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傾国の美妃はひげそりを所望する  作者: まるいのあっと


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【聖女様のブライダルプラン・王都編 婚家の事情】③

見つけて読んで頂きありがとうございます

時間経過的に朝食で襲われる前夜の話です

覚えてないからお気楽な皇子様と、エロエロ覚悟する前の聖女です

 お楽しみいただけたら幸いです

ep5 そうだ! いちゃラブしようぜ。②

 

 

 青い空 爽やかな風 黄金の麦畑 だが、その一角だけが紅に染まっている。


 この匂いは知っている。


 馴染みのある戦場の臭い、腐る肉の臭い 鉄と泥の混じった悪臭。

 その紅の中心にはアントニオ ガヴァナー ウインズ 皇国第三皇子。

 実年齢16歳の筈なのに10歳程に縮んだ姿になっていた。

 

 「誰? 」

 血塗れの姿で名前を問われた。

 女神の?

 ()の?

 

 なんの感情も見えない、子供の無表情はメンタルに結構クるな。

 「ここは〈(めい)前庭(ぜんてい)〉で魂しかいない筈では? 」

 女神に確認しながらちょいと()()()()()()から飛び降りる。

 女神を()()()()

 「冥の前庭は死せる魂が冥府の門をくぐる前段階、魂のカタチが崩れたモノは門を通れば消滅する」

 女神のカタチをした美しいモノは語る。

 「此処は魂のカタチを整えて冥府に送る場」

 

 あれ? …女神が俺を()()()できるか?


 頭が上手く回らない。

 女神に背を向けて皇子の元へ向かう。


 ととと、泥や血で靴や()()()()()()()()()()()()()()()()で皇子の元に駆け寄る。

 俺のことを皇子の目線が追っている、近くで見る皇子の抱いていたモノは…元人間であったモノ…。

 「トニー坊や? 」

 皇子の正面、かがんで目線を合わせて問う。

 人形のような顔にちょっとムッとした表情がつく。

 「()は誰? 」

 「()はマティ」

 ふふんと笑う皇子、ちょっと俺のことバカにした鼻持ちならない感じがしたので鼻つまんでやろうかと考えてしまった…俺の方が大人なのに。

 「()()()が俺とかオカシイ」

 男女差別反対! 鼻、摘まんでやる 決意する。

 が、鼻を摘まむ前にもそりと、皇子の腕の中の元ニンゲンらしきものが動く。

 「何してるんだ? 」

 「楽しい話をしている」


 血塗れの肉塊になった元子供をかかえて? 意味がわからない。

 皇子が俺を見て嫌そうな顔をする。

 きっと俺は凄い変な顔していたんだろう。

 

 「痛いとか苦しいとか言われても何もできない」

 悲し気に元子供を見る。

 皇子の腕の中でもそり、もそりと動く。

 俺が話しかけたせいか?

 「さみしい、悲しいと言われたから俺の知ってる楽しい話をしたら気がまぎれるかと思った」

 子供の発想だ。

 「ユニコーンに鼻で笑われた話をした」

 あれか。

 「角から出る魔力がキレイで金平糖のようだと言ったらお腹が空いたと言われた、けど食べ物を持っていない」

 肩を落としながらも立ち直して元子供の残骸をあやす様に抱きかかえなおす。


 ちょっと考えてワンピースのポケットを探る。

 (たま)に親切な信者が()を孤児院の子供と間違えて菓子をくれることがあったが…。

 俺の指が滑らかな瓶に触れる。


 「食べ物、あるぞ? 」

 何故かポケットにベッドサイドにあった飴の瓶が入っていた。

 「その飴、花の形で舐めやすくて好き」

 ポケットから出した飴に反応する皇子。

 すまんな、これお前のだ(笑)

 女神像を置くとき、置き場がなくてこの瓶と入れ替えたから。


 「やってもいいか?」

 うなずく皇子。

 一応お前んだからな、言質は取った。


 抱いている元ニンゲンの多分ここが口だろう所に飴をねじ込む。


 「乱暴」

 「美味しいからいいんだよ」

 文句が多い皇子、面倒。


 だが、言葉の数だけ表情が戻ってくるように見えた。

 「お前も喰うか?」

 首を横に振る。

 「他の子にもあげて」


 言われて見回すとヒトノカタチをしたものが彼方此方に落ちていた。


 「えー足りるかな」

 俺は素直に手短なヒトガタから飴を口らしきものにねじ込んでいった。

 「本当、()()()なのに乱暴だな」

 ほぼ全員の口に突っ込んだかな? と言う所で後ろの皇子が生意気なことを言いだしたので抗議してやろうと振り返った。

 

 皇子の抱いていたヒトガタから茶色の長い髪が生えて、みたことない服を着た少女になっていた。

 皇子の腕に抱かれたまま黙って飴を舐めていた、が もそもそと立ち上がり皇子に頭を下げる。

 「飴、ありがとう」

 「ユニコーンの話、面白かった」

 それだけ皇子に伝えるとその姿勢のまま光の粒になって消えた。

 

 「冥界の門に入ったか」

 背後で様子を見ている女神が教えてくれた。

 腰に手を当て、彼方を視る男前な女神ケレスティア。

 もう少し後方に黄金の羊を従える女神アルマリノ、黄金の羊、点滅しているが?


