番外編 バイス家、夜の一幕
昨日は体調不良のためお休みさせて頂きました。
訪問して下さった方、申し訳ございません。
:;(∩´﹏`∩);:
「ハルさん……見て、カワイイ。ハルさんそっくりの、本当にカワイイ男の子よ」
「ああ……本当だね、可愛い。世界一可愛いよ、ありがとう……ありがとうミルルっ……」
「ふふ、ハルさん泣いてる」
「だってだなミルル……」
「うん、わたしも。わたしも坊やのお顔を見た瞬間、わんわん泣いちゃった……」
「ミルル。俺は絶対に、絶対にこの子とキミを幸せにすると誓うよ」
「あらもう充分幸せよ?それにハルさんも幸せでいてくれなきゃ、わたしも坊やも幸せにはなれないわ」
「そうだね、うん、そうだ。家族みんなで幸せになろう」
「はい、ハルさん」
ハルジオとミルルの第一子リュートが誕生した。
ミルルは初産にしてはお産の進行が早く、あれよあれよと分娩に挑んだ。
そしてあれよあれよと玉のような可愛い男児を産んだのだ。
出産後すぐに始まる問答無用の育児にも、ミルルは持ち前のマイペースさを遺憾なく発揮した。
二時間おき(下手すりゃ一時間強)に起こされる夜の授乳も、
「まぁまぁリューくんは食いしん坊さんですねぇ」
と言って寝ぼけまなこではあるものの、寝不足を負担に感じる事なくこなしていた。
ナーバスになっているのはハルジオの方である。
「ミルル、大丈夫か?」
勤めのあるハルジオが睡眠不足になってはいけないからと寝室を分けているのにも関わらず、リュートの授乳の度にこうやって様子を見に来るのだ。
「まぁハルさん、わざわざ起きて来なくていいのに。何のために寝室を分けているのかわからないじゃない」
「でもキミが倒れないか心配なんだよ」
「わたしは平気よ?空いた時間にお昼寝しているもの。それよりハルさんの方がお仕事の疲れもあるのに倒れてしまわないか心配だわ」
「俺は体力もあるから平気だ。………くっ…」
「なぁに?」
「俺にも母乳が出れば……夜中の授乳も交代制に出来るのにっ……」
「ぷっ……!ふふ、ふふふふ」
そんな事を本気で言って、力いっぱい悔しがるハルジオを見てミルルは笑った。
そしてハルジオに言う。
「ありがとうハルさん、わたしの事を心配してくれて。でもわたしは本当に大丈夫よ。夜中の頻繁な授乳も一時の事だと菫さんに聞いているし。それにね、わたし嬉しいの」
「嬉しい?どうして?」
「だって、おなかを空かせて元気に泣いてくれるのはリューくんが健康な証でしょ?お乳の出も良好だと産術師さんにも言って貰えてるし。だから本当に嬉しくて」
そう言って愛おしそうに我が子を見つめる妻を見てハルジオは心が震えた。
「ミルル……」
「我が妻は聖母である」と、
かつて友人のレガルドが言っていた言葉をハルジオは思い出していた。
『ハルジ。子どもが生まれたらな、愛する妻が更に聖母になるんだぞ。俺の菫ちゃんなんかな、元々が菩薩なのにさらに聖母にまでなっちゃったらもはや如来…いや森羅万象の祖そのものだ」
などとこの時はそう言ったレガルドの事を、コイツ相変わらず馬鹿だなと思って聞いていたが今ならわかる。
そう、妻は聖母神となったのだと……!
