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三日後、僕は薪島に来ていた。
そして、薪島のほぼ中央にある薪島村役場に来ていた。
冬子さんに呼ばれてきた僕は、スーツを着ていた。こういう場は何度も来ているけれど、緊張するなぁ。
僕が通された場所は、役場の会議場。
「さて、私が今回呼んだのが公約『情報開島』のために呼んだ協力者である」
冬子さんの説明で呼ばれた僕。周りでスーツを着ていた僕よりも高齢の議員たちはいっせいに野次を飛ばした。
「なんだよ、そんな必要はない!」
「薪島を混乱に落とす気か!」
浴びせられる罵声の中、僕は真ん中に立った。
プレゼン初の完全アウェーだ。前には長老たちが僕を睨んでいた。
冬子さんにはいろいろ聞かされていた、周りの議員はほぼ半数以上が『保守派』の議員。
『情報開島』や電波塔建築に反対している、与党の議員たち。
その中心にいるのが、新聞記者として取材している『薪島新聞社』の井上さんだ。
隣にいた冬子さんが、スーツを着て『村長』と書かれた席についていた。
「僕は『クサナギエージェント』社長『草薙 駿』といいます。
本土で『IT関連』会社を経営しています」
「なんだよ、本土の人間は関係ない!」
「薪島のことは薪島の人間で十分だ!」
「僕は、元々薪島村に所属する式部島で生活していました」
島の名前を出すと、野次が心なしか収まった気がした。
「この島には、最近『孤独死』問題が起きているのをご存知ですか?」
「孤独死、それがどうしたんだ?」
「僕達は市長から要請されて、『孤独死』問題解決のためのITを開発しようとしているのです」
「それで、電波塔?この島の景観をなんだと思っている?」
「薪島の主な産業は観光なんだぞ。それを電波塔で景観乱して……」
「静粛に」
冬子さんが強い口調で言うと、野次が収まった。
いつもながらに凛としている冬子さんは、頼りになるなぁ。
「そこで、我がクサナギエージェントが技術を結集して開発したものがあります」
そして、僕は先日『ナムラコーポレーション』と開発した一枚の鏡を取り出した。
「か、鏡?」
「なんで鏡が?」
「これはただの鏡ではありません。カメラありますか?」
僕は議会を中継している、ケーブルテレビのカメラマンを呼びつけた。
大きなカメラを担いだカメラマンに、大きな鏡を撮らせた。
「いいですか、よく見てください」
僕がそう言って鏡の表面を指でなぞると、鏡から文字が浮き上がってきた。
『Welcome YAYOI SYSTEM』と。
「うわっ」「なんだこれ」と驚きの声が、議員から聞こえた。
「これは、我がクサナギエージェントが開発した『YAYOIシステム』です」
そして、文字が消えて鏡に出てきたのがアニメ絵の一人の女の子だ。
それは、紛れもなく僕の妹『草薙 弥生』の姿。
『DEXSY』公式キャラクター『月歌人』三月担当の弥生がその姿を見せていたから。
冬子さんは、それを見て顔を隠しながら泣いていた。
「『YAYOIシステム』は、音声認識ができる鏡型タブレット情報端末です。
ナビゲーター役の『YAYOI』に話しかけることで、知りたい情報を表示してくれます。
これはまだ試作品で、声の吹き替えや音声認識はできませんが画面の表示だけです。
もちろん、鏡に浮き上がったボタンを押すことでも知りたい情報を得られます」
「な、そんなものでどうやって孤独死を対策できるっていうんだ?」
議員の一人がかみついたが、僕は『YAYOIシステム』の画面のボタンを指でタッチした。
すると出てきたのが、ネットワークの画面。島をつなぐネットワークと鏡の図が出てきた。
「この鏡を、ネットワークでつなぐのです。
人は、毎朝鏡を見ます。歯を磨くとき、化粧をするとき、顔を洗うとき。
必ず一回は鏡を見ます。そこで、市側でこの端末を各家庭に配布します。
配布した鏡を、普通の鏡の代わりに設置してネットワークで結びます。そして、中央の役場で管理するんです」
「ネットワークで結ぶ?」
「そう、その家庭でもし鏡を見ないことが分かれば、その家で何があったか分かるじゃないですか。
この鏡は、入力装置であると同時に、出力装置でもあるのです」
『YAYOIシステム』の鏡の中の弥生はにこやかな顔を見せていた。
その顔は、僕にいつも好きな人の話をしてくれる弥生の笑顔そのものだ。
「なるほど、考えたな」
「それにネットワークですから情報も得られます。この島の主な産業は観光と、漁業で間違いありませんね」
「ああ」一人の議員が僕に同意してきた。
「この鏡、テレビ代わりにもなるんです。
議員さんには、パソコンも支給されているのですが、パソコンの代わりになります」
「な、なんと本土はそこまで進んでいるのか?」
「ITは日進月歩ですから。今の世の中は、文明の進化速度は速いです」
「だけど……」そんな時、一人の人間が手を上げた。
それはこの村議会の与党で初老の男性。白ひげで、四角い顔に風格のある日に焼けた顔。
「ええ、なんですか?奇跡の船長『山本 一樹』議員」
僕は、その名前を知っていた。初老の議員は、落ち着き払った顔で立ち上がった。




