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さよならをあなたに  作者: キムラましゅろう


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番外編 菫の復職

今回の番外編は里帰りから数年後、

のばらたんも幼児園児になった頃のお話です。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






次女のばらも王立幼児園に通うようになり、

菫は週三回、十時から十五時までの時間帯で魔法省に復職する事になった。


もともとが準職員である事からこの時短勤務が可能になったわけだ。


復職を機に違う部署への転属を……という話が人事の方で出たらしいのだが、()()()()()()()次の日には元々勤めていた特務課への配属が決まった。



「陰で旦那の暗躍臭がプンプンするね」


と、特務課長のウォーレン=アバウトが言った。

菫は肩を竦めて笑う。


「ふふふ」


「スミレはそれでいいのかい?違う部署の仕事もしてみたかったんじゃないのかい?」


「いいえ。私はこの特務課の皆さんが本当に大好きですから、またこうして皆さんと一緒にお仕事が出来て嬉しいです」


菫がそう答えると、男嫌いで絶対に男とは喋らないと決めているミーガン=アダムスが菫に抱きついた。


「スミレ~!嬉しい事を言ってくれるわね~!男ばかりでむさ苦しくて臭い特務課に貴女が戻ってくれて本当に嬉しいわ~!空気が浄化される気分よ~!」


菫にそう言ったミーガンに、今日は頭だけネズミに変下へんげしたトミー=コーディが言う。


「酷いなミーガンさん、むさ苦しいのはその通りとしても臭くはないでしょう~」


【臭いわよっ!男臭くて窒息しそうよ!】


と、魔術を用いてスケッチブックに一瞬にして文字を書いたミーガンが筆談で返した。


「男臭いってのは良い意味だろうか?それとも悪い意味だろうか?」


ムキムキマッチョだが繊細な手芸が大好きな乙メンのフランキー=リュドヴィックが言うと、今もかぎ針編みで小さな靴下を編んでいるフランキーに菫が訊ねた。


「その可愛い靴下はお子さんのですか?」


フランキーは編んでいる水色の毛糸の靴下を菫に見せた。

彼は去年、お見合いの末に年上の女性と結婚している。

そしてあと三ヶ月もすればパパになるのだ。


「そうなんだ。男の子だと分かっているから、今からせっせと編んでいるんだよ」


「まぁ、可愛らしい……!いつ見ても本当にお上手だわ」


菫が感心するとフランキーは嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうスミレさん。また空いた時間に一緒に手芸が出来ると思うと嬉しいよ」


「私もです」


「オヒョオヒョオヒョ」


珍妙な笑い声を出して特務課のマッドサイエンティストであるアンセル=ビゴーが菫に何やら差し出した。

彼の手の平の上に乗っている小さな小瓶を見て、菫はアンセルに訊ねる。


「ビゴーさん、これは?」


「オヒョ、菫の花のエッセンスじゃ」


「まぁ菫の花の?」


アンセルは鷹揚に頷いて説明した。


「東方の国から菫の花を輸入してエッセンスを抽出したのじゃ。香水として肌につけても良し、クリームや紅茶に入れて香りを楽しむのも良し。復職祝いじゃオヒョオヒョ」


「ビゴーさん……こんな素敵な物を……本当にありがとうございます」


菫は小瓶を受け取り、心を込めて礼を言った。


「オヒョオヒョオヒョ」


アンセルが照れくさそうに笑ったその時、

相変わらず仲良く啀み合いながら元主従が特務課の部屋に入って来た。


「だから若があそこでもうドカンと一発ぶちかましてくれりゃあ手っ取り早く終わらせられたんじゃないですか」


「阿保かお前は。あそこで大きな力を使ってみろ、無関係な人間も巻き込む事になるだろう」


「そこはホラ、上手い事ピンポイントで容疑者だけを」


「んな事出来るわけねぇだろっ」


レガルドと主水之介、どうやら任務を終えて戻ったらしい。

そんな二人にアバウトが声を掛けた。


「二人ともお疲れ様~。どうだった?上手く捕縛できた?」


課長のデスクの前に居た菫の元にレガルドと主水之介がやって来て、報告をする。


「滞りなく任務完了です。王立図書館の禁書庫の鍵を要求した犯行グループは全員捕縛済み、騎士団員が数名いたので騎士団に引き渡して来ましたよ。人質にされた女性司書も無事解放です」


レガルドの報告に主水之介が口を挟んだ。


「聞いて下さいよ課長。若の奴、相手が騎士と知ると腕試しをしたくなったのかわざわざ刀を抜いて峰打ちで鎮圧したんですよ?ドカンと異能を使ってくれりゃあ一瞬で済んだのに」


「お前それまだ言うか?」


二人のやり取りにアバウトが言った。


「でも禁書庫の前だったんだよね?あそこは魔術使用禁止区域だから使ったら大変な事になるよ?それで良かったんだよ」


「えー……俺もうへとへとですよ……なんでこんな苦労をしなくてはいけないんですかねぇ?」


「仕事だからじゃない?」


「ふふふ」



変わらないやり取りを聞き、菫は微笑んだ。

そんな菫にレガルドが肩を抱く。


「菫、今日はそろそろ上がりか?」


「ええ。のばらをお迎えに行って帰るわ」


「送って行こう」


そう言って菫を連れてさっさと転移しようとするレガルドにアバウトが待ったを掛ける。


「ちょっと?駄目だよ?この後すぐに新しい案件の対策会議だよ?」


「一瞬ですよ、一瞬」


「一瞬でも駄目だよ?」


「チ、」


舌打ちする夫に菫は言う。


「レガルド様。お仕事頑張って下さいね」


暗に仕事を優先させて欲しいと匂わすと、レガルドが捨てられた子犬のような顔をした。


「菫……仕事終わったら秒で帰る」


「ふふふ」


これもまた職場で相変わらずな発言をする夫に笑いながら、菫は復職一日目を終えた。




魔法省を出て幼児園にのばらを迎えに行く。


「おかーさま!」


「のばら。今日も楽しかった?」


「うん!でもリューがおかぜでおやすみしたから……ちょっとさびしかった……」


「そうね。でもきっとリュートくんなら直ぐに元気になるわ」


「うん。リューにおてがみかく」


「ふふ。リュートくん喜んでくれるわね」


のばらと二人、手を繋いで転移魔法で家に帰る。


アパートに着き、菫は郵便受けの中を確認した。


生地屋のダイレクトメールやチラシに加え何通かの手紙。

その中に東和紙で作られた封書を見つける。


「あら?故郷くにから?誰かしら?」



宛名を確かめると、そこには懐かしい名前が書かれていた。


【紫檀楼 菊莉・菊香 李亥菫様まいる】



「菊莉、菊香……」




かつて菫が桔梗の君として紫檀楼の遊君であった時に禿として側にいた二人からの文であった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





妓楼のその後が出てきます。



そして次回、番外編も最終話です。



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