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二年たつと『クサナギエージェント』も規模が大きくなった。
あれから三時間後、僕たちの仕事場にやってきた。
大学敷地内のプレハブから、東京都内の大きなオフィスビルに移った僕たち。
IT会社『クサナギエージェント』、社員は四十名ほどの中規模会社になっていた。
様々な情報端末を開発する中で、今はいろんなモデルを販売していた。
ソフトを作る技術はないが、入口にあるガラスケースに多くの情報端末を作っていた。
最近は携帯事業にも、手を出すようになっていたが。
それもこれも、十二人のマスコット『月歌人』に支えられていた。
『月歌人』は、『DEXSY』の専属マスコット。だけど、肖像権は僕達『クサナギエージェント』のもの。
ビルの七階のオフィスに入ると、十二人の月の格好をした男女の月歌人のパネルが出迎えてくれた。
一月の格好は振り袖姿で、二月の格好はスキーウェアを着ていた。
三月は、弥生の姿をイラスト化した女の子が笑顔で日記を持っていた。
四月、五月……十二月まで季節ごとにキャラクターがそれぞれの格好をしていた。
それが、人気を博している。グッズ化の販売まで行われるようになったので、特許も申請した。
イラストレーターに頼んで誕生した、僕達のマスコット、象徴だ。
広くなったオフィスには二十人ほどの社員が働き、パソコンも大量に増やして稼働していた。
社長室のないオフィスの僕は、一番奥のデスクでパソコンに向かっていた。
「さて今日の、メールは……」
デスクの前で、画面をチェックした。
パソコンのそばには、いくつもの情報端末。僕は試作品をいくつも置いていた。
新しい情報端末が、なかなか完成しない。
音声認識は何とか形になったけれど、後は端末としてもう一つ認識方法を考えていた。
「どれどれ、相変わらず苦情が多いな」
「そうね、多いわ。でも、それだけ知名度が上がった証拠よ」
秘書として立っていた夏帆は、いつも通り濁った眼で僕の背中に立っていた。
「ああ。本当に大きくなったな。僕の会社」
「だけど別れもあった」
そんなオフィスの片隅に、ぽっかり空いたデスク。
「小泉さんは、退職しましたね」
今年の一月、小泉さんは退社していた。
『草薙君、君一人の力ではどうにもならないことがある。
そういう時は、ほかの人を巻き込んでも成し遂げることが必要だ』
そういいながら、アニメポスターと一緒に小泉さんは居なくなった。
だから、何もないデスクを見ると少しセンチメンタルな気分になってしまう。
そんな僕の背後には、大きな窓。
春の心地よい風が、空いている窓から流れてきた。
「それにしても春ですね、三月ですね」
「ああ、そうだな」
僕が開くパソコンの画面には、イラスト化された『月歌人』の弥生が微笑んでいた。
本物の弥生は、いまだに見つかっていない。そして、弥生の捜索を冬子さんは打ち切っていた。
「夏帆、今日は会議を開けるか?」
「新しい企画会議です?」
「ああ、薪島村に持っていく新しい情報端末の話だ」
「了解しました。それでは、お昼にでも例の場所で」
夏帆が言うと、僕は頷いた。




