第七話:似たもの同士
― 「服、買いに行くか!」
借金したばかりの人間とは思えない表情と台詞でミルとフォレナを服屋に連れて行く俺。
吹っ切れたのであった。
どうせ既に借金はしている。
初回は転生者の援助として利子は無いが、二回目以降は利子が発生する。
こう説明されたが、そんなことは今考えても仕方ない。
俺は、いくら考えても解決しないことは考えないように癖付けている。
「いやあでも、パーティに入れないというのはかなり痛いな」
服を選びながらフォレナとミルに話しかける。
「確かにこの風体ではな。現状を放置すればフォレナを残して我々は死ぬ他無いからな」
「え!? 死ぬのか俺ら!?」
「契約したであろうが」
「知らねえって! 破ったら何が起こるか説明しとけ!」
お互いを強制するためのペナルティがあるのは予想出来たが、まさか死ぬとは。
「契約内容の不遵守は互いに即死であるからな。最初は契約締結から猶予が一日有った筈だが」
まさか今日死ぬとは。
「あと何時間もしたら死ぬのかよ俺!?」
「短い間だったな。死ぬ前に追加で借金しといてくれよな。まだまだ欲しいものが……」
「残念だったな、追加借金はパーティ全体が借りている扱いだ。俺が死んでも残りはお前が相続することになるぞ」
「死なないでぇー。ヒシカワ君死んじゃうの僕寂しい」
急に態とらしく哀しみだしやがって、このクソガキ。
というか巫山戯ている場合ではない。俺の異世界生活が一週間で終わることになる。さっさと契約破棄だ。
「助かる手段は幾つか有るが……面倒は嫌だ、契約破棄をしないか?」
あるのかい。まぁ焦った様子も無かったしあるんだろうな。
「どんな手段か教えろ」
そもそもこんな殺人鬼を野放しにできないから契約を結んだのだ。
自分の命と天秤に掛けたら、それはもう破棄一択だ。が、可能ならばこのままパーティを組む方向で行きたい。
ミルはレベル上げすらままならない現状の打開策なのだから。
「あの受付を脅すか、成人した奴の身体を乗っ取るか……いや人殺しの制限も契約内容に有ったか」
「平和的にお願いしたい」
殺さないと乗っ取れないのか。てか乗っ取れるのか。
「後はそうだな、変身魔法が有る」
「あるのか。それで行こう」
「この身体の魔力容量や回復速度が今一つ把握できておらん。三、四時間程度か? 即座には使えないぞ」
……昨日何時頃に契約したっけか。少し怖い。
だが平和的に済むなら待つしか無いか。
「分かった、まあ取り敢えず待つしかないな。早くしてくれよ」
「魔力は回復しきってないのか?」
「常時発動しておるからな。体力やら攻撃力やらの強化魔法を重ね掛けておる」
「それ僕にも掛けてくれー」
成程、強化魔法か。ミルはかなり使えるかもしれない。
その後も会話をしつつ、何着か服を購入。
ミルの装備は……何も無くとも問題はなさそうなので、その他装備品等を買いに商店街を彷徨く。
「んな、お前ら頭の上、なんか輪っかが浮いてないか?」
小一時間経った頃だろうか、俺とミルの頭上に何かが見えることにフォレナが気付き指差す。
確かにミルの頭上十数センチのところに薄らとエンジェルヘイローが見える。
「本当だなんだこれ、死ぬのか俺ら!?」
「ああ、後数時間もすれば完全顕現する。輪の中に引き摺り込まれて冥界に飛ばされるが、それ迄には間に合うだろう」
「魔法はまだなのか!?」
「そう急すな。もう暫し待て」
それからミルが転生魔法を使えるまでの二時間、エンジェルヘイローが徐々に明瞭になっていくのが見え、とても生きた心地がしなかった。
そしてミルが「恐らくもう使えるぞ」と言ったかと思えば、ミルの姿はいつの間にか濃い霧に包まれていた。
局所的にミルの周辺に発生した霧は少し発光しているようにも見える。
少しずつ霧が晴れ、ミルの姿がはっきりと見えてきた。
……その姿は、つい先程までのミルとは明らかに頭身が違った。
俺の肩の高さよりも低かった背丈は俺より少し高いくらいまでに上がり、髪の毛は頭の位置が上がった今も尚地面に着く長さに伸びていた。
顔の造形も同一人物だと判断できるか怪しい程大人びていたが、顔よりもその頭に生えている二本の角に視線が行く。