「ハルさん?どうしたのぼぅっとして。やっぱりすぐに寝た方がいいわ」
ミルルの声にハッとしたハルジオが慌てて言う。
「いや、ごめんなんでもないんだ。それならゲップをさせてから寝るよ」
「そう?じゃあお任せしようかしら。ハルさん、肩にタオルをかけて」
「こうだね?」
ハルジオは自身の肩にタオルをかけて授乳が終わった息子を引き受ける。
「優しく背中をトントンするか、さすさすしてあげてね」
「こうかな?」
新米パパが教えられた通りに背中をトントンする。
「ふふ、パパさん上手ですよ~」
「意外とずっしりしてるものなんだな」
「命の重みよね」
「本当にそうだな」
と、二人で息子に優しげな眼差しを向けていたその時……
「けぽっ」
「うわっ!?」
「きゃー大変!リューくんがマーニャンコしたわっ」
ミルルはそう言いながらハルジオの背中に飲んだお乳を吐いてしまったリュートを受け取った。
幸いリュートの衣服は濡れていない。
全部ハルジオの背中が受けたから。
「マーニャンコ?」
「故郷の湖にある、猫の顔をした人魚の大きな像よ。開けたお口から大量の水を吐き出している噴水なの。ふふふ、今のリューくんがそのマーニャンコみたいだったから」
「なるほど……」
ハルジオはぐっしょり濡れたパジャマでそう言った。
「ハルさんは着替えて来て。新しいパジャマは脱衣所に置いてあるから」
「分かった。なんか却って仕事を増やしてごめんなミルル」
「ふふ、気にしないで。月齢が低いとよくある事だと菫さんに教えて貰ったから心配はいらないわ」
「スミレさんは神だな……」
「ふふふ」
そんな風に近頃のバイス家の夜は更けてゆくのであった。
◇◇◇◇◇
「チビハルジ~、キミはホントに嫌になっちゃうくらい親父にそっくりでちゅねー」
レガルドがリュートを抱いてそう言った。
「嫌になるとはなんだ嫌になるとは」
「顔が既にハルジだ。救いなのはミルルちゃんの美しい黒髪を継いだ事だな」
「そうだ。将来はアデリオール一の美男子になるのは確定だ」
「はい出ました親バカ1号~」
「1号はお前だバカ」
「なにおぅ」
「喧しいよアンタたち!赤ん坊の前で醜い争いなんてしないでおくれ」
相変わらずの男二人の会話にアパートの大家であるミス・ポワンフルが釘を刺した。
そしてレガルドの腕の中からリュートを取り戻し、プレイマットの上で転がっているのばらの隣に寝転がした。
「それにしてもリュー坊とのばらちゃん、こうやって二人並べると美男美女。なんともお似合いな二人じゃないか。将来は結婚したりしてね?」
ミス・ポワンフルのその言葉に、レガルドが椅子から立ち上がって抗議した。
「なっ!?冗談じゃないぞっ!!のばらはどこにも嫁がせないからなっ!!」
「アンタ……蕾ちゃんにもそう言ってるじゃないか……娘二人共一生手元に置いておくつもりかい?」
「一生手元に置いておくつもりだっ」
力強く明言するレガルドにミス・ポワンフルは呆れ顔で言った。
「何を馬鹿な事を……スミレ、アンタの旦那があんなバカな事を言ってるけどいいのかい?」
「ふふ。娘を持つ父親とはそういうものだと聞いてますもの。私の父も私はどこにもお嫁に出さないと言っていたそうですよ」
「それが李亥家の馬鹿ボンに見初められちゃったと……なんだい馬鹿ボン、アンタもそうやって他所様の大切な娘を掻っ攫ったんじゃないかい」
「馬鹿ボンとはなんだ馬鹿ボンとは……まぁ確かに菫の事は掻っ攫ったけどそれとこれとは話は別だよ」
「別なもんかいこのスケベがっ」
「蕾ものばらも助平野郎どもにゃ指一本触れさせないぞ……娘が欲しけりゃ俺を倒す位の気概のある奴でないと絶対に認めん」
レガルドの宣言にハルジオがニヤリと笑う。
「じゃあ俺は息子を徹底的に鍛えるよ。そしてのばらちゃんはうちの嫁になるわけだ」
「な、なにおぅっ!?」
まさかのハルジオからの宣戦布告である。
「ぼくもおてちゅだいしゅる!」
もうすぐ四歳になる楓がハルジオに言った。
「楓っ!?」
「お、楓が加勢してくれるならリュートは鬼に金棒だな。ありがとう楓」
「うん!」
ハルジオは優しげな笑みを浮かべ、大きな手で楓の頭を撫でた。
「ケーキがやけましたよ~」
その時、蕾が焼きたてのパウンドケーキをトレイに載せてキッチンから出て来た。
「お、上手に焼けたなちゅぼみ」
レガルドがそのトレイを受け取ってテーブルに乗せた。
「初めてにしてはとても上手に焼けていたわ」
「手際もなかなかだったわよね」
菫とミルルがお茶をテーブルに用意した。
テーブルにはその他、菫とミルルが作ったお茶菓子が所狭しと並んでいる。
「さぁ、ではみんなでお茶の時間にしましょう」
今日は皆で楽しいお茶会の日。
父親達は軽口を言い合い、母親たちはミス・ポワンフルと子育ての話や料理の話に花咲き、子ども達は仲良く遊んでいる。
紆余曲折あったけれど、
それぞれ幸せな形へと辿りついた家族たちの憩いの時間であった。
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あと二話で番外編も最終話です。




