↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪予定の悪役令嬢は、幸せを諦めない  作者: 高野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/8

【6話】王宮へのお誘い

「君に、王宮へ来てもらいたい」


アルベルト殿下の言葉に、私は一瞬固まった。


……王宮?


ちょっと待って。


私、まだ入学して数日しか経っていないのだけれど。


「王宮、ですか?」


「そうだ。父上が君と話をしたいそうだ」


「国王陛下が……?」


思わず声が裏返りそうになった。


いや、落ち着け。


別に悪いことをしたわけではない。


……いや、前世の記憶を取り戻す前のエリザベートは、かなり悪いことをしていたのだけれど。


「もちろん、無理にとは言わない。だが、婚約についても話し合う必要がある。できれば来てほしい」


「分かりました。お伺いいたしますわ」


私はできる限り優雅に微笑んだ。


内心はまったく優雅ではない。


国王陛下との面会なんて、普通に考えて人生最大級のイベントだ。


しかも相手は、この国の頂点に立つ人物。


失礼なことを言えば、私の未来がどうなるか分からない。


……お願いだから、穏便に終わって。


***


翌日。


私は王宮へ向かう馬車の中にいた。


「お嬢様、緊張なさっていますか?」


向かいに座るマリアが尋ねる。


「そう見えるかしら?」


「少しだけ」


「そう……」


私は窓の外へ視線を向けた。


王都の街並みが流れていく。


王宮は学園からそう遠くない場所にあるらしい。


しかし、実際に向かうとなると話は別だ。


「お嬢様なら大丈夫です」


マリアは穏やかな声で言った。


「ありがとうございます。けれど、今回はさすがに緊張するわ」


「いつものお嬢様らしく振る舞えばよろしいかと」


「いつもの……」


私は少し考えた。


今の私にとっての「いつもの」とは何だろう。


公爵令嬢としての礼儀は身についている。


けれど、心の中は普通の女子高生だ。


……まあ、今さらそんなことを考えても仕方ない。


やるしかないのだ。


***


王宮に到着すると、私たちは案内役の侍従に連れられて大広間を通り抜けた。


高い天井。


美しい絵画。


磨き上げられた大理石の床。


どこを見ても豪華で、まるで別世界に来たようだった。


「エリザベート嬢。こちらです」


案内されたのは、王族が使用する応接室だった。


扉が開かれる。


その奥には、アルベルト殿下と、一人の男性が座っていた。


金色の髪に、威厳のある顔立ち。


その姿を見た瞬間、私はすぐに理解した。


国王陛下だ。


「お初にお目にかかります、国王陛下。エリザベート・フォン・ローゼンベルクでございます」


私はスカートの裾を軽く持ち上げ、丁寧に礼をした。


「うむ。よく来てくれた」


国王陛下は落ち着いた声で答えた。


「楽にするといい。今日は堅苦しい謁見ではない」


「ありがとうございます」


促されるまま、私はアルベルト殿下の向かいに座った。


「さて」


国王陛下が口を開く。


「アルベルトから、そなたの様子について話を聞いている」


……来た。


本題だ。


「学園での振る舞いが以前とは違うそうだな」


「はい」


「以前のそなたについては、私の耳にもいくつか話が届いている」


やっぱり。


知られていないわけがない。


「身分の低い者に対する態度や、周囲との関係についてだ」


私は膝の上で手を重ねた。


「申し訳ございません」


「謝罪はよい。今日は、そなた自身の考えを聞きたい」


国王陛下は私を真っすぐに見た。


「そなたは、アルベルトとの婚約をどう考えている?」


その質問に、私はすぐには答えられなかった。


婚約を続けるべきか。


それとも、解消してもらうべきか。


前世のゲームの知識だけで考えるなら、答えは簡単だった。


婚約を解消すれば、悪役令嬢としての破滅ルートから遠ざかるかもしれない。


けれど、それだけでいいのだろうか。


「正直に申し上げますと、まだ答えは出ておりません」


「ほう」


「私は、これまで自分の立場に甘えていたのだと思います。殿下の婚約者であることを当然のように考え、周囲の方々への配慮も欠いておりました」


私は一度、息を整えた。


「今はまず、自分の行動を改めたいと考えております。そのうえで、殿下と向き合いたいと思っています」


国王陛下はしばらく黙っていた。


やがて、わずかに目を細める。


「婚約を続けるかどうかよりも、まず自分を見つめ直したいということか」


「はい」


「なるほどな」


国王陛下はアルベルトに視線を向けた。


「アルベルト。お前はどう思う?」


「私は、もう少し彼女を見ていたいと思っています」


アルベルト殿下は迷いなく答えた。


「以前とは違う彼女が、これからどう行動するのか。それを確かめたいのです」


……え?


それって、どういう意味?


まさか、婚約を続ける方向で考えているの?


私は思わずアルベルト殿下の顔を見た。


彼はいつも通り、落ち着いた表情をしている。


「そうか」


国王陛下は小さくうなずいた。


「ならば、しばらく様子を見ることにしよう。婚約についても、今すぐ結論を出す必要はない」


「ありがとうございます」


私は深く頭を下げた。


ひとまず、最悪の事態は避けられたらしい。


……よかった。


本当に。


***


面会を終え、私は王宮の廊下を歩いていた。


隣にはアルベルト殿下がいる。


「今日はありがとうございました」


「いや。父上も、君の話を聞きたかったようだからな」


「少し緊張いたしましたわ」


「そうだろうな」


アルベルト殿下は小さく笑った。


その表情は、学園で見るものより少し柔らかかった。


「エリザベート嬢」


「はい?」


「一つ聞いてもいいだろうか」


「何でしょう?」


「君は、本当に変わろうとしているのか?」


……またその質問か。


けれど、今度は少し違う気がした。


私は足を止め、彼の方を向いた。


「はい。少なくとも、そうありたいと思っています」


「そうか」


アルベルト殿下は私を見つめた。


「ならば、私も君を見ていよう」


その言葉を残し、彼は先に歩き出した。


私はその背中を見つめる。


……なんだか、思っていたよりも悪くない人なのかもしれない。


いやいや。


油断は禁物だ。


彼はゲームの攻略対象であり、私の婚約者。


そして、将来的には私の婚約破棄に関わる人物でもある。


今のところ、関係が改善しているように見えるけれど、何が起こるか分からない。


私は小さく息を吐き、彼の後を追った。


そのとき。


「そういえば、エリザベート嬢」


「はい?」


「近いうちに、王宮で茶会を開く予定がある」


「茶会、ですか?」


「ああ。君にも参加してもらいたい」


……茶会。


嫌な予感がする。


王宮の茶会なんて、絶対に普通の集まりではない。


「どなたが参加されるのでしょうか?」


「王族と、いくつかの有力貴族の子息や令嬢だ」


なるほど。


つまり、社交の場というわけね。


「分かりました。ぜひ参加させていただきます」


そう答えた瞬間、アルベルト殿下は意味ありげに微笑んだ。


「楽しみにしている」


……お願い。


今度こそ、何事もなく終わって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。