25
その日は、いろいろと忙しかった。
夕方から、『ナムラコーポレーション』との会合。
そこで、夏帆と会議した例の話をした。
僕達だけでは、できないこともあった。
むしろ、それは『ナムラコーポレーション』と連携して開発しないといけない。
冬子さんとも連携しないといけない、僕らは大きなプロジェクトを始めていた。
会議を終えて、僕はようやく家に帰ることができた。
夜十時を回ったところ、僕は自宅のマンションに帰っていた。
僕のマンションには、昼間学校で確保した着物女性の冬子さんがソファーの上で正座していた。
「遅かったではないか」
などといいながら、ちゃんと夕食を用意していた。
「今日は、駿の好きなから揚げにしたぞ」
と言いながら、勝手に冷蔵庫を開けて缶ビールを飲んでいた冬子さん。
から揚げのおいしそうな匂いはするものの、僕は夕食を既にとってきて満腹だった。
他にも、一人暮らしではあまり食べない豪華な食事が並ぶ。よく見ると、塩辛いものばかりだ。
「酒のつまみ、ばかりじゃないんですか?」
「まあ、飲め。本土の酒は、久しぶりにうまいな」
「ま、まあ飲みますけど」
少し顔が赤い僕は、冬子さんが差し出してきた缶ビールを手に持った。
着物の裾をはだけている冬子さんには、大人の色気があった。
やわらかい生足が出ていて、胸のあたりも開けていた。これが熟女ってやつか。
「何を見ている?私も女性っぽいだろう」
「べ、別に。それより冬子さん、今日は式部島に帰らなくていいんですか?」
「ああ、今日の船は欠航になった。向こうは、雨が降っているらしい」
少し出来上がった冬子さんは、豪快にビールを飲んでいた。
「それより、あの女か。ようやく作ったな、駿君」
「違いますよ」もちろん否定した。夏帆と一緒にいるところをバッチリ見られたからだ。
「あんな彼女がいるとは、すごくうれしそうに話もしていたみたいだし」
「そ、そうじゃない。断じて違う、夏帆は僕の秘書で……」
「ほおぅ~秘書とは、また禁断の関係じゃのぅ」
冬子さんは、赤い顔で僕のことを見てくる。僕はちょっと赤く照れていた。
「……だが、それがいい」
「冬子さん?」
「私たちは、ずっと弥生に固執していたのかもしれないな」
缶ビールの側面を見ながら、窓を眺めた。八階から見える景色は、東京の夜景。
「だから駿君、お前が人並みの恋をしてくれて嬉しいのだよ」
「冬子さん……今までありがとうございました」
「いいぞ、私も子供が好きだからな」
僕は、いろんな思いがあった。冬子さんとは、血がつながっていない。
高校の時で弥生が落ち込んで無感情になっていた時から、冬子さんは母親代わりとして接してくれた。
それに対しての、感謝を伝えたかった。だから、冬子さんに手伝いはしたい、恩も返したい。
「今更、礼など構わぬ。少し恥ずかしいぞ」
「それでも、僕や弥生がこうして真っ直ぐ育ったのも冬子さんのおかげですから」
子供の時はつっぱって言えないことも、大人になって仕事するようになって、分かることもあった。
こうしてみると、冬子さんは本当に僕の中で偉大な存在だったと知った。
「そうか、それは嬉しいな」感動したのか、冬子さんは僕から顔を逸らしていた。照れたな。
「冬子さん……」
「ちょっと、顔を洗ってくる」
「はい」
そう言って、洗面台に向かった冬子さん。
ソファーから見えた鏡には、冬子さんが泣いているのが見えた。
だけど、僕に対して背中を向けて必死に隠していた。




