番外編 菫の里帰り⑤ レガルドの里帰り
「おちたん?」
「っ~~~……!」
小さなお口で紡がれた言葉に、まるで雷に撃たれたかのような衝撃を受けた菫の二人の兄を見てレガルドは笑った。
「はははは、ちゅぼみたんインパクトだ」
自分がかつて菫たんインパクトを受けたものだからレガルドは他者がその状態になるのが面白くて仕方ないようだ。
満足そうに笑うレガルドに菫の長兄である朔太郎が声を掛ける。
「若君、ご無沙汰しております。此度は妹と姪を連れて来て下さり本当にありがとうございます。いえ、此度の事だけではありませぬ。若君には生涯を懸けても返しきれぬ大恩がございます。どれだけ言葉を尽くしても、この感謝の気持ちは表現しきれませぬ……」
朔太郎はそう言って深々と頭を下げた。
弟の晦之進も続いて叩頭する。
菫も深い感謝の思いを込めて夫を見た。
レガルドは両手を軽く上げて三人に告げる。
「そんな大袈裟な。それに俺はもう若でもなんでもなく菫の夫で義兄上たちの義弟だ。そんなに畏まらないでくれ」
「あ、ちゅぼみのパパ親でもあるぞ」とドヤるレガルドに兄妹は笑った。
朔太郎が菫達に言う。
「さぁさ、積もる話は中で。とにかく家に入ろう。大したもてなしは出来ないがゆっくり寛いで欲しい」
その言葉を受けてレガルドが言った。
「悪い。俺はとりあえず館へ行くよ。来る時に爺ぃに捕まっちまって。アイツら下手すると弓削に押し掛けて来そうだからな」
「ふふ。ご家老様、張り切ってらっしゃったものね」
「棺桶に片足突っ込んでるくせにはしゃぎ過ぎだよな。酒盛りになったらこっちに来れないかもしれない。義兄上達、菫と蕾をよろしくお願いします」
「わかりました。二人の事は心配要りません、どうかお気をつけて」
「いってらっしゃい」
「サクッと行ってくる。あ~あ面倒くせぇなぁ。アイツらホント、俺の事が好きなんだから。きっと今か今かと手ぐすね引いて待ってるぞ」
と言いながらレガルドは菫たちに見送られ、李亥家の居城である戌亥城(通称館)へと転移した。
転移後、接地した場所は館の広間であった。
大勢の家臣が一堂に会する時はこの場所を使うからだ。
きっと家老の長谷倉から知らせを受け、大勢の家臣たちが集まっているはずだ。
案の定、転移してすぐ多くの家臣の姿が目に飛び込んで来た。
皆、レガルドの姿を認め、歓声を上げている。
「レガルド様っ!!」
「若君っ!!」
「お姫様っ!!」
「「「「お姫様っ!お姫様っ!お姫様っ!」」」」
とお姫様コールまで始まっている。
レガルドに娘が生まれたと知り、皆期待して待っていたようだ。
しかし今は蕾を連れて来ていないのでレガルドは声を張り上げて家臣達に言う。
「皆、出迎えご苦労様。しかしすまん、娘は妻の実家に居て連れて来ておらんのだ。まぁ帰るまでに一度は館に……「は?若、どうしてお姫様も連れて来てくれなかったんですかっ!皆に俺とお姫様がどれだけ想い合っているのか知らしめようと思っていたのに!」
レガルドの言葉を遮って主水之介が嘆いた。
「てめぇ……そんな出鱈目なんざ知らしめなくていいわっ!」
「出鱈目なんかじゃないもん!!」
「可愛くねぇんだよっ!」
元主従のやり取りの最中に長谷倉一竜太が横入りをして来た。
「二郎若様、姫君は一緒ではござらんのですかっ?皆、李亥の姫君のご到着を楽しみに待っていたというのにっ」
「無茶言うな。菫も蕾もこっちに帰って来たばかりだぞっ、ゆっくりさせてやってくれ。だからとりあえず俺が飛んで来てやっただろう?」
「ムサい男を見て誰が喜ぶんだ!」
「そうだ!そうだ!」
「姫様をっ、蕾様をっ!!」
「「「「「つ・ぼ・み!つ・ぼ・み!」」」」」
集まった気の置けない家臣達からの無遠慮で容赦ない要求の上に蕾コールまで始まり、レガルドはぶちギレた。
「煩えっ!!誰がてめぇらなんぞに可愛い蕾たんを見せるもんかっ!!」
「横暴ですぞっ!!五十年ぶりの姫御前の誕生をなんだと思ってるんですかっ!!」
「単に俺の娘だと思ってるに決まってるだろうがゴラッ!!」
「狡いぞー!」「姫を出せー!」
「「「「「つ・ぼ・み!つ・ぼ・み!」」」」」
「やかましいわっ!!
喰らえっレガたんインパクトッ(物理)!!」
バリバリバリッッ
ドガガガガッ!!!
「ぎゃーーっ!?」
「若君が雷攻撃をしてきやがったぞっ!!」
「ちょっ!?もう容赦ねえっ!!」
「ふふふ……てめぇら全員黒焦げの消し炭にしてやるっ!!」
「「「ギャァァァッッ!!」」」
レガルドを歓迎しての宴。
いや確かにその通り狂宴となったのだった……。
恐ろしい事に皆これで素面のテンションである。
一の若君である嫡男配下の者が館で幅を利かせていた時分から、レガルドを慕い敬う家臣たちの結束は固くこんな調子でわちゃわちゃとしていたという。
この者たちは皆、本心ではレガルドこそ次の州主に相応しいと考えているようだが、レガルドの意思を尊重して変わらず李亥家に仕えてくれているのだ。
家族にはあまり恵まれなかったが家臣たちには恵まれたと思っているレガルドであった。




