ep.1 夜にさまよう女神に愛されし者
デア・ノクティウァガ(夜にさまよう女神)に愛されしもの、人は私たちを畏怖してバンパイアと呼んだ。
私たちは、永遠にも近い命を与えられるはずだった。
だが、それは200年ほど前に突如にして終わった。
一度眠りについたバンパイアが、二度と起きなくなる奇病が私たちの眷族を襲ったのだ。
不死であるアーレス・スペルバ(誇り高き鳥)の生き血が、病を治すと眷族の予言者は言ったが、その姿さえ、見たものはおらず、病は次々と次の犠牲者を出した。
私たちの眷族が減少した理由は、奇病が大きな原因だが、それ以外にもあった。
私たちを恐れた人間が、私たちを殺すためにハンターギルドを立ち上げ、ハンターが眷族を狩った。
無論、狩られたのはダンピールがほとんどで、私のような純潔は、人間ごときに後れをとるものでは無かった。
2031年現在、残るのは、ほんの一握りだろう、もはや互いの行方も知れない。
私は、誇り高き一族の末裔だが、今は、一人の中学生を隠れ蓑として日々の生活を送っている。
同級生の中山文香が声を掛けてくる。
「夜月、今日は約束のパフェの日なんだから、ちゃんと付き合ってよ~」
「文香、約束は分かっている、行こうか」
現代では、私は、雨宮夜月と名乗って暮らす聖神女学院中等部の一年生だ。
漆黒の長い髪に赤い瞳、はじめは珍しがられたけど、今は慣れたものだ。
私と文香は、文香のおすすめのお茶屋さんに入り、二人は抹茶パフェを注文した。
私たちの前にビッグサイズの抹茶パフェが並ぶ。
ツインテールで丸い顔、大きな瞳を輝かして文香が言った。
「どう夜月、ここの抹茶パフェ、マジでやばくない?」
文香は写真を撮っているが、私は構わず食べ始める。
「やばくはない、美味しいけど」
「それがやばいんじゃない!
このおいしさ、このボリューム!うまうま」
「文香は甘いのが好きだね」
「夜月だって好きでしょう?」
「そうだね、嫌いじゃないよ」
「夜月は、どんな味が一番好きなの?」
「血の味・・・なんてね」
「夜月、バンパイアじゃないんだから~、あははは」
「ふふっ、そうね」
バンパイアは、血を吸う、蝙蝠になる、光と十字架とにんにくに弱い、全て過去の妄想家が、作り上げたものに過ぎない。
かと言って、バンパイアは無敵の怪物ではない。
私は、高い身体能力、不老、高い回復力、それといくつかの特殊能力を有しているに過ぎない。
いや、人からすると十分過ぎるスペックか・・・
「それじゃあ、夜月、また、明日、学校で」
「うん、また明日」
文香と別れた後、私は自分の家に帰った、築50年くらいのアパートの古いワンルーム、一人で暮らすには十分な広さだ。
私は、モノを食べなくても生きて行ける、でも食べると美味しいからたまに食べる、そんな生活だ。
服も数種類を使いまわす、長年生き過ぎるとおしゃれとかもどうでも良くなって来る。
だいたい学校の制服を着て、どこにでも行っている感じだ。
おかげで、女子の部屋とは思えない殺風景な部屋だ。
学校も暇つぶしに通っているに過ぎない、勉強内容は簡単過ぎるので、授業中は、別の本を読むなど好きに過ごしている。
「アーレス・スペルバ(誇り高き鳥)なんて、おとぎ話だったんだろうな・・・」
私は、テレビを付けてスマホをいじる、そしてなんとなくトマトジュースを飲んでみる。
現代のバンパイア、ここに至れり。
テレビの音が聞こえてくる。
「昨日、生瀬町で女性の変死体が発見されました。
女性は、腹部に大きな欠損があり、部位を何者かが持ち去ったような形跡がありました。
現在・・・」
「生瀬町って、近くだな・・・
猟奇殺人か?」
翌日、学校に行くと、話題は例の猟奇殺人の件でいっぱいだった。
文香が、テーブルに来てしゃべり出す。
「夜月、聞いた?
例の猟奇殺人の件」
「ニュースでは知っているけど」
「あれって、女性の腹部を何者かが食いちぎって臓物を引きずり出しているんだって!」
「熊かなんかかな?」
「生瀬町に熊なんてでないと思うけど。
動物路線もありか?」
「夜月、文香、聞いた? 猟奇殺人の話!」
そう声を掛けて来たのは同級生の、花山静だ。
肩までの短めの髪、若干小柄な女子だ。
文香が応じる。
「聞いた聞いた。
犯人は、変質者?それとも熊?
