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ep.9 魔女の記録

 世羅のオフィス兼住居は、阪急宝塚駅の近くのマンションであった。


 眼下には、はなのみちと呼ばれるモダンな遊歩道があり、春になると桜が満開になり花見客で賑わう。


『はなのみち』とは、駅から歌劇団の劇場に繋がる道だ。


 あの界隈には、劇団のお姉さんや音楽学校の生徒さんといった美人がよく行き交う。


(それ見たさに、ここにオフィスを構えた訳では断じてない。

 が、結果には満足している、誰にも文句は言わせねえ)


 携帯電話が鳴った、詩音からだ。


(アタリだな)


「世羅くん、今、話せる?」


「はい、大丈夫です」


「例の魔女候補の女子高生だけど、本人が実在したわ。

 武庫川高等学園の2年生で薬学科に所属する小金井春香コガネイハルカ17歳よ」


「ほお、美人でしたか?」


「ふっ、そうね、可愛らしい子だったわ。

 ただ、本人には、該当日時に友人と出掛けていてアリバイがあるの」


「魔女がフェイクに使っただけということですか?」


「そのようね、魔女が彼女に化けていたと私たちは推測しているわ」


「では、魔女が動いているというのは推定ラインに入ったということですね」


「そういうことになるわね。

 魔女が絡んだとなった以上、無理な行動は慎んでね」


「わかりました」


「じゃあ、また、連絡するわ」


「はい」


 世羅が応じると電話は切れた。



 阪神魚住駅から徒歩10分足らずの場所にその店はある。


 老舗の酒蔵で、レストランも経営しており、蔵で造られた酒と、酒の肴にぴったりな料理が売りだ。


 井草御用達のこのレストランに、井草と詩音は来ていた。


 二人で、日本酒と料理をつつきながら、話す。


「ここの酒は、一番酒が美味しい温度で出してくれるから、最高なんだ」


「ここに来ると、いつもそうおっしゃいますね。

 まあ、料理も日本酒のためにあるような、内容ですものね」


「我々、日本酒党にとっては、まさに天国のような場所じゃないかね」


「そうですね、ただ、この前はワイン連合だったと思いますが」


「さすがは、詩音、よく気が付くね」


「それで、魔女と推定された以上、何らかの対策が必要と思いますが」


「本部に最新の魔女の討伐記録を問い合わせた」


「はい、それで?」


「1925年、大正14年11月3日に六甲山山麓付近で、当時のマレフィクス狩りと軍隊で1人の魔女を討ち取ったとの記録があったが、肝心の退治方法などは残されていなかった。

 だが、姿を消すや使い魔を使うなどの魔女の共通点は記録にもあった」


「なるほど。

 それにしても魔女1人の討伐にそんなに大掛かりなのですか?」


「魔女は、それだけ強大な力を秘めているということだろう」


「ですが、そんな時代まで遡るのに、なぜ今なのでしょうか?」


「いや、今までも魔女の存在が見え隠れする事件は幾度もあった」


「えっ」


「だが、確定はおろか、推定にも至らなかったのだ。

 魔女は、活動頻度は高くなく、何より慎重で痕跡を残さない」


「今回は、色々と残し過ぎている。

 とても大胆な気がします」


「ああ、今になってなぜ魔女が大々的に動き出したのかは分からない。

 とりあえず例の女子高生はマークさせているが、望みは高くないだろう」


「それで、次の手は考えているのですか?」


「おちょこが、空いているよ」


「戴きます」


 井草が酒を注ぎ、詩音はおちょこで受け、口を付ける。


「さて詩音、君の家は代々、闇払いの一族だろう。

 特級呪物・闇封じの箱があるだろう?」


「なぜ、それを知っているのですか?」


「伊達に何十年もマレフィクス狩りをしていないさ。

 それをいつでも使えるように準備しておいてくれ」


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