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――動画は、最初は平穏な船の中を映していた。
雨が降っている音が聞こえ、定期船のモーター音が心地よいリズムを刻む。
船の中には、四人の客が乗っていた。
その中の一人、小さな長い髪の少女もいた。弥生だ。
客は全員、椅子に座り定期船がたどり着くのを待っていた。
だけど……急にカメラが揺れ始めた。
ドンと大きな音を立てたかと思うと、グラグラと画面が揺れていた。
「な、なんじゃ?」「どうしたの」と、客たちの慌てる声が聞こえた。
間もなくして画面は、カメラが横になったように見えた。
いや、違う。船内が、横倒しになっていた。
でも、本来流れるはずの船内アナウンスは流れない。
「助けて」だの、「何が起こった」だの叫び声が聞こえてきた。
その中で、小さな少女の姿が見えた。椅子にしがみつき、大きな声を出した。
「みなさん、落ち着いて!」
それは、紛れもなく弥生の姿。長い髪の少女は、髪を横に垂らして何度も叫んでいた。
「椅子の足元に救命胴衣があるから、それを着て。早く!」
凛とした少女の声に促され、乗客たちは救命胴衣を着ていく。
だけど、一人の老婆だけ救命胴衣に手が届かない。椅子から離れて、壁まで飛ばされていた。
弥生は、自分のそばにある救命胴衣を、その老婆に投げた。
「それを使って、上に!」
弥生の声は、とても澄んでいた。老婆は弥生の鬼気迫る顔に従い、救命胴衣を着せた。
弥生も傾く船内で、少し離れた椅子のところまで椅子の淵をつかんで移動した。
他の人が、救命胴衣をきて傾く船内のデッキ口まで這い上がっていた。
「お嬢ちゃんも、早く!」
「私を待たないで、先に行って!」
戸惑った顔の中年男性の客に、弥生は強い言葉を浴びせた。
中年男性は、弥生の言葉に従って老婆と合流したのちデッキから姿を見せなくなっていた。
そんな客席で、ようやく弥生は救命胴衣を手にしていた。
でも、すでに船は沈んでいた。水のようなものが船の中に入り込んでいた。
下から海水が、ゴボゴボと弥生の足をのみこんでいく。
必死になりながらも弥生は、救命胴衣を探していた。
だけど最後に、「ごめんなさい」か弱い声が聞こえて、画面が暗くなった。
そのあと、カメラには何も映らなかった――




