20
一週間の滞在の後、本土に戻っていた。
そこからさらに一週間、僕は調べ物をしていた。
その日、全てが片付いて僕は会議を行うために先方に連絡していた。
ここは、東京でも飲み屋が集まる場所。夜になると、活気があふれていた。
焼き鳥が上手い飲み屋、酒が並ぶ席を四人ほどで囲んでいた。
僕の前には『ナムラコーポレーション』の『DEXSY』担当ディレクターがいた。
僕の隣の夏帆は、赤い顔でビールをうまそうに飲んでいた。
前のサラリーマン風の男性は、僕達の会社で開発していた情報端末の画面を凝視していた。
一応言っておくが、これは会議だ。
飲み会という場で腹を割って話をできるのがメリットだ、夏帆が議事録もとっているし。
本来は会議室で行うが、プレゼン資料をあらかじめネットで送っていた。
『DEXSY』の公式キャラクター、それは十二人の女の子だ。
「サンプルデータを送りました、十二人の『月歌人』です」
旧暦を模した十二人、イラストを小泉さんが書いた。
「睦月、如月……なかなかいいじゃないか」
「ええ、しかもその子たちは実在していた人なんです」
僕達が考えたのが、実在した十二人の少年少女。
あの後、若くして犠牲になった少年少女の話を僕は調べていた。
それは、死んだのに理解されずに認証されなかった少年少女。
それでもみんな生きていたんだって、笑顔を見せていた。
「興味深い、本当に彼らは実在していたのか?」
「先方に了承は、既にとってあります。
細かなプロフィールは、紛れもなくキャラクターで設定したものではなく生きた証です。
どういう風に生きて、どういう風に死んでいったか」
僕の目頭が、熱くなっていた。真剣に聞く、ナムラのディレクター。
「そうか……なるほどな」
「親の虐待で死んだ少年、学校のいじめで自殺した少女、恋人に殺されて山中で遺棄された少年……」
言うだけで辛くなるような少年少女のエピソード。
でも彼らも、死ぬまでは生きていたんだ。
ただ、都合が悪くなって隠蔽されて生きた証さえも消された少年少女。
「なんだか、辛い話ばかり」
「そう、辛い話。でも事実です」
「おいしいわ、ビール。あなたも飲みなさい」
そう言いながら、完全に酔っぱらった夏帆が前に座っている男性にビールを飲ませていた。
夏帆は、議事録を……とっていそうにないな。
ビールを飲んだ夏帆は赤い顔で、前の男性は困惑していた。
「僕は、始めは卒研として情報端末つくりをしていました。
単位を取るため、だけど僕は大事な妹を亡くしました」
「三月の子、か?」
「はい、『弥生』です。彼女は、僕にとって全てでした。
いろんなものを共有した、かけがえのない仲間、守るべき妹でした。だけどまだ戻ってきません。
きっとどこかにいるんでしょう、僕にとってそこが辛いんです」
「なるほど、感情論ですか。あなたの妹さんへの思いで、会社が動いているんですか?」
「きっかけは、そうです。弥生の死を忘れるために、夢中になってこの情報端末を完成させた」
嘘はつきたくなかった、真実を言いたかった。
真顔で言う僕に、ナムラ側のスーツを着た中年男性が表情を固めていた。
「この端末を作るきっかけをくれた弥生は、存在していたんです。
だから、それを僕はこのキャラクターにぶつけたいと思います」
「わかった、君らを試すようなことをして悪かった」
そう言って頭を下げたのが、中年男性。
「試す?」
「ああ、君たちは卒研からビジネスを始めている。いわば大学の延長だ。
遊び感覚でビジネスパートナーを、我々は選ぶつもりはない。会社は、命を懸けて社員を守らないといけない。
だからビジネスパートナーには、高い要求をしていく。
君らはまだ正直信用できなかったが……どうやら思い過ごしの様だ」
「それじゃあ……」
「よかろう、これからも頼む。『DEXSY』のイメージキャラクターに採用しよう」
「ありがとうございます」
僕は、社会人になって覚えた礼儀、立ち上がって深々と頭を下げた。
だけど飲み屋で、それは目立ってしまった。




