愛しき日々をあなたに 〜魔法省特務課の事件簿〜 菫の異変
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菫とコーディ、そしてミーガンは王都のとあるアパートの一室に居る。
三日前にこの場所で違法術式を構築し、販売していたと見られる容疑者が自殺したのだ。
自殺した容疑者が構築した術式は主に禁忌とされる術式ばかりで、それを闇魔術師ギルドに売っていたらしい。
その闇ギルドは依頼殺人、誘拐、人身売買、違法薬物、魔法生物の違法売買など、かなり凶悪な犯罪を行っていたそうだ。
先日、その闇魔術師ギルドの在処とギルド幹部の潜伏先が地方都市で見つかった。
そして特務課からはレガルド、桐生、フランキーの三名が出動要請を受けて現場に向かったのだ。
ギルドの幹部数名は高位の魔術師たち。
その内一名は上級魔術師との事で地方局の捜査一課の職員では手に負えないと、特務課に救援の要請が入ったのであった。
なのでレガルドは只今地方に出張中である。
(菫が心配だと出来得る限りは転移魔法で帰って来るが)
そして自殺した容疑者がその闇ギルドと取り引きをしていた証拠を集める為に、本省に残った者が捜索に当たっているというわけなのだ。
だが容疑者が禁忌術式を作成していた事を示す物質的な証拠品は何も残ってはいなかった。
容疑者の男が死ぬ直前に全て燃やすなりして処分をした為だ。
証拠がなければ罪の立証が出来ず、犯人達を追及する事が出来ない。
さてどうするか……
このまま証拠品提出不可とするか頭を悩ませていたところ、菫が容疑者の部屋の一画に淀みがある事に気付いた。
「……魔力残滓……?いえ、これは……おそらく魔力を含んだ残留思念だわ」
「残留思念?」
菫に対しては声を出して話すミーガンが訊いてきた。
「亡くなった方が死の直前に強く思った事が魔力を纏って放出され、魔力残滓のように残る場合があるんです。ほとんどが無念や心残りなどの負の感情ですが……」
その話を受け、コーディの表情が明るくなる。
「その話が本当なら、証拠品はなんとかなるかもしれない」
「え?」
「魔力残滓は個人の特定や用いた魔術の種類の判明、そしてその場所にその人物がいた事を示す証拠として法的に認められているんだ。残留思念も魔力残滓と捉えるなら、証拠として提出できる筈だよ」
コーディはそう言い、捜査のために持参した仕事道具の中から一本のスプレー缶を取り出した。
「それは?」
菫がそのスプレーを指して訊ねると、ミーガンがそれに答えてくれた。
「特務課のマッドサイエンティスト、アンセルが発明した魔力残滓を着色して可視化させるカラースプレーよ。今まで魔力残滓はそれを識別できる能力者のみが採取する事が出来たのだけれど、これがあれば魔力残滓を見る能力がない者でも見る事が出来るの」
「すごい……アンセルさんって本当に天才なんですね」
菫が感心して言うとコーディが
「スミレさんに褒めて貰えておひょ、おひょというアンセルの笑い声が聞こえて来そうだね」
「ふふふ」
[ホントね]
そしてコーディは菫が指し示す場所目掛けてスプレーを噴射した。
するとみるみるその場にスプレーでレモンイエローに染められた、雲のような綿の様な物質が現れた。
「可視化出来るなら、この塊を文字と捉えて解読できそうだわ」
ミーガンはそう言ってそれをじっと熟視した。
何かの文字を追うかのように忙しなく眼球が動いている。
そしていつも持参しているスケッチブックにスラスラと書き記していった。
ミーガンが可視化された残留思念から読み取った内容は……
[魅了魔法と金を生成する魔法の術式の構築代金……払って貰ってない……タダ働きなんて冗談じゃねぇぞ……クソが]
「「「…………」」」
「魅了も金を作り出すのも禁術だ、それを行っていたという証明になるね。でもさ、最期の言葉が口汚くて、しかもお金に関する事なんて……ある意味悲しすぎるよね」
コーディが呆れながらも冥福を祈るように目を閉じた。
とりあえずこの残留思念が証拠品として認められるか、法務部にお伺いを立ててみようという事となった。
三人で帰省する為に転移魔法を行う。
だが菫は、先ほど残留思念を可視化させるためのスプレーを使った後くらいからどうも悪心を感じて仕方なかった。
スプレーの独特の香りがやけに鼻についたのだ。
とても転移に集中出来そうにないので、菫はミーガンに一緒に転移して連れ帰って貰う事にした。
そして後日、法務部から残留思念の信憑性が認められた事により証拠品として成立すると返答があった。
その知らせを受けて、コーディやミーガンと共に安堵する。
これで闇ギルドの罪が余す事なく暴かれる事になったからだ。
だが菫の体調は日に日に悪化してゆく。
原因不明の不調に菫は不安になった。
でもレガルドは捜査の大詰めでここ数日は帰って来れていない。
ーーどうしよう……病院に行った方がいいのかしら……なんだか……唇が冷たく……
と思った瞬間、菫の意識は途切れた。




