マナ型に寄るが内包するマナ量も相当多い。
(リミッターを解除する)
異人は異能を使う時、脳を過度な負荷から守るために力をセーブする機能を備えている。これは本能に近いもので無意識下で機能する。しかし<リミッター解除>で限界を超えて異能を発動させることができる。これはA級以上のギフターが習得している禁術だった。
南は軽い頭痛を伴いながら前頭葉のマナに意識を集中した。訓練室の気温が一気に下がっていく。禁術を発動させる準備が整った。あの夜、雷火のランに対して放とうとした技だ。しかし激しくなる頭痛がマナ・コントロールを乱す。南が強引に発動させようとした時――。
『寒いのー。わらわを凍死させるつもりか?』
鈴を転がすような声が響いた。驚いて振り返るとソフィアがベンチから立って南を見ていた。しかしいつものソフィアではない。声や表情が違う。そして纏うマナ量がかなり増えていた。
『その技は使うな。マナが足りてもお主の未熟な身体が耐えられぬ。サイコの姉や銀色の娘が悲しむ結果となろうよ。ソフィアも泣くであろう』
南は冷気の展開を解いた。ソフィアから視線を外すと溜息をつく。
「ずっと……あんたを待ってた。ソフィアの母親……フローラ=エリソン」
『ほう、やはり監視カメラを切ったのは降霊を狙ってのことか。普段のお主はダメダメだが異能のことになると天才じゃのう。いつからわらわの存在に気付いておった?』
ソフィアはその外見とは裏腹に古風な口調で問う。
「初回の訓練から……ソフィアの経歴読んで、病死した母親が怪しいって思った。どうしても僕の中でカラーズを殺したソフィアと今のソフィアのイメージが合わなかった。この解離性、すぐに憑依系を連想した。カラーズが死んだ時――あれは異能の暴発じゃなくてフローラがソフィアを守ったんじゃないの?」
ソフィアは妖美な笑みを浮かべながら南の前へ立った。その表情は初等部のあどけなさを残しながらも妙に艶っぽい。チグハグな感じが不気味に映る。
『半分正解で半分不正解。ハーフハーフじゃな』
南を見詰めるソフィアの瞳が妖しく光った。
【参照】
カラーズを殺したソフィア→第八話 ソフィア=エリソン
南に救われたソフィア→第二十七話 黒川南とフィオナ=ラクルテル
ランに放とうとした禁術→第四十六話 雷火のラン
ギフターのリミッター→第百二十四話 未完成の電拳
アンナと瑠璃→第百二十九話 ソフィアの学校生活
南の初回の訓練→第百三十話 ソフィアの訓練
憑依系のソフィア→第百八十二話 また会いましょう
南に礼を言いたいソフィア→第二百三十七話 南の言葉




