ep.4 ムッツリーニ
関西第一学院高等部の一年生の日鍵世羅は、数学の授業を退屈そうに受けていた。
中肉中背、髪は短く整え、見た目はそう悪くないと自称している男子だ。
世羅の斜め前に座る女子、大野池桔梗。
サイドテールが、トレードの色白の美人で、誰にでも優しく接する人気者であり、世羅の意中の人でもあった。
(髪に艶があっていい、うなじが綺麗でいい、あの細い体をぎゅっと抱きしめたい)
世羅の視線に気づいたのであろう、桔梗は振り返り軽く微笑む。
世羅はそれだけで顔が赤くなる。
(可愛すぎるだろう、俺ってこんなに純情ボーイだったのか・・・)
突然、スマホにメッセージが入る、深山矢代からだ。
『桔梗に見惚れるな、キモイぞ』
世羅が振り返ると、後ろの方の席で矢代がブーイングサインを出していた。
肩までの髪、少しふくよかな顔、見た目はそう悪くないのだが、なぜか世羅に悪態をつく。
矢代は、桔梗の親友でもあるのだ、まあ、無下にも出来まい、丁重に返信を送る。
『だまれ、デコ!』
『なんだと、ツンツン頭!』
『この頭で串刺しにするぞ!』
『やめとけ、ズラがずれるぞ(笑)』
授業が終わり、昼休みになる。
矢代が言う。
「桔梗、食堂行こう!」
「うん、今日の定食は何かな?」
桔梗が世羅のほうをちらりと見て言った。
「あっ、日鍵くんも一緒に食堂いく?」
「え?俺も?いいの?」
「良かったらだけど、どう?」
「おお、俺も行くよ」
「ええ~、なんで世羅も連れて行くの~?」
「いいじゃない、たくさんいた方が、食事も楽しいし。
ねえ、日鍵くん」
「お、おう、そうだね」
矢代が、世羅の耳元で囁く。
「桔梗のことエロい目で見るなよ、逮捕するぞ」
矢代からシャンプーのいい香りがする。
(いい香り、こいつも可愛いといえば可愛い、逮捕されちゃうか?)
「どうした?世羅!」
「ホワ~イ?僕がエロい目で大野池さんを見たことがありますか?」
「8割バッターですぞ」
「そうっすか、強打者すね、じぶん」
「二人で楽しそうなひそひそ話、仲がいいね、私も混ぜてよ」
(デッドボール!)
世羅たち3人は、食堂で日替わりのクリームコロッケ定食を食べていた。
日鍵の対面に座った桔梗が言う。
「とろっとして美味しいね、コロッケ」
「本当だね、ご飯が進むよ」
「これは確かに、ご飯が何杯でもいけそうだな」
「こら、食べるかしゃべるかどちらかにせい!」
食事がひと段落着いた時、桔梗が言った。
「そういえば、この前、武庫川の河川敷で猟奇殺人事件があったでしょ。
あれってまだ犯人捕まってないんだよね?」
「ああ、あれね、被害者が13人もいるのでしょ?
犯人は単独じゃないよね?」
「じゃあ、集団どうしの乱闘なのかな?」
「現代の人斬りかもしれないよ」
「日鍵くんはどう思う?」
「えっ?いや、異常な事件だけど、真相は分からないかな」
「そうだよね」
「近くだから、怖いよね~」
日鍵は思う。
(あれは、人の仕業ではない・・・)
そして日鍵は思う。
(大野池さん、もっとしゃべって、俺に唾を掛けてくれ)




