ep.2 魔女とのランチ
若い頃には音楽家を夢見ていたが、現実は零細企業で残業の日々。
疲れて帰れば、ただ寝るだけ、気付けば三十半ばを過ぎていた。
「どこで間違えたのだろうか、俺の人生・・・」
(なんかこう、人生を変えるような運命の出会いとかないか。
そんなものある訳ないか・・・)
最寄りに駅で電車を降り、今日も暗い夜道を、男は一人で歩いていた。
(ん?)
電柱の影に黒い塊のようなものが見える。
(暗くてよく見えないが何だあれ?)
男は、好奇心に駆られ、黒い塊に近づくとその正体が分かった、膝を抱えてうずくまる制服を着た女子学生だ。
どうやらうずくまって泣いている。
こんな夜中にこんな所に女子学生とは違和感はあったが、心配と好奇心が勝り、男は女子学生に声を掛けた。
「君、こんな所で、こんな時間に若い女性一人でいると危ないよ。
どうしたのだい?」
女子学生は、顔を上げずに泣きながら言った。
「痛い、痛いよ~、ひどい、ひどいよ~」
「何があったの?ケガしているのなら救急車呼ぼうか?」
「痛いけど救急車はいらない、友達と喧嘩しただけ・・・」
(友達と喧嘩・・・男は重傷ではないようなので、少しほっとした)
「喧嘩って、ケガは大丈夫?見せてごらん」
女子学生は、頭を抱えながら起き上がった。
見ると額がぱっくり割れて血が流れている。
「えっ!けっこう血が出ているよ、大丈夫なの?
救急車、救急車!」
男は、慌ててスマホを取り出そうとしたが、慌てているのでなかなかポケットから取り出せない。
「頭より首が痛いの・・・」
男が女子学生を見やると、首がぐにゃりと曲がっていた。
「ひあっ・・・」
男は声にならない声を上げ、尻もちをついた。
女子学生が言った。
「私可愛い?なんてね・・・」
翌日、私はいつもと変わらず学校に向かう。
私は、教室に入り着席して一限目の授業の準備をしていると静が声を掛けて来る。
「おはよう、夜月!」
「うん、おはよう、静」
「今日、英語の小テストあるでしょう。
どこが出そうか教えて」
「どこが出そうか?
う~ん、予習していないから分からないな」
「あ~夜月っていつもそうなんだよね~。
そのくせ、いい点とるし~」
「そう?」
「そうだよ~。
なんかちょっと嫌味~」
「ふふっ、ごめん」
「可愛いから許してあげる」
「おはよ、静、夜月!」
そう言って教室に入って来たのは、中山文香だった。
いつも通りのツインテール、いつも通り元気、いつも通りの様子で。
「おはよう」
私は静かに応じて、じっと文香を見た。
「どうしたの夜月?幽霊でも見たような顔しているよ。あははっ」
「・・・・・・」
静が言う。
「そんなことより、文香、英語の小テストの山教えて~」
「え~、小テストなんかあった?てへっ」
「あ、こいつ死んだな・・・」
教会の鐘の音が鳴る。
昼休みになった、私が教科書を片付けていると文香が声を掛けて来た。
「夜月~、食堂行こう。
今日はエビフライ定食なのだよ」
「うん、いいよ」
「エビエビ、ぴちぴち、エビフライ~」
私は文香と並んで廊下を歩く。
「へえ~文香、香水変えたんだ~」
「えっ、分かる?」
「うん、分かるよ。
だって前のは、ヘドロみたいな臭いだったもの」
「年頃の女子にヘドロはキツイな~。
夜月は、澄んでいてとってもいい香りがするよ」
「そう、ありがとう」
食堂についた、私たちは、並んでエビフライ定食を購入すると、テーブルに着いた。
「うわ~大きなエビ、ねえねえ、早速食べようよ~。
いただきます。」
「そうね、いただきます」
・・・・・・
「うわ~、このエビ、ぷりっぷりっでタルタルソースと絡めると最高~」
「人よりも?」
「そっちはね~。
十人十色っていうじゃない?
