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兵主部参 ビブロフォビア─ひょうすべの日本史─  作者: ずずつすず
平安時代の一変 ─暗黒から光明へ─
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3/15

ひょうすべどころではない

 どうも、関東での鉄普及は、軍事活動を先駆けに展開していたようだ。

 兵主部であり、

 八幡だろう。

 軍神が、そのまま農の分野に貢献する。ーー地方への監督体制などまるでなかった時代だ。鹿の子C遺跡を始め、稼働していた国営冶金工房で、八世紀の段階から、ひそかに農具用の鉄が鍛えられていた可能性もあるだろう。鹿の子C遺跡には、製鉄の機能はなく、加工のための施設だったようだ。ここに鉄材を供給していたのは、関東の他の製鉄所で、やはり、軍事拠点のための鉄供給が関東製鉄の端緒だったといえる。

 軍事、という名分で、ひそかに、農具に使用する鉄が生産されていたのではないか。つまり、開発(かいほつ)の機軸には、軍事があるという奇妙な状況が、平安期の関東にあったとかんがえてもいい。

 どうも、本当に、見落としていたのは「東北」だったようだ。

 そもそも、なぜ、武士、というより、関東の農夫が武装し、武力を得なくてはならないのか?

 作者は、これまで、延暦十一年(七九二)に施行された、「こんでいの制(健児の制)」のためだとかんがえていた。これは、軍隊のあり方を変更するもので、地方官の子弟や豪農といったエリート階級から、きちんと武術を鍛錬する職業軍人を選抜する。これが直接武術に長けた武士階級の形成しに資した、という面もあるが、

 この場合、大切なのは、むしろ、こうして形成された少数精鋭集団が、到底、軍団などという規模に達しておらず、事実上、常備軍が解散された状態になってしまったことだ。 

 当然、治安は悪化した。

 中央では、まだ、検非違使の取締が機能していただろうが、地方は、もう、盗賊の横行するがままだ。平安時代の草紙物には、よく、鬼や土蜘蛛が登場するが、そういった怪物は、官庁の支配に服さない無法者だという説もある。

 まあ、力で対抗できる集団が不在なら、治安は悪化する。

 だから、民は、自衛するしかなかった。兵器を自弁し、武術の鍛錬をして、自ら、略奪者の撃退に当たるしかなかった。

 これが、武士集団の発祥で、東国の開発農場主たちが、自ら武装することで、無法者を撃退し、また、なまじ武力を手に入れたために、自らが凶徒として略奪にも手を染めた。

 その一方で、役人たちの護衛や私兵になり、「侍う」もの、侍階級と呼ばれるようになった。

 右の史観は、現在、否(・)定(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 

 ーー正直、作者自身も、まるで、頭を殴られたような衝撃を覚えている。平安時代は伏魔殿だと感じていたが、まさか、ここまで

 既存の史観が、すでに塗り変わっていたとは。

 

 われわれが知っている武家、武士の発祥というものは、近年の歴史研究で否定されてしまっているのだ。

 

 これは、ひょうすべ史観どころではない。

 ひょうすべという魔物を揺り起こして、読者を一驚させたいと、ろくでもない野心を抱いていたが、

 Wikipediaの「武士」「国衙軍制」の項を読んでもらった方が、よほど衝撃的かもしれない。

 ちょっと、信じられないことが書いてある。

 

 日本史研究は魔窟で、既存の世界観が破壊されてしまう。

 

 作者が紹介した、私田農場主が武士になった、健児の制によって治安が悪化し、自衛農民が発生した

 これらはもう、昔の史観なのだ。

 

 それなら、現代の歴史学が描き出す「武士」の像はなんなのだといえば

 彼らは、私田農場主が武装し、地方から中央へ進出した、ボトムアップの勢力ではない。

 

 その逆に、中央が、地方への統制を強めるために派遣した、公田を基盤とする軍事貴族、トップダウンで組織化された軍人階層

 

 それが最新の「武士」なのだ。




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