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YAYOI(下)  作者: 葉月 優奈
五話:大七夕の奇跡
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一週間の滞在の後、本土に戻っていた。

そこからさらに一週間、僕は調べ物をしていた。

その日、全てが片付いて僕は会議を行うために先方に連絡していた。


ここは、東京でも飲み屋が集まる場所。夜になると、活気があふれていた。

焼き鳥が上手い飲み屋、酒が並ぶ席を四人ほどで囲んでいた。


僕の前には『ナムラコーポレーション』の『DEXSY』担当ディレクターがいた。

僕の隣の夏帆は、赤い顔でビールをうまそうに飲んでいた。

前のサラリーマン風の男性は、僕達の会社で開発していた情報端末の画面を凝視していた。


一応言っておくが、これは会議だ。

飲み会という場で腹を割って話をできるのがメリットだ、夏帆が議事録もとっているし。


本来は会議室で行うが、プレゼン資料をあらかじめネットで送っていた。

『DEXSY』の公式キャラクター、それは十二人の女の子だ。


「サンプルデータを送りました、十二人の『月歌人(ゲッカジン)』です」

旧暦を模した十二人、イラストを小泉さんが書いた。

「睦月、如月……なかなかいいじゃないか」

「ええ、しかもその子たちは実在していた人なんです」

僕達が考えたのが、実在した十二人の少年少女。


あの後、若くして犠牲になった少年少女の話を僕は調べていた。

それは、死んだのに理解されずに認証されなかった少年少女。

それでもみんな生きていたんだって、笑顔を見せていた。


「興味深い、本当に彼らは実在していたのか?」

「先方に了承は、既にとってあります。

細かなプロフィールは、紛れもなくキャラクターで設定したものではなく生きた証です。

どういう風に生きて、どういう風に死んでいったか」

僕の目頭が、熱くなっていた。真剣に聞く、ナムラのディレクター。


「そうか……なるほどな」

「親の虐待で死んだ少年、学校のいじめで自殺した少女、恋人に殺されて山中で遺棄された少年……」

言うだけで辛くなるような少年少女のエピソード。

でも彼らも、死ぬまでは生きていたんだ。

ただ、都合が悪くなって隠蔽(いんぺい)されて生きた証さえも消された少年少女。


「なんだか、辛い話ばかり」

「そう、辛い話。でも事実です」

「おいしいわ、ビール。あなたも飲みなさい」

そう言いながら、完全に酔っぱらった夏帆が前に座っている男性にビールを飲ませていた。

夏帆は、議事録を……とっていそうにないな。

ビールを飲んだ夏帆は赤い顔で、前の男性は困惑していた。


「僕は、始めは卒研として情報端末つくりをしていました。

単位を取るため、だけど僕は大事な妹を亡くしました」

「三月の子、か?」

「はい、『弥生(YAYOI)』です。彼女は、僕にとって全てでした。

いろんなものを共有した、かけがえのない仲間、守るべき妹でした。だけどまだ戻ってきません。

きっとどこかにいるんでしょう、僕にとってそこが辛いんです」

「なるほど、感情論ですか。あなたの妹さんへの思いで、会社が動いているんですか?」

「きっかけは、そうです。弥生の死を忘れるために、夢中になってこの情報端末を完成させた」

嘘はつきたくなかった、真実を言いたかった。

真顔で言う僕に、ナムラ側のスーツを着た中年男性が表情を固めていた。


「この端末を作るきっかけをくれた弥生は、存在していたんです。

だから、それを僕はこのキャラクターにぶつけたいと思います」

「わかった、君らを試すようなことをして悪かった」

そう言って頭を下げたのが、中年男性。


「試す?」

「ああ、君たちは卒研からビジネスを始めている。いわば大学の延長だ。

遊び感覚でビジネスパートナーを、我々は選ぶつもりはない。会社は、命を懸けて社員を守らないといけない。

だからビジネスパートナーには、高い要求をしていく。

君らはまだ正直信用できなかったが……どうやら思い過ごしの様だ」

「それじゃあ……」

「よかろう、これからも頼む。『DEXSY』のイメージキャラクターに採用しよう」

「ありがとうございます」

僕は、社会人になって覚えた礼儀、立ち上がって深々と頭を下げた。

だけど飲み屋で、それは目立ってしまった。


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