第八話:他の転生者
エンジェルヘイローの消失を確認した俺らパーティ一行は、お祭り騒ぎのギルドから逃げるように、早めに宿を取った。
宿に向かう途中でミル、もといデカミルさんが「維持できん」と言ったかと思えば、もう既に元の見た目に戻ってしまっていた。
もうデカミルさんのままで良かったのだが。
因みに、フォレナがそう呼んでいたから俺も合わせてデカミルさんと呼んでいる。
あまりにも雰囲気が違いすぎる為、同じ名称でミルと呼び続けるのは違和感があったからである。
「いやーミルも僕たちと同じで変なステータスとはね」
疑ってはいたが、変身魔法で大きくなった角を持つ姿と、ライセンスカードに書かれた異質なステータスを見せられれば魔王と信じざるを得ない。
「これでも衰えた方だがな。早うレベル上げをするぞ」
そもそも魔族は魔力量が高いことが特徴である。
ミルはその中でも突出して魔力量に秀でており、珍しい魔法を扱える。
手を握った相手のレベルを把握する魔法、変身する魔法。
今も宿屋の寝具の上で、服を独りでに動かす魔法をフォレナに披露している。
「ミル、ライセンスカードもっかい見せてくれ」
ショートパンツのポケットに入れていたカードを「はい」と言ってこちらに飛ばす。
にしてもこのステータス……ん?
俺のカードとは違う点があることに気付く。
俺もカードを取り出し見比べてみるがやはり、カードの表面、右側の一辺に着いている色が違った。
「なぁフォレナ、お前のも見せてくれ」
「んあ? なんか気になることでもあったか?」
「いや、なんかな、色が違うんだよ。あれ? お前のは色着いてないのか」
手渡されたフォレナのカードにはどの辺も白、カード本来の色だった。
「あーこれな、転生者は分かるように特別に色が着いてんだ。目印に黄色く塗られてて、魔族はまた別の色で目印がつけられてたはずだぞ」
確かにミルのカードは薄い青色が着いている。
「そんな事はどうでも良い。飯だ、飯に行こうぞ。食い終われば早速レベルを上げに出るぞ」
宿屋に着いて間もないというのに、話を割ってミルが飯を食いたいとほざいている。
少しは落ち着く暇があっても良いだろうと思うが、ミルが寝具の上で飛び跳ねて急かすものだから「分ーったって」と外に出る。
まだ寝るには早い時間だが、下の階の部屋に人が入っていたら迷惑が掛かってしまう。
「しかしお前、そんな小さい身体で食いしん坊キャラとか……キャラが濃いのは結構だが、頼むから金の掛からないキャラにしてくれ」
「鱈腹食わんと魔力の回復が追いつかん」
こんだけ維持費が掛かるのだ。ミルにはしっかり働いて貰わねば。
飯屋となったら……行く場所は決まっている。
本日二回目の定食屋ヴァランに到着。
「いらっしゃ……おや、昼ぶりだね」
「日替わり1を三つね」
「はいよー」
店内は昼に比べてそこそこ客が入っていた。
空いている席に着こうとすると、こちらに話しかけてくる男がいた。
「お前、お前さ、さっき連れてた美人な角のお姉さん誰だよ。紹介しろよ」
こいつは、確かミクリという名前だった筈。
この店は、転生した初日にこいつに教えてもらった。
ミクリも同郷の転生者であり、ギルドで見かけた可哀想な俺を覚えてくれていて、初日に晩御飯に誘ってもらい俺とフォレナにそのまま飯を奢ってくれた心優しい奴だ。
「私も見ました、えぇ見ました、一緒に外に居ましたから」
ミクリの隣に座る体格の小さな髪の長い男も話に加わってきた。
ミクリのパーティメンバーだろうか、会って話すのは初めてだが、独特な喋り方で女性のような髪型でこの距離感でいきなり話かけてくる人種は苦手だ。大学でよく見たオタクが想起される。
「君はミクリのパーティメンバー?」
「えぇいかにも。紹介が遅れましたね、レグラントと申します」
「んで、さっきのお姉さんは?」
「あーあれは……」
ミルの存在をぺらぺらと周りに明かして良いのだろうか考えたが、結論を出すより先にミル本人が喋り出した。
「吾輩だ。魔王である吾輩ならあの程度の魔法造作もない」
「魔王!? まじすか! もっかいあの姿できますか!?」
「魔王」という言葉が店中の客に渡る程、ミクリは拡声器の役割を果たすが如く大きな声で、俺が隠そうか迷っていた情報を拡めた。
ざわつき出す店内。