だがそんな違いは些細なものである。
なんといってもこの胸。でかいの一言に尽きる。
買ったばかりの少し大きめだった服が臍を露わにするほどパッツパツになっている。張り裂けそうである。けしからんもんである。
ショートパンツの裾にあった隙間もすっかり肉で埋まり、太ももは息苦しそうにしている。けしからんもんである。
「ふぅ……こんなものであろう。しかし窮屈だな」
突如発生した謎の発光する霧のせいで周囲の視線を呼んでしまったせいで、なんだあの痴女はと街中の人々が注目する。
「ムチムチだぞ……!」「何者だあの角に天使の輪っか」「外であんな格好で……」などと話す声が彼方此方から聞こえる。
そっとフォレナは自分の上着を羽織らせ、俺も上着を脱いで腰に巻かせた。
騒ぎを聞きつけた野次馬が集まり始めていた為、人集りが出来る前にそそくさとギルドに向かう。
「すいません。冒険者登録とパーティ加入をお願いしたくて」
「え? ああ、え?? ヒシカワさんまさか、その人さっきの女の子ですか???」
「受付、この姿なら問題無かろう」
受付のお姉さんはさっきよりも困惑している様子だった。
無理もない。
ついさっき借金していったパーティ一行の服装が一新され……いやそんな事は些細な変化だ。
三人中二人にエンジェルヘイローが追加、一瞬でロリが立派に成長して色気を醸し出し、背後には尾けてきた野次馬。
「えー……と…………」
お姉さんが固まったまま喋らなくなってしまった。
「お願いします。早く登録してくれないと俺ら死んじゃうんです」
少しして頭を抱えながらカウンターの奥に向かった。
奥から何やら話し声がザワザワと聞こえた。
「えと……まあ取り敢えず進めます」
例の魔道具に案内され、俺とフォレナはミルの後ろについていく。その更に後ろには何人もの見物客がついてくる。
手順の説明を軽く受け、ミルが指先を針に刺し魔道具に血を滴らさせる。
「じゃあ四十分後くらいにまた来てください」
そうだった。まだ時間が掛かるのであった。
この四十分間、ミルに何度「まだ大丈夫だよな?」と聞いたことだろうか。更に濃くなるエンジェルヘイローに汗が止まらない。
途中、魔道具前で店員が大騒ぎしていた光景を見て懐かしい気分になった。
まあミルは本当に魔王っぽいし、魔王でなくとも様々な魔法を使えている様子から、とんでもないステータスの持ち主であってもおかしくはない。
そして準備ができた様子が伺えたので、足早に受付へとミルを連れていく。
野次馬は半分程に減ってはいたが、まだこちらに興味を示している冒険者共が後をついてくる。
暇なのかこいつらとガンを飛ばしながらカウンターの前にミルとフォレナを並ばせ、俺は見物客の視線を遮るように二人の後ろに立つ。
「お待たせしました。用意が整ったので、登録の方を進めようと……輪っか濃くなりました?」
「はい、早くお願いします。死にますから」
「えーはい。では名前を」
「ミル、である」
「ミ……ル……っと。ミルだけでよろしいですか?」
ライセンスカードに打刻しながら確認する。
打刻中、カウンターの奥から聞こえる騒めきからは只事ではない雰囲気が感じ取れる。
「ああ。そのままパーティ編入の手続きも頼む」
何枚かの書類の束を捲りながら、素早く手続きを進めてくれる。
「ミルさん……なんですけど、ステータスがですね……」
ライセンスカードを手渡され、三人で覗き込む。
……そこには一桁二桁しかない魔力以外の五つのステータスと、五桁という明らか異質な魔力のステータスが書かれていた。
「百、千、万!? 五、五桁あるぞ!?」
俺とフォレナでさえ四桁という初級者にそぐわない高ステータスを持ってはいるが、レベル1とは思えない、なんなら上位レベルの冒険者から見ても、文字通り桁違いの高ステータスである。
「まあこんなものだろう」
驚くフォレナの隣でミルはしたり顔をしている。
後ろにいた野次馬にもフォレナの声が聞こえてしまい、次第に騒めきが伝染。程なくしてギルド中が騒ぎ出し、俺らは注目の的になっていた。
「なんでこうも異質なステータスばっか集められるんですかね」
お姉さんも最早呆れていた。




