第九話:固有スキルも無い雑魚です。
「んな、僕たち死ぬのか!? なんでだ!?」
会ったばかりの人から突然宣告された死。
赤の他人の死が分かる根拠、いやたとえそれが嘘っぱちだとして、何故そんな嘘を吐く必要があるのかも分からない。
「えーっと……一応理由をお伺いしても?」
「その……多分、ヒシカワさんも転生者ですよね?」
「あ、そうですよね。ミヤザワさんも日本から来た人で?」
「はいっ! ヒシカワさんも転生者なら分かると思うんですが、私の固有スキルで……」
固有スキル。
見に覚えが無い単語がさも知ってて当然かのように出てきた。
固有スキル? 何ですかそれ? と固まってみたものの、ミヤザワさんの口からはそれ以上の説明が出てくる気配が無い。
知ってるのが当たり前らしい。すみませんね、常識すら持ち合わせて無くて。
「固有スキル? 何ですかそれ?」
伝わらなそうなので、そのまま口に出してみた。
「あれっ? 転生してくる時に選びませんでした……?」
あの女神、そういうのはしっかり説明しておけよ。
というか固有スキル与えられてないだろ俺。そういうのはしっかり与えておけよ。
「いやー……記憶にないですね……。多分固有スキルとか無いと思います」
「えっ! そういうパターンもあるんですねっ」
「因みに固有スキルについてお伺いしても?」
「あっ、えーとっ、転生した人が困らないように最低限こっちの世界で役に立つスキルが貰えるんです。転生する直前、女神様に会えるんですけど、いろんなスキルから選ばせてくれて……私は選べなかったので、皆さんが死なないようなのをお願いしたんですっ! ……そしたら皆さんの頭の上に、一日以内に死ぬ確率が表示されるっていうスキルを渡されて……」
成程それで。
「今日は何パーだった?」
フォレナは慣れているのだろう。恐れる様子も無く、どこかわくわくしたような語調で死ぬ確率を聞いた。
「23%だね、今回もフォレナちゃんが一番高いよ。あっ、一応言っておくとヒシカワさんは18%ですっ。えっと、魔王ちゃん? ……は3%ですっ」
思ったより低かった。
……いや、二十四時間以内に死ぬ確率としては充分高いのか。
てっきり80%、90%と言われるものかと構えていたのだが、五回に一回死ぬというだけでも全然危ない。
「まあ吾輩もこの身体ではな。妥当な値ではあろうが、思ったより高いな」
「ヒシカワお前っ、18もあるぞっ。ぷくくっ」
「おめーの方が高いだろうが!」
「僕は仕方ないだろ、そもそも持ってる体力が違いすぎんだよ! てかそんだけ体力あって僕と確率そんな変わらないの雑魚じゃん!」
「素が雑魚に言われたくないわ雑魚!」
ガキ同士の言い争いである。
ミヤザワさんは困ったように笑っていた。
「……まぁこれで皆さんの死ぬ確率は0.1%付近に落ち着いたので。とにかくっ、ダンジョンには行かないようにしてくださいね」
「え、確率変えられるんすか」
「はいっ! 私が干渉することで死ななくなることがあります」
出会い頭にいきなり死ぬと言ってきたのはこの為らしい。
ミヤザワさんはきっと、声をかけるなどして死にそうな人をこのように救って来たのだろう。
相手の死ぬ確率が分かるスキルなんて代物、使いようによっては相当凶悪になり得るだろう。
ミヤザワさんのような心優しい人がこのスキルの持ち主で良かったと心の底から思った。
「それではっ! 皆さんお気をつけて。ただでさえ最近、この街に滞在している人全員の確率が上がったのに……危ないことしないでくださいねっ」
……聞き捨てならないことを言われた。
「なんかあったのか?」
「原因が分かれば良いんだけどね。昨日の夜あたりからいきなり皆の確率十倍になっちゃって。街に長く留まらない人はそんな変わらなかったから、この街に化け物でも来たのかもねっ」
「あー、ミルが来たモゴ」
「怖いすね、んじゃっありがとうございました」
俺は咄嗟の判断で、右手で手を振りながら左手でフォレナの口を塞ぎ、その場を離れる。
同時にミルにも余計なことを言われないように、黙って付いて来いと目配せで圧をかける。
無言のまま宿に足を運んだ。
「……なぁー?」
宿の前まで来たところでフォレナが喋り出す。
「なんだ」
「アレ絶対ミルのせいっしょ?」
「吾輩であろうな」
「お前のせいだろうな」