 「あれは異界から来た死者、誰かが異世界召喚したんだろうが、その時開いた隙間から溢れた魂かもしれない」

 は?

 話について来れずに呆然としているトニー坊やと俺。


 異世界召喚?


 「異界から来た魂とて捨て置く訳にはいくまい」

 

 「どういう…」


 女神ケレスティアが両手を空に掲げると大きな金色の魔法陣が現れる。


 周りにいたヒトガタが次々、光の粒になって消えていく。

 じっと二人でその様子を見ていた。

 

 いいのかな? と、小首を傾げたが冥府の女神の采配だ。

 光の粒が消えて、魔法陣も消えた空はいつのまにか黄昏ていた。

 子供は家に帰る時間だ。


「かえろう」俺は皇子に手を差し伸べた。

 

 「何処へ? 」

 ぽかんとする皇子に不安がこみあげて来た。

 あれ?

 やべえ、こいつ長いこと此処にいて人の記憶が抜けてきたか?

 

 「俺の名前を言ってみろ」

 咄嗟に腰に手を当てたまま皇子に顔を近づける。

 

 「こんながさつな()()()に知り合いはいないよ」

 失礼な!

 「お前の婚約者だよ」

 凄いきょんとした顔をしている。

 「美人なのは認めるけど、俺にも選ぶ権利はあるだろ」

 ぶん殴る!

 がーっと握りこぶしを持ち上げようとして皇子の表情に気づいた。


 めっちゃ眼、みひらいている 綺麗な青い目だ。

 自分にされて嫌なことを人にしてはいけないと、誰かに教えて貰った記憶。

 前世の母の記憶はない。

 今世で母に言われたのか。

 拳を下ろす。皇子様と目が合った。


 俺が映っている これは前世の子供の姿?

 流れる黒髪、丈のあっていないワンピース、がぼがぼの靴。

 逃げられないよう、逃げてもすぐ捕まえられるよう、サイズの合っていない服や靴を支給されていた頃の。

 いたたまれなくて視線を下げた。

 これじゃあ分からないなと苦笑しながら更に下を向くと皇子が呟いた。

 「マッティア・アブン・ダンティ」

 びっくり、()の長ったらしいフルネームだよ。

 よくわかったなと目線を上げると16歳の年の割に小柄な少年が黄金色の麦畑のなか、あひる座りで見上げていた。


 聞いてみたくなった。

 なあ、あの頃に出会っていたら俺はあんな凄惨な死に方をしなかったかな?


 皇子の両脇に手を入れ足がつかない位持ち上げた。

 「よし、引っこ抜いた!」

 勢いだよ、こういうことは!

 青い空に銀色の髪が流れて輝いている。

 青い目が驚愕に彩られている。

 感情の乗ったその瞳はキレイだと思った。

 

 たとえそれが恐怖でも。

 

 「た、高い怖い! 下ろして! 恐!」

 可笑しくなった俺は笑いながら暴れる皇子を肩に担いだ。

 「そのまま脱出するわよ! 」

 足元から声がすると下を見ると黒いマントの内側にいつの間にか黄金の羊がまとわりついていた、そこから女神の声がする。

 羊、めっちゃ点滅してるんだが。

 「何というお姿に…」

 ごん! と足に羊が体当たりしてくる 横一文字の瞳孔が怖い。

 鼻息も凄い、俺のブーツを汚さないでくれ、サイズがなくて特注なんだ。

 「とりあえず捕まりなさい! 」

 女神に何処どこにと考える隙もなく命令された?

 言われても両手が塞がっていたので仕方なく両足で跨いで挟み込んだ。

 こんなちっさい羊に掴まれないよ。

 「ンメェェェ! 」

 めっちゃ鳴いてるぅ!

 

 う?

 

 皇子の部屋に転移した。

 というか体に戻った?

 足元には黄金から普通の色に戻った羊が俺の足に挟まれぐったりしている。

 「ひどい! 」

 羊を抱いて泣き崩れる女神アルマリノ 俺らより羊が大事か!

