ep.3 魔女の火遊び
痙攣する男たち、ぐるりと白目になると、口から触手が生えはじめた。
生えて来た触手は、うねうねと動き、唾液ような粘液をポタポタと落とす。
(マレフィクスになったか・・・)
男たちは、粘液を垂らしながら、手にはナイフを持って、取り囲んでくる。
「やれやれ絵的に汚いな」
男たちは、ゆっくりと私を取り囲む円を縮めていく。
男たちとの距離があと3,4歩となった時、私は、クルリと一回転した。
ひらりと制服のスカートが舞う。
私の手には、死神が持つような大きな黒い鎌が握られている。
男たちがもう一歩、進むと同時に胴が割け、上半身がずれ内臓がこぼれだした。
「痛い、痛い・・・」
「あうっ、あうっ・・・」
「痛い、母さん、母さん・・・」
男たちは、口々に苦痛の声を上げる。
チリン、チリン・・・
遠くから、ママチャリのベルが鳴るのが聞こえてきた。
ママチャリのライトが徐々に近づき、テニスコートの脇で止まった。
ママチャリに乗って、文香がやって来たのだ。
「ごめ~ん、こんな時間だから親にバレないように出るのに苦労しちゃって、てへっ」
「文香、2時をだいぶ過ぎているよ」
「だからごめんって、ん?」
上半身になった男の一人が、内臓を引きずり、文香の足元に泣きながらすがる。
「痛い、言う通りにした、助けて、助けて・・・」
「ひぃ~、ソックスに血が付いたじゃない、汚い、汚い、汚い!」
文香は、男の頭を踏みつける、何度も何度も踏みつける。
ゴシャ、鈍い音がして男の頭が歪み、脳しょうがこぼれ出た。
「あ~、制服にも血がついた~!」
「それで文香、夜遊びって、あなたの首をこの鎌で刈ればいいの?」
「どうしてそんな怖いこというの、私はただ遊びたいだけなのに。
それにしてもその鎌、どこから出すの?」
「これは、私の影から出すの、影舞踏・影の鎌って言うのだけど、知らないよね」
「そっか~、夜月は、影を使った技が得意なのね。
なんか忍者みたいでかっこいいね」
文香は言いながら持って来たテニスバックをごそごそとあさり始めた。
「夜月、ちょっと運動に付き合って欲しいのだけど」
「テニスでもするの?」
「これこれ」
文香は、バッグから包みを取り出し、ほどくと日本刀が姿を現した。
「じゃじゃん、見て、私のマイラケット」
「文香、いいセンスじゃない」
「よいしょ」
慣れない手つきで、鞘から刀を抜刀する。
「確か、こう握って、こう!」
文香は瞬時に間合いを詰めて、私に水平切り、鎌ではじく。
はじかれた勢いを利用しての斜め袈裟切り、私は、体を回転させてかわす。
回転の勢い使って鎌で水平に薙ぎ払う、文香は宙に飛んでかわすと剣を振り下ろす。
鎌を振り上げ受け止める、互いに競り合いになり、後方に飛んで間合いを広げる。
お互いが、間合いを詰める、打ち合う、打ち合うこと十数合、再び間合いを取る。
文香が刀を見ながら言う。
「あれ?魔法で強化しているのに刃こぼれしてぼろぼろになっちゃった」
「もろいラケットだね」
「もういらないや」
文香は、刀を川に投げ捨てた。
「文香、遊びってもう終わりなの?」
文香は、伸びをしながら言う。
「いや~、じゃあ、私もちょっと魔女らしいところみせちゃおうかな~」
文香は両手で球を作ると、押し出すように私の方に放つ。
炎の球が、飛んでくる。
私はクルッと鎌を回して、はじき飛ばす。
文香が人差し指をスッと動かすと、はじいたはずの炎が再び私に向かってくる。
私は、さっと飛びのいてかわすが、再び向かってくる。
鎌ではじくが、向かってくる、かわす、向かってくる。
「はい、2球目!」
文香は、炎の球をもう1つ作り出すと放つ。
2つの球が私に、襲い掛かる。
私は、はじく、かわす。
「まだまだ、いくよ~」
炎の球が、3つ、4つ、5つと増える。
はじき、かわし、かいくぐる。
「あははっ、いつまで耐えきれるのかな~」
文香はまるで交響曲の指揮者のように指を動かして楽しんでいる。
炎の球は更に増える、6つ、7つ、8つ、9つ、10。
はじき、かわし、かいくぐる。
「ん?」
「どうしたの、得意の影舞踏で私の動きを止めてみなさいよ」
・・・・・・
「止められないよね、だって、今の私には影がないのだもの」
私は、鎌を振って炎の球をはじきながら言った。
「影が無い?」
「そうよ、魔女の魔術には自分の影を消すことが出来るものがあるの」
炎をかわしつつ言う。
「へえ~、面白い」
「どうしたの?炎が怖いなら川に飛び込んでみたら」
「ああ、それも面白そうだね」
(動体視力、反射神経、身体能力のみで遊んでみる)
私は、鎌を消すと文香に向かって走り出した。
炎をサイドステップでかわす、飛び越える、首を傾けてそらす、
炎の球が背中にくる、後方回転でかわす、
正面からくる、両足を180度に広げて、沈み込んでかわす、
「文香」
「え?」
ボキッ、ゴキッ
文香の正面に立った私は、彼女の10本の指を文香の方向に折り曲げ、飛びのいた。
10の炎の球は、文香に向かって飛び込んでいく。
「ぎゃあああ」
文香が、炎に包まれた。
「あ、ああ、熱い、熱い、み、水~」
文香は、炎をまとい、よろめきながら川の方に歩いて行く。
「熱い、熱いよ~、夜月、助けて、熱い、水~」
川まで数メートル、文香の皮膚はただれ、倒れ込む。
「痛い、熱い、み、水~」
文香は、地に這いつくばりながら、手足をばたつかせて川へと進んでいく。
指先が川に触れる。
「うああっ?!」
文香は、動けなくなった。
「どうしたの文香、早く川に入らないと焼け死んじゃうよ」
「お、お前、かげ・・・」
「あっ、気付いた、だって文香が影を出してしまうから、影踏みって、そういう遊びじゃない?」
「は、はな、はなせ~、み、水~」
「文香ったら、そんなにはしゃいでしまって、ふふっ」
文香は、動かなくなった、しばらく炎は燃え続け、消える頃には真っ黒な死体が出来上がっていた。
「川に入りたがっていたものね」
私は、文香を蹴飛ばして、川に落とした。
文香は、暗い川を下流に向かってゆっくりと流れていった。
「大阪湾まで、無事たどりつけるといいのだけど」
私は帰る途中、遠回りだけどコンビニ寄ってトマトジュースを買った。
古いワンルームの家に戻ると、風呂に入って1日の汚れを流した。
夜空には月が出て綺麗だ。
私は、風呂上り、トマトジュースを飲む。
「今度はどんなマレフィクス(おもちゃ)が、出てくるのかな」
私の言葉が闇夜に溶け込んだ。




