ep.13 逃げ出した男
神子上詩音は、神戸の元町商店街の近くにオフィス兼住居を構えている。
JR元町駅から北に少し行った中華料理店が、詩音の行きつけの店でもあった。
「いや~、ここのエビチリ定食、味もボリュームも満点なのよね」
食事を終えた詩音は、満足げにつぶやいたのであった。
詩音が、オフィスに戻ろうとしていると携帯電話が鳴った。
「はい、神子上です」
「井草だ、話せるか?」
「はい、大丈夫です」
「使い魔にされた御影の大学生だが、警察病院の医師と看護師を襲って逃走を図った。
今、警察とともに捜査中なのだが、カメラの状況から、甲子園方面に向かったと推測される」
「甲子園、もしかすると武庫川高等学園ですか?」
「その可能性が高い、そのつもりで動いて欲しい」
「はい、分かりました」
「それと、犯人は、口から触手を出し、医師の顔を包み込んで、殺害している。
医師は、頭蓋骨まで溶かされた状態だ」
「触手に強酸のような粘液が付いているということですね」
「そういうことだ」
「看護師の方は?」
「看護師は、酸で顔がただれて重症だが、命に別状は無い。
それと犯人を手錠で拘束していたのだが、同じく酸のようなもので溶かされたと思われる」
「強力ですね。
それはやっかい・・・」
武庫川高等学園で、小金井春香は、今日の授業を終えて家に帰る準備をした。
「じゃあ、また、明日」
「ああ、春香、また明日ね。
春香は、靴箱で靴を履き替え、学園から出る。
電車に乗るため、最寄りの駅に向かって歩いていると、知らない男が声を掛けて来た。
「やあ、小金井春香さんだね?」
「えっ誰?」
「俺のこと覚えているよね?」
「だ、誰なの?」
春香は、恐怖した、男のにらみつける目は、血走り、尋常ではない。
だが、この男のことを春香は知らないのだ。
「だ、誰かと人違いしていませんか?
わ、私はあなたのこと知らないですよ」
男はワナワナと震えて言った。
「ふざけるな、そうか、たぶらかした男が多すぎてそう言うのだな?
じゃあ、これなら分かるだろ?」
男は、口から触手をはやし始めた。
「きゃー!」
春香は、逃げ出そうとしたが、男が手を掴んだ。
グッと握力が入ると、痛くて手が動かせない。
「痛い、痛い・・・」
「君に化け物にされてね、俺の人生はどん底なのだよ。
君にもこのどん底人生付き合ってもらうよ」
「ひぃーっ!」
春香は、恐怖で涙があふれ出る。
「そこまでだ!手を挙げろ」
男の声がした。
「警察だ、手をあげろ、彼女を早く離せ!」
「刑事か・・・」
男の触手が瞬時に伸び、刑事の顔を包んだ。
「うおあっ!」
刑事は触手を外そうとするが、外れず、粘液で手がただれて、皮膚が垂れ下がる。
刑事は、しばらくもがいていたが、ひざまずき、倒れこんだ。
男が触手を回収すると、刑事の頭は、ぶすぶすと沸き立っており、ずるりと肉が剥け、頭蓋骨が現れる。
男が春香に向き直り、微笑んだ。
「君がくれた力だ。
お礼に君の全身を舐めて、舐めて、溶かしつくしてあげるよ」
春香は、抵抗の意思をくじかれた。
男は、春香を引っ張り、刑事が乗っていたらしき車に連れ込むと、アクセルを踏んだ。




