エピソード3 ”撃墜王という名の愛国者”
<前回までのあらすじ>
太陽系外縁”オールトの雲”から10個の隕石が地球に接近していた。
軌道計算により衝突の確率は極めて低いことから人々は世紀の天体ショーだと歓喜していた。
日本、長野県。
ここに地質学を勉強する一人の女子大生”絵里”がいた。
絵里は地層調査の実施研修後、未確認飛行物体による連れ去られを経験した。
その記憶は書き消されていたが、自身の携帯画像から一部始終を思い出したのだった。
20代後半、鍛えられた身体の男が大型バイクに跨がり、田舎道を走っていた。
その男はアメリカ東海岸側のニュージャージー州マクガイル空軍基地からニューヨーク郊外の自宅に向かって約100kmの道のりを移動していた。
空軍基地から出て、麦畑の中をひたすら真っ直ぐ作られた道路に乗り、バイクを走らせる。
まだ青々と繁る麦が夕日に照らされ、優しい風に揺れていた。
いつもなら心地よいはずのバイクの音が違って聞こえていた。
男は上官と揉めたことを思い出していた。
「ピーター・ミッシェル中尉、入ります。」
AirForceの軍服を着た男が、表に”ヴァイパー・スケリット教官長”と書かれた教官室に入った。
教官室の奥には、年にして50代後半、ロマンスグレーの髪、鼻下に髭を蓄え、細身だが筋肉質に引き締まった身体の教官が一人座っていた。
教官はミッシェル中尉の方を見ず、椅子に座ったまま、教官室の窓から外を見つつ話した。
「ピーター・ミッシェル中尉、なぜお前をここに呼んだか、分かるな。」
「はい。今日のJ-35との仮想訓練における訓練生ブラックアウトの件でありますか。」
スケリット教官長が席から立ち上がり、ミッシェル中尉の方に振り向いた。
「そうだ!!では、結論から言おう。
あのような状況で敵機とドッグファイトに持ち込むべきではない。」
「イエッサー。ですが、教官長。
私の意見を言わせてください。
お言葉ですが、今のF-22には赤外線探索追尾装置があります。
敵を見失うことはない。
逆にF-22の高ステルス性を活かせば、敵の目を欺ける。
仮に味方F-22が3機、敵J-35が5機であろうと、我々は勝てます。
そのための訓練です。」
教官長は話の腰を折らず、聞いた後、椅子をクルッと反転させ、立ち上がった。
そして、ミッシェルの目を見て返した。
「それはお前の腕であればこそだ。お前なら切り抜けられるだろう。敵機を殲滅させることもきっとできる。
だが、今やJ-35の機動性はほぼF-22と変わらない。
つまりパイロットの力量次第ということになる。
それゆえ、撃墜王と異名されるお前なら勝てる。」
ミッシェル中尉が前のめりになる。
「それならば。。。」
スケリット教官長が目を見開いて、言葉を続けた。
「だが、しかし、それを一般解として、仲間に強要することは仲間を死に追いやることになる!
今の訓練生であればなおさらだ。
それをしっかり理解しろ!!」
「私は私の技術を他のパイロットに教えることが使命だと認識しています。
そのために私はここにいます。」
「その通りだ!!だが、その教えが仲間をブラックアウト(高Gによる意識飛ばし)させることとなったのも事実だ。
何とか墜落前にセカンドパイロットの機転で意識を取り戻し、大事には至らなかったが、もしあのまま墜落でもしたものなら。。。」
「分かっています。次の訓練では。。。」
「いや、それには及ばない。」
「えっ、どういうことです?」
「実は、君の訓練には他の訓練生からも少々クレームが付いている。
少々行きすぎているのではないかと。
もちろん訓練生の成長を促すことも大事だが、パイロットや戦闘機を失うことは避けねばならん。
このままではその事態が起こる日がくる。
そこで、君には数日、訓練から離れてもらおうと思う。
なに、心配はない。
替わりは私が行おう。
少し休養を取れ。
心を休め、復帰後に今一度訓練生の力量を測り、訓練内容を見直すのだ。」
「この国を守るためには多少の危険な訓練だって必要だろうに!!」
そう言うとピーター・ミッシェルはバイクのスロットルをさらに上げた。
夜空に美しい隕石の尾が見えていた。
バイクの進行方向から何台かのトラックがすれ違ったと思ったら、その後すっかりと往来が途絶えた。
ミッシェルは気にせず、自宅のニューヨーク郊外へとバイクを飛ばした。
その時だった。
急に周囲が明るくなった。
「What?(なんだ?)」
ミッシェルは上目使いで上空を見た。
そこには直径15mほどの光輝く円盤が浮かんでいた。
「What the fuck?!(おい、マジかよ!!?)」
ミッシェルがバイクのスロットルをMaxにする。
それでも、ミッシェルから見て円盤の位置が変わらない。
「こいつ、付いて来てやがるのか!!」
すると、ミッシェルの身体が浮かび上がりだした。
慌てて、ハンドルを強く握る。
が、どんどん身体が浮き上がる。
両足が完全にバイクから離れ、両手のみでバイクと繋がっていた。
自慢の筋肉で必死にバイクから手を離すまいと捕まっている。
だが、身体は完全に逆立ちのような状態。
さらにミッシェルは円盤に引っ張られる。
「おい、待てよ!!なんなんだよ!こいつは!!」
それでもミッシェルは手を離さない。すると、バイクまで宙に浮き上がった。
そして、ついに左手がバイクから引き剥がされた。
右手も親指が離れ、4本の指だけがかかる状態になる。
4本の指だけでバイクの重量を支えきれず、右手も離れてしまった。
バイクが数10cm落下する。と同時に、ミッシェルが一気に円盤に引き寄せられる。
ミッシェルが叫ぶ。
「うおおおぉぉぉーーーー!!このクソヤローがぁ!!」
ミッシェルがハッとベッドから飛び起きた。
「あれ?おれは一体。。。」
ニューヨーク郊外の立派な戸建て。2階の一室のカーテンが少しだけ開かれた。
ミッシェルがそのカーテンの隙間から外を覗いた。
ミッシェルは何かに怯えているようにも見えた。
ガレージの隙間窓から自分のバイクが見えた。
「たしか、、、おれはあれに乗ってここに向かっていた、、、よな。。。」
昨夜のことを思い出すかのように斜め上を見た。
「。。。」
バイクで国道に出た後のことを全く思い出せなかった。
ふと教官長とのやりとりが思い起こされた。
ピーター・ミッシェルはブルブルと首を振った。
その時、下の階から声が聞こえた。
「ピート、上にいるの?いるなら降りてらっしゃい。」
ピーター・ミッシェルが下の階に向かって、声をかける。
「ああ、母さん、自分の部屋だよ。今、降りる。」
そういうと、ピーター・ミッシェルは階段を降りはじめた。
ピーター・ミッシェルの姿を見て、母親が声をかける。
「おはよう。私の愛するピート。
あなた、いつの間に帰ってきたの?
それにまた服着たまま寝たのね。いけない子ね。」
1階に降りたピーター・ミッシェルが母親に声をかける。
「おはよう。母さん。ああ、どうやらそうみたいだ。」
<次回予告>
直径1kmほどの隕石群。
軌道計算から地球への衝突はほぼ皆無。
NASAはこれを好機と捉え、軌道変更実験を試みる。
近づく軌道変更用の機体。
実験は成功するのか?
次回、エピソード4 ”隕石軌道変更衛星を見守る者たち”
来週もお楽しみに!!