まっずいのから極上まで、ピンキリなのだよね~」
「ふ~ん。
じゃあ、私は?」
「すごいよ。
本当にすごいよ!
恋しちゃうくらいに美味しそう」
「私は同性にも異性にも興味が無いの。
遠慮しておくね」
「そうそうびっくりしちゃった。
影舞踏だっけ?
私の動きを封じることが出来る人がいるなんて思わなかった」
私は、微笑みながら言った。
「やられた言い訳?」
「おっ、可愛い顔にタルタルちゃんが付いてますぞ」
文香はそう言うと、ハンカチで私の口元を拭った。
文香が私の目をじっと見て言った。
「エビフライを食べるな」
私は、気にせずエビフライを口に運ぶ。
「今日の定食はあたりだね、文香」
「ありゃ、私のおまじないが・・・
あなた何者?」
「知っているでしょ?
同級生なのだから。
それより私も質問していい?」
「どうぞ」
「あなたは、何がしたいの?
マレフィクス(悪事をはたらくもの)を生み出して」
「もしかして正義の味方様ですか?」
「そう見える?」
「いや、ぜんぜん」
「私の質問の答えは?」
「あいつらが、人を喰らえば、その生体エネルギーが魔力として創造主、つまり私に還元されるの。
そうやって、私たち魔女は、強くなっていくの」
「へえ~そうなんだ」
「本当に知らなかった?」
「知らなかったよ。
想像はついていたけど」
「そうだ、今晩、空いてる?
一緒に夜遊びしようよ」
「カラオケでもするの?」
「もっと楽しいこと。
深夜2時に武庫川の河川敷のテニスコートのあたりで待ち合わせね」
「行くとでも?」
「退屈しているのでしょ?」
「ふふっ、心を読んだの?魔女の力?」
「それくらい分かるわい!」
私は、深夜2時に河川敷のテニスコートに備え付けてあるベンチに座っていた。
「つまらない約束しちゃったな」
遠くからバイクが数台、走って来る音がした。
しばらくするとヘッドライトの明かりが見えて来る。
(バイクが8台、人が13人か・・・)
バイクが止まると、バイクから男たちがぞろぞろと降りて来る。
「よいしょっと」
私がベンチから立ち上がると、男たちが私を囲んだ。
リーダらしき男が私に言った。
「なあ、お嬢ちゃん、これから俺たちはお前に乱暴した後、山に埋めることになっている。
おとなしくしてくれれば、出来るだけ痛くないようにしてやるぞ」
私は、その男に近づく。
「あっ?」
無造作に男の髪を掴むと強引に引っ張り、肩に乗せてぶん投げた。
「うぐっ・・・」
男は地面に叩きつけられて、痛みでもがく。
「こいつ?!」
私は、次の男との間合いを瞬時に詰めると顎に掌底を叩き込んだ。
後方でこぶしを振り上げる男に、後ろ蹴りを見舞う。
男二人が、ほぼ同時に吹き飛んだ。
「なんだ、このガキ・・・」
「狼狽えている場合じゃねえ、行け、行け」
次の男が一歩踏み出す前に、私は間合いを詰め、肘で腹を打ち、裏拳で顔面をとらえる。
男が口と鼻から血を噴き出す。
側面の男に、空中後ろ回し蹴り、逆側面の男に右ボディフックからの左アッパー。
男二人が再び吹き飛ぶ。
「く、来るな・・・」
右正拳突きからの体当たり、下段蹴りで崩れたところに顔面膝蹴り。
一人は吹っ飛び、一人は崩れ落ちる。
「まだ、やるの?」
残った男たちが震えた声で言う。
「やらなければ、やらなければ・・・」
「あが?あが、あががっがががっ・・・」
立っている男たち、倒れている男たち、皆が突然痙攣をし始める。
男たちの目が、ぐるりと白目になると、口から触手が生えはじめた。