彼方此方から「え、魔王?」「あの子が魔王?」と話し声が聞こえる。
レグラントも手で顎を抑えながら「成程それは、えぇ有り得る話ではありますね……」などと呟いている。
俺にはまだこの世界の常識が分からないが、魔王と言ったら通常、近寄り難い存在であったり疎まれる存在なのでは無いか。
そうでなくとも、魔王と行動を共にしていることが世間に知れ渡ることで厄介な面倒事に巻き込まれるんじゃ無いかという予感がした。
「あーこいつ! ちょっと魔法が得意だからって魔王を自称してるだけのイタい奴だから! 真に受けなくて良いから!」
俺は周りに聞こえるような大きな声で、大袈裟にそう言った。
「お主、まだ信じておらんのか! なれば、この場の人間に記憶共有の魔法を……」
「あんたら喧しい。ほら日替わりセット」
良いタイミングで料理が運ばれてきた。
「ややこしい真似をするな! ほら、まず飯を食うぞ。はいいただきます」
「む……いただきます」
「いただきまーす」
まだ店内は少し騒めいているが、一旦この場は収まった……ということにした。
飯を食べ進めながら、他の客に聞こえない声量でフォレナに話しかける。
「なぁフォレナ……この世界での魔王の立ち位置ってどんな感じなんだ?」
「んあ? えーと、魔王はぁ……討伐対象? 居ないに越したことはないっていうかぁ……うん、迷惑な存在だ」
「まあそんなもんであろう。人間共が勝手に付けた肩書きではあるが、吾輩は気に入っておるぞ」
予感は正しかった。
ミルに言いふらさないよう念押しをしておく。
「とにかくミル。いくら元だろうが、あまり自分が魔王だなんて周りに言いふらすなよ」
ミルは口いっぱいに米を入れたまま眉を顰める。
頬張ったものを一気に飲み込んで、
「別に良いだろう。恥ずべきこととは思わん」
と、自信満々にそう言った。
「そーゆーんじゃねーの。どっかで恨みでも買いかねないから避けようっつってんの」
「……まあ今の弱ったこの状態ではな。確実に返り討ちにできるかは保証できん」
「頼むから平和に行こうな、な?」
ミルになんとか納得してもらい、その後食事を終えた我々は店主さんに代金を渡して、そそくさと店を後にした。
「よし、腹も膨れたことだ、日が落ち切る前にさっさとダンジョンに向かうぞ」
「えー今日はもういいっしょー。僕疲れたよー何もしてないけど」
街を宛てもなく歩きながらそんな会話をする。
我々パーティは三人中二人がレベル1の超低ランク帯。ミルはとにかくレベル上げをしたがっている。
俺だってレベル上げはしたいが、昨日のこともあり乗る気が起きない。
そんなことを考えていると、フォレナが突然すれ違った人に振り向いて反応した。
すれ違ったその人も同様に、フォレナに反応している。
背の高いお姉さん。あまり歳は離れているようには見えなく、大きめの丸眼鏡の奥にあるその目はフォレナの目と合っていた。
「んあっ! ミヤザワさん、久しぶりだ!」
どうやらフォレナの知り合いらしい。
「わわっ……お久しぶりです、フォレナちゃん。それと、お仲間? の皆さんも初めましてっ」
礼儀正しく我々にもぺこぺこと頭を下げて挨拶をしてくれた。
ミヤザワ、と言ったか。
名前から察するに日本人……つまり俺と同じ転生者だろうか。
「僕にもパーティメンバーが見つかったんだ! ミルとヒシカワ!」
「あ、どもっすヒシカワです」
「元魔王のミルである」
思わずミルの頭を引っ叩いた。
「な、何する!」
「俺の台詞だ! さっきの会話もう忘れたのか!」
「ふふっ。楽しい人たちに巡り会えたんですね。……因みに、これから何か予定があるんですか?」
「ダンジョンに行く。吾輩らはレベル上げをせねばならんもんでな」
「……えーっと……何ていうかっ、あの、あんまりダンジョンは……」
何か言いたいことがある雰囲気だが、あたふたしている、というか迷っている感じでミヤザワさんは言葉を選んでいる様子だった。
「そ、そのっ。行くの良くなくて……なんていうか、あの……私占いができるんですけど、あぁ違うこうじゃない。霊感? じゃなくて……えぇーとっ」
一人でどんどん慌てふためいてくので、一旦落ち着くようにと言った。
「えっと……。このままだと、皆さん……死にます」
急に口から出てきた「死」という予想外の単語に、和やかな我々の空気感が一変した。