近くだから、超怖いよね~」
「ほんと、怖いよね~って夜月は怖くないの?」
「怖いよ」
「反応薄っ!」
私は、放課後、スーパーに寄ってトマトジュースを買って帰る。
しばらく歩くと、暗い夜道になる、空には月が浮かんでいる。
「夜はいい、特にこんな月夜は、心が晴れやかになる」
「たすけ・・・がふっ」
突如、女性の声がした。
私は、その方向に走り、そして見た。
若い男が女性の腹を何度も何度も包丁でぶっ刺している。
女性の腹を開くと、男の口から触手のようなものがいくつも飛び出し、女性の臓器をむさぼり始めた。
「マレフィクス(悪事をはたらくもの)か・・・」
男は、私には構わず、女の臓器を引きずり出し、さらに貪欲に食を満たす。
(既に手遅れだが、放っておくのも・・・)
私は、男に近づくと、顔面に回し蹴りを放った。
男は、数メートル吹っ飛び、壁に背を打ち付けた。
男の触手が口の中に戻る。
男が言った。
「痛い、何をする?」
「何を?お前こそ何をしていた?」
「俺は食事をしていただけだ」
「食事だと?
人を喰らうのが食事か?」
「そうだ、お前だって牛や豚を食べるだろう?
それと何が違う?」
「では、お前も牛や豚を食べればいいだろう」
「それはもう無理だ、俺は呪われた。
人間以外だと飢餓を満たすことができない体にされたのだ!」
(黒幕がいるってことか・・・)
「誰にそんな体にされた?」
「魔女だと、そいつは言っていた」
瞬間、男は口から触手を伸ばし、私の腕に絡みつかせた。
「お前も食う、食ってやる」
私は手刀で触手をぶった切ると、瞬時に間合いを詰め、足を振り上げるとかかとを落とした。
男の頭がかち割れた。
男は、そのまま崩れ落ちる。
「魔女ね・・・」
私はそのまま影に隠れ闇夜に姿を消した。
風呂上り、私はトマトジュースを飲む。
「魔女ね、魔女狩りなんていうのも、愉しいかな・・・」
私の呟やきは、闇夜にかき消された。
それから1週間が過ぎた、放課後。
「夜月、一緒に帰ろう!」
「文香、いいよ、帰ろ」
私は文香と並んで下校する。
私は言った。
「ねえ、文香、香水変えた?」
「いや、なんで?」
「ん、いや、なんとなくね」
しばらく歩く私たち、文香が言った。
「ねえ、ここの公園よっていかない」
「公園?別にいいけど」
夕暮れ時、公園には人がおらず、少し寂しい感じがする。
文香が言う。
「ねえ、ブランコ乗ろうよ!」
「いいよ」
「夜月、私が押してあげるね」
「そう、あまり強く押さないでね、ふふっ」
「行っくよ~」
そこから文香は動かなくなった。
私が振り返ると、文香はナイフを私に向けて震えている。
「どうしたの文香、押してくれるんじゃなかったの?」
「動けない・・・」
「ああ、私の影があなたの影を制しているから、あなたは動けないのよ」
夜月の影が伸び、文香の影に重ねっている。
「私たちは、それを影舞踏って呼ぶのだけど、知らないよね」
「なんで分かった?」
「さっき言ったでしょ。今までの文香と香りが別人なのだから」
「お前は何者だ?」
「私は、雨宮夜月、聖神女学院中等部の一年生、それ以外にある?」
「・・・・・・」
「あなたが魔女だね。
文香はどうなったの?」
「皮を剥いで、今、被っている。
中身は既に食べた」
「そうなんだ。
文香、可愛そうに」
私は魔女の髪を無造作に掴むと、ブランコの鉄柱に何度も叩きつけた。
額が割れ、血が溢れ出す。
「やめろ、お前は何が目的だ?
友人の敵討ちか?」
私は、魔女の首に、ブランコの鎖を巻き付けながら言った。
「遊びは楽しいに決まっているじゃない」
ブランコを蹴飛ばすと、魔女の首が締まり、魔女は嗚咽を上げる。
「あ、が、や、やめて・・・」
私は強めに蹴飛ばす。
「が、あああ、夜月、助けて・・・」
私は、更に強く蹴飛ばす。
「・・・・・・」
バキッと言う音がして首が折れ曲がった。
「思ったより退屈だったな」
私は、風呂上り、トマトジュースを飲む。
「今度はどんなマレフィクス(悪事をはたらくもの)が、出てくるのかな」
闇夜が、私の言葉を包み込んだ。