普通の街が魔王一匹抱えていれば、当然その街の住民が抱えるリスクも上がるだろう。
「十倍って相当だろ……変な事すんなよ絶対」
「でも十倍になっても大丈夫でしょ、そもそもで0.00何パーとかだもん」
「普通はそんなもんなのか……って俺らさっき0.1とか言われたけど」
ミヤザワさんのお陰でリスク回避できたとはいえ、魔王が常に隣に居るんだ。全然安心できない。
異世界に来てからというもの、死の危険に晒されている回数が多い気がする。
何が死ににくい身体だ。
「てかお前、ミヤザワさんと知り合いなのな」
「ん、前まで同じパーティだったからな。あの人のお陰で今の今まで生きてこられたんだ。これ以上迷惑かけたくなくて離れた矢先にお前を見つけた、って流れだ」
俺にも迷惑をかけないで済んで欲しい所ではあるが。
そんな話をしつつ、宿のフロントで手続きをしていると、次はミルが話し出した。
「……おや、もう今日は外に出ないつもりか」
「当たり前だ、さっきの話の流れでそのままダンジョン行くわけないだろ」
「なら明日だ」
「どんだけ行きたいんだ。ダンジョンに行く事自体が危険なんだろ。いつ行っても同じ、駄目だ」
「いや、吾輩の魔力が回復すれば安全だ。今日は使いすぎたからな、そのまま行けば確かに危ういのかも知れん」
「えぇー……怖いからヤダ」
とは言いつつも、確かにレベル上げはしたい。
このままでは借金も膨らむばかりであるし、折角強力な仲間ができたのだ。
レベル上げさえしてしまえば後は楽になる……のか? いや、楽になる筈だ。楽になって貰わねば困る。一生ハードモードは嫌だ。
――そして翌日。
昼まで皆で寝て、飯を食べ終えたその足でダンジョンへ行くこととなった。
「結局行くのか……」
昼食を取り終えたミルは当たり前のようにダンジョンへ向かい、そのまま流れで付いてきてしまった。
すっかり回復したぞと、行くに決まっているだろうと言わんばかりのミルは、俺とフォレナの装備品を勝手に持ち出していた。
ついでにフォレナも乗り気である。
今回来たのは、街から一番近くにあった巨大洞窟を改造したダンジョン。
初心者向けの、所謂定番と呼ばれる所だ。
フォレナに道案内をしてもらい、十数分かけて来たのだが、先ずダンジョンに着いて驚いたのは、洞窟入り口に沢山の人工物があること。
それだけでない。ダンジョン周辺にも店やらが栄えており、見た目から街の中にある唯の施設という印象しか受けなかった。
「パーティネームと皆さんのライセンスカードの提示をお願いします」
どうやらこの世界のダンジョンは管理がしっかりとされているようで、ダンジョンの入り口に関所のようなものが置かれていた。
「パーティネーム……ちょっと時間頂いても?」
「はい」
パーティネームが必要になるのか。このパーティの呼び名なんて考えてもいなかった。
そういえばパーティ申請した時に聞かれた気もするが、確かその時は必須ではないと説明されたので保留にしてもらったのだった。
一旦関所から離れて、フォレナとパーティネームについて話し合う。
「こういう場でもパーティネームが必要になるのか。てかダンジョンってこんな感じなんだな、テーマパークの入場口みたいだぞ」
「ダンジョンに入れる時間が決まってんだ。アナウンスされるときなんて呼ばれるかだから、別にテキトーでも良いんだけど」
「そんな管理されるもんなんだな……なんかダンジョンのイメージ結構違ったわ」
「有名なパーティでも呼び名を決めていないとこだってある。ダンジョンでは貸し出しネームも使えるし……パーティ1とか数字付けただけのやつ」
「あーそれでも良いな……でも折角だし、良いタイミングだ。俺らのパーティネーム決めないか」
「魔王軍で頼む! それと、冒険者カードだ」
フォレナとのやり取りの隙に、ミルが受付に行って勝手に申請をしていた。
「ぉおい、何勝手な事してんだガキミル」
「何だその呼び名は」
「お二人のライセンスカードもお願いします」
……まあ良いか、そもそも別に拘りは無い。だとしても魔王軍なんて呼ばれるのは嫌だが。
「……魔王軍でいんじゃない?」
「良い訳有るか阿呆陀羅」
「入場料、一人銀貨片一枚です」
「え、あはい……えーと、これで」
金取られるのかよ。いよいよテーマパークじゃないか。
思わぬ出費がとても痛かった。