 くっ 羊の女神だもんな。

 そしてめっちゃモフり始め、仕舞いには腹吸いまで始める、女神様?

 

 「上手く引っこ抜けた?」

 俺の横に腕組みをして立つ男前な女神ケレスティア。

 担いでいた筈の皇子はベッドで眠っている。


 上手く引っこ抜けたかは不明だが眠る皇子の呼吸は正常に戻っているようだ。


 「後処理は任せなさい、と これは婚約祝い」

 赤い酒瓶と平べったいナニかの燻製を渡される。

 

 ナニコレ?

 

 ニヤリと親父のように嗤う女神ケレスティア、

先程の神々しさは何処へ? イメージ壊れてきました。

 

 「スッポンポポンの生血と黒焼き」

 冒険者ギルドで高値で取引される強壮剤の元!

 女神、ナニ?

 

 「生血はこの子に飲ませなさい、体質改善できるわよー、滋養強壮効果があるから」

 「黒焼きは…粉にして飲むそうよ…がんばれ! 」

 女神、握りこぶしをちょっと振って応援の構え。

 

 ナニを頑張れと!

 

 「両方女神の祝福をつけてあげるから、それと一年以内に結婚してあなたの故郷の辺境に連れて行きなさい」

 これは真面目な話か?

 

 「いちゃこらしてその子の体に魂を定着させるの、人柱の仕事なんかできない位いちゃいちゃしなさい」

 「……はい?」

 きっと今俺は砂漠のブタネズミのような顔をしている。

 「このまま皇宮(ここ)にいたらまた神に人柱にされるから、本当ならそのまま砂漠に連れて行った方がいいんだけど地位のある人間はいろいろ手続きが面倒だと聞いたわ」

 一年以内に結婚→新婚…いや、婿取りか!

 ちょっと現実に固まる、うん 皇子と結婚か…。


 オレ、男とヤレるか?


 「因果と来し方往く末の絆を強めないと人柱に取られる」

 女神セレスティアの銀の眼が俺を見据える。


 女神モード突入。


 「生なこと言ってるんじゃないのよ、覚悟を決めなさい」


 覚悟…俺、娼姫から御立派が過ぎるからと、エロエロ禁止令がでてるんすけど?


 俺はスッポンポポンの黒焼きと生血を抱え、下手なからくり人形のようにコクコクと頷くしかなかった。


 モフる女神アルマリノの首根っこ掴んだ女神ケレスティアが消えると現世の皇子の部屋は静けさを取り戻す。

 

 気が付けばもう夜明け前、地平に朱が射す頃合いだろうか? 結局徹夜してしまった。

 最後にちゃんと息をしているか確認してから結界をとくことにした。

 

 うん、ちゃんと息してる。

 顔を近づけて熱を息を掌で図る。

 体温も脈も大丈夫そうだ、女神から貰った生き血は朝食の時にでも飲ませてみよう。

 朝の、神官達が礼拝の準備を始める為の鐘が細く静かに鳴っていた。

 心音はどうだろう、ふと思い立って寝間着の胸をはだけて耳を当ててみる。

 動いている、普通の状態は分からないが異常がない程度には動いている。

 

 ほっとする。

 

 子供に儚くされるのは胸が痛い。

 と、誰かに襟首をつかまれて引かれた。

 「結婚前ですのでそれ以上は許容できかねます」

 怒の侍従と激おこの侍女、額に青筋立てている護衛騎士に囲まれた。


 しまった、時限タイマー結界を張っていた。

 朝にはカタが着くだろうと。

 

 先程聞いた鐘の音と共に結界が消えた為、扉の外の連中が入って来ていた。


 ノックしろよ。


 「起きた時の為の支度用意してやれよ」

 と、言ってる途中から青筋の立った護衛騎士共に扉の外に放り出された。


 ゴリゴリ頭を掻きながら手袋と女神像を忘れた事に気がついたが、あの様子では中には入れて貰えまい。


 掌をみる、剣ダコのゴツい男の掌。

 〈冥の中庭〉で女神から聞いた。


 〈此処は魂のカタチを整えて冥府に送る場〉

 という言葉。

 ならば俺の魂はあの時惨殺された少女のままなのだろうか…。

 

 「まあ今考えても仕方ない、朝食に出す生血の用意でもするか」


 生まれ変わった聖女は良くも悪くも脳筋にそだったらしい。

次から時間軸が戻ります。

夜会です(笑)

色々な思惑が絡む聖女のお披露目

ナマな事言ってると女神激おこだぞ?

と、聖女が申しております。

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