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YAYOI(下)  作者: 葉月 優奈
六話:旅立ちの夏
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お昼も二時間が過ぎたころ、僕は夏帆と一緒にファミレスに言っていた。

中華料理のチェーン店のファミレスは、いつも僕たちの会議場所。

桃のマークが目印のあのお店。

僕はラーメンを食べ終えて、自分たちの会社で開発した情報端末を出していた。

夏帆もまた、自分の情報端末を置いていた。


僕と夏帆でテーブルを占拠して、夏帆は重そうなリュックを隣の椅子に置いた。

スーツ姿にリュック姿、さぞかし目立つ夏帆。だけど、いつも通り周りを気にしない。

そんな夏帆の前には、なぜか杏仁豆腐と紅茶。


「やっと置いたな、そのリュック」

「食べる時と寝る時だけは、置くのは当然です」

前の飲み会のときには、ずっと背負っていなかったっけ。

などと突っ込みを入れながら僕は、情報端末を操作した。


「それより会議でしょ」

杏仁豆腐を持つスプーンを持ちながら、僕の方に顔を向けてきた。

実は『クサナギエージェント』に会議室はない。

まだ大きい会社でもないので、こうやってファミレスを使っていた。

そしてその時には、情報端末を使うのだ。


「また、僕のせいで君たちには迷惑をかけるかもしれない」

「あらまって、何?前置きはいいから」

「夏帆のそういうところが、大好きだ」

「嘘ね」持っていたスプーンを僕に向けていた。


「何を言っている、本当だ」

「下心ミエミエよ、社長。それが本当なら、セクハラです」

「ああ、セクハラというのは間違いじゃないな。僕は野心の塊だから」

「草薙社長、それは会社運営に大事です」

「理解してくれるのか、夏帆」

「理解しなければ、ついてきません。ここは私の居場所ですから」

右手のスプーンで杏仁豆腐をすくいながら、左手で器用に端末のタッチパネルを操作していた。


「そうか、ならば大好きな僕の意図も……」

「素直になりなさい、社長。あなたは妹好きの、ハイパーシスコンなのだから」

「そう、シスコン。それでも僕は間違っていない」

「だからこそ、社長は私を好きにならない」

「あのさ……夏帆。タブレット見てくれるか?」

そう言いながら、端末を操作し終えた僕は端末の画面で送信ボタンを押す。

杏仁豆腐を上品に食べ終えて、タブレットを見ていた夏帆は口を丸く開いて頷いていた。


「なるほど、確かにシスコンだわ」

「だろ、大好きな夏帆に頼みたいんだ。僕達の端末で……」

「『ナムラコーポレーション』様にそのことを報告しないといけないわ」

そんな夏帆は、店内の方に目をやった。夏帆の視線の先には、老人夫婦の姿がいた。

中のよさそうな老夫婦が、おいしそうに中華料理を食べていた。

僕の画面には、弥生のアニメ絵が相変わらず笑顔を見せていた。


「ねえ、草薙君」

「夏帆、その呼び方は久しぶりだな」

「未来は、ああいう将来になるというのね」

「そう、だけど僕たちはそれを手助けするツールでなければならない」

「それが『クサナギエージェント』ね」

「そう、夏帆。この会社の目的、ようやく見つけられた気がする」

「草薙君?」

「夏帆、この名前をつけてくれてありがとう」

「いいのよ、感謝の言葉なんて。私は感謝よりも、居場所が欲しいから。

だから草薙君、私にもっと居場所を作って」

夏帆の言葉に、僕は頷いた。そんな瞬間、店内に着物を着た女性が一人で入って来た。


(う、嘘だよな?)

一瞬目をこすって確認したけれど、それは嘘ではなかった。

そして着物女性は僕を見るなり、まっすぐに近づいてきた。


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