エピソード7 ”珊瑚礁を見守る者”
<前回までのあらすじ>
太陽系外縁オールトの雲より飛来する10個の隕石。
人々は世紀の天体ショーに沸き立っていた。
そんな最中、人知れず、一人の日本人女子大学生が、そしてアメリカ空軍の男が、ドバイではヒジャブを着けた女性がUFO未確認飛行物体に連れ去られ、そこで何かをされ、生活に戻る事件が起こっていた。
また、NASAでは隕石の1つに対して軌道変更試験を実施するも失敗に終わった。
その後、日本では秘密裏に総理大臣など要人が長野の地下防空壕に退避していたのだった。
オーストラリア、シドニー。
オペラハウスの一角で環境保護に関する学会が開かれていた。
”オーシャン・レスキュー”という海洋保護の国家プログラムに参加していた20代後半の女性がステージ上で講演している。
「温暖化の影響により、珊瑚は甚大な影響を受けています。
このグラフにあるようにグレートバリアリーフでの珊瑚白色化はかなり早い速度で進行しています。
特に2017年が顕著でした。
この時は珊瑚礁3分の2もの面積に白色化が出ていることが調査により明らかとなっていました。
・・・
温暖化対策こそが喫緊の課題であることは明白です。」
女性は拍手を受けた。その後、一人の男性が手を上げる。
司会がその男性を指名すると、男性が立ち上がった。
「デイリーエコノミックの記者のケント。ケント・スミスと言います。
タリア・ブラウン博士、興味深い報告をありがとうございました。」
男性は鋭い目と皮肉めいた口調で続けた。
「ところで、温暖化は本当に起こっているのか?という根本の話があることはご存じだと思います。
あなたはその点をどうお考えでしょうか?
また珊瑚は回復傾向にあるとの話も聞きます。
今やほぼ回復している、という話もあります。
そこから考えるに、あなたはただ危機感だけを煽っているようにも聞こえます。
いかがでしょうか。」
タリア・ブラウン博士が怒りを抑えながら回答した。
「ご質問ありがとうございます。
そうですね。そういう意見は度々聞かれます。
まず1点目の温暖化に関してです。
これに関して、対策が経済発展の妨げとなるため、そういった否定的な見解が多く提示されることがあります。
ですが、実際に世界各国での測定結果による温度上昇と温室効果ガスの温室効果数値、ならびに温室効果ガスの増加が一致している点からほぼ間違いない現象と言えます。」
タリア・ブラウン博士は鋭い目で記者を見て続けた。
「2点目。
グレートバリアリーフでの珊瑚は確かに回復している地域があります。
これは熱ストレスに弱い珊瑚が死滅している反面、熱ストレスに強い品種が広がっている点が挙げられます。
つまり、元のままの珊瑚礁ではない。生態系が激変していると言えます。
そして、それは我々人類が引き起こした温暖化、それこそが原因である可能性が極めて高いと推測されます。」
記者が皮肉めいた口調で反論する。
「それは自然淘汰というやつでは?」
タリア・ブラウン博士は呆れた表情で答えた。
「だから、我々の与えている影響は自然のそれを逸脱した範囲で現れていると言っているのです。
それは”自然”淘汰ではない。
お言葉ですが、あなたのような方の意見が温暖化を信じたくない人によって支持され、今の現状を作ってしまっていることを本気で考えた方が良いと思いますよ。
それによって温暖化が進み、後戻りできなくなった時、あなたは何というつもりですか?」
「勘違いしていただきたくないのですが、私はただそういった意見もあるということを言っているだけですよ。
それともあなたは言論の自由を否定するのですか?」
「はあ?なんですって?」
多少喧嘩腰になったタリア・ブラウン博士をチェアマンが止めに入った。
質疑が止められ、発表は時間切れとなった。
そして、学会は世界に影響を与えることなく、終了した。
その日の夜。
シドニーのとあるバーで、昼間講演していたタリア・ブラウンがグラスの酒を飲み干した。
「なんなの!あの記者は!!
あなたはただ危機感だけを煽ってる!!ですって!?
ふざけないでよね!!」
同僚の男がなだめる。
「まあまあ。あれはあれで、あいつも仕事なんだよ。
っていうか、お前、飲み過ぎだぞ。
ほら、もうホテル帰るよ。」
二人が店を出た。
なだめた同僚がタクシーを呼ぶ。
「お前、ホテル、この近くだろ?おれはちょっと離れてるから、これ乗ってくけど。ホテル、行けるだろ?」
タリアが少し呂律が回らないような感じで答える。
「ええ、、らいじょうぶ、らいじょうぶよ。。。はやくいきなさいよー。。。」
「ホテル着いたら連絡しろよ!!」
「わあってるわよ。ほら、もういきなさいよ。」
「ああ、ああ。おれ、本当に行くからな。」
そういって同僚がタクシーで出た。
「あいつ、あたしをおいて、ほんとにいぎやがったぁなー。。。」
捨て台詞を吐き、タリアが眠そうな目で大通りを歩いていく。
だが、おもむろにタリアがクルっと横に曲がり、千鳥足で細い裏路地に入っていった。
細い裏路地をしばらく歩いたかと思うと、急にえずきだし跪いた。
すると、グエーと全てを吐き出した。
そして、路地裏の壁にクルッとヘタりこんだ。
タリアが目を瞑った。
”あー、あたまがグァングァンする。。。またやっちまったなー。。”
タリアが目を瞑ったままはーっと息を吐いた。
その時、急激に目蓋の前が明るくなった。
”え、なに、これ?
めちゃくちゃ眩しんだけど。
もしかして、あたし、、、死ぬのかな。。。
あー、あの珊瑚礁の中、もう一度泳ぎたかったな。。”
携帯が鳴っている。
タリアがホテルのベッドから飛び起きた。
「は?あたし。。。なんでホテルのベッドにいるの??」
ふとベッド横のテーブル上の携帯に気がつき、携帯を手に取る。
画面の通話ボタンを押し、携帯を耳に当てた。
二日酔いのせいか、頭がズキンとした。
「あいたっ!」
すると携帯が叫ぶ。
「お前!心配しただろうが!!何回電話したと思ってんだよ。」
タリアが頭痛に顔を歪ませながら答える。
「ああ、えーと、ごめん。そんなに怒鳴んないでよ。頭、痛いんだから。
っていうか、あたし、なんでここにいるの!?」
同僚が答える。
「はあ!?」
<次回予告>
イギリス、ロンドン郊外。
ある小さな個人診療所。
そこには金にもならない相手に医療を施す者がいた。
移民患者のことを考えるその者に迫る光が。。。
次回、”医は仁術の体現者”
次回も乞うご期待!!




