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『山本 一樹』、式部島と薪島の定期連絡船を運航していたフェリーの船長。
弥生が乗っていたあのフェリーの船長だ。そして今は、議会で電波塔反対派の保守派の代表だ。
初老で日に焼けた肌の男は、憮然とした顔で僕を見ていた。
「この島は変わってはいけない。この島には忘れてはいけない自然がある」
「自然も大事だけど、生きることも大事だ」
「人は死ぬ、死ぬことが人間の最後だ」
山本議員は、僕と向かい合っていた。まわりは、みな山本議員を後押ししていた。
だけど、僕は臆することなく山本議員を見ていた。
「そう、思わぬのか?」
「僕は、君に逢いたかった」
「わしは、そう思えぬだがな」
「この舞台を作ってくれた村長に感謝している。村長の『情報開島』がいかに正しいかを証明できるからな」
「何を言っている、この島は平和だ。そんなものは必要……」
「そうよ、散乱する情報は世界を狂わすだけだわ」
そして、山本議員を援護するかのように出てきたのが井上さんだった。
井上さんは、新聞記者として参考人として呼ばれていた。
「あなたたちは、この薪島を混乱させたいの?」
「情報は、間違っているとあなたはおっしゃいましたね?井上さん」
「そう、情報化で得られるものは、混乱しかないわ。
多すぎる情報は、混乱を招く。それは変えてはいけないものまで、変えてしまうこと」
「僕の妹、『草薙 弥生』も変えてはいけないものでしょうか?」
僕の言葉に、井上さんは眼鏡を微調整した。声を、発することはしない。
「三年前の七月十九日、『草薙 弥生』という僕の妹は確かに存在していました。
七月十九日の最終便に、薪島から定期船に乗り込んでいました。ですが……」
そういいながら、僕はカバンの中に入れていた新聞をとり出した。
「これは分かりますね」
「なに?どういうこと?」
「井上さん、これはあなたの記事ですね?」
前に出したのは、三年前の新聞記事。
それは、三年前七月二十日の『薪島新聞』朝刊。そこには『フェリー座礁事故』を、書かれていた。
思わず、冬子さんは顔をそむけてしまう。
「そうね、これがなんだというの?」
「この事故では、『全員無事』や『奇跡の船長』と書かれているのが分かりますよね」
「そう、この事故は無事に解決した事故よ。でもあなたたちは、そこにありもしない人物がいたと……」
口を尖らせて反論してくる井上さんは、あきれ顔だ。
「果たしてそうでしょうか?」
「そうよ、あなたたちだって捜索したでしょ。
事故現場に、そんな子の死体があったの?全く見つからなかったのは、分かっているでしょ」
「これを見てください」
そういって、僕は端末の別のページを指でタッチしてある動画を呼び出した。
端末で表示された動画は、ある船内のモノだった。
少し薄暗い船内を、天井あたりからはっきりと写していた。




