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YAYOI(下)  作者: 葉月 優奈
五話:大七夕の奇跡
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式部島に来て、早くも三日が過ぎた。

僕は、薪島在中のカメラマンと一緒に薪島を歩いていた。

四十代後半のベテランカメラマンで、ひげを生やしていた。

ちなみにガイド兼務で趣味は、釣りらしい。あとはおしゃべりなところか。


僕達二人で、ホームページに作成する写真を撮るため車で移動をずっとしていた。

いつもカメラマンが運転する車で、薪島を歩く。

薪島は式部島から見えるけど、行ったことはそういえばないなぁ。


薪島や式部島の文明の遅れには、正直驚かされた。

携帯電話はないし、インターネットもつながらない。

この島の情報は、独自のケーブルテレビと新聞のみ。

東京都内なのに、かなり情報面では遅れている島だった。まあ、それには理由もあったけど。


そんな曇り空の今日も、僕はカメラマンと一緒に薪島を歩いていた。

男二人で、街中を歩くのは趣味ではないが。


「曇っていますね」

「これがカメラか」

そして会話が、全くかみ合っていない。


カメラマンは、なぜか僕の携帯を持って歩いていた。

自分の黒い立派なカメラは、首にぶら下げたまま。


「都会はモダンだな~、随分進歩しているんだな」

「モダンというか、まあ、そんなところです」

そんな僕達の前に、人だかりができていた。

でも、集落の商店が騒がしそうだ。

それ以上に、カメラマンのおじさんのテンションも高かった。


「おおっ、そうか今日はそうだったな」

「なにか、あるんすか?」

「何を言う?『大七夕』の今日は、『織彦大行進』がやるんだ。ガラスの織姫と、彦星が集落の大通りを歩くぞ」

カメラマンは、嬉しそうに語ってひげをいじっていた。


七月七日から一週間、薪島は『大七夕』が行われていた。

七夕を、一週間かけて祝うそういう習慣が薪島にある。それが、『大七夕』なのだが。

薪島の年に一度の大きな祭、僕は聞いたのも二回目だ。


日が沈みそうな夕暮れ時、大通りに近づくと多くの人だかりができていた。

見物客とかも、全てこの薪島の祭りを見るためだろう。


「これは、撮らないと。なにせ薪島のメインイベントだ」

僕に携帯を投げ返して、鼻息荒く、首にぶら下げたカメラを構えていた。

腕時計を確認して、カメラのファインダーを覗きこむ。


「ちょ、ちょっと……」

「シャッターチャンス、もう来るのか」

「まあ、分かりました。じゃあ、僕はこの祭りをゆっくり見ているとします」

「おう」と相槌をうって僕は少し離れた。沿道には確かに人が集まっていた。


少し日に焼けた黒い肌のカメラマンは、首にカメラをぶら下げていた。

年季の入ったアナログカメラを持ったカメラマンのそばで、マラソンでも来るのかときれいに沿道に集まった人。

それからほどなくして、周りの群衆が騒がしくなっていた。

やはり、アナログカメラを持っている人が多い。


「おっ、きたきた」

そこにいたのが色鮮やかな、ガラスで表現された織姫の姿がみえた。

色のついたガラスで輝く織姫は、キラキラと曇り空から。

カラフルなガラスの織姫が、木製の神輿の上に乗って男たちに担がれていた。

その男たちは、着物を着ていた。


「シャッターチャンス、シャッターチャンス」

カメラマンは、何度も何度もカメラをいろんな角度から神輿を撮っていた。

人でにぎわう大通りの熱気は、とても暑かった

汗をかいた僕は、大通りの熱気に押されそうになった。

そんな神輿が流れる姿を見て僕は、弥生が前に言っていた言葉を思い出した。


『あのね、私。志田君に『大七夕』を誘われたの』

一年前に弥生が、死ぬ前に玄関で言ってくれた言葉。弥生が見た『大七夕』を、僕は初めて見ていた。


(きっと弥生も、これを見ていたんだろうな)

ガラスの織姫は幻想的で、とても美しかった。僕は、それに見とれていた。


「ねえ、草薙さん」

「ん?」写真を撮りながら、カメラマンは僕に声をかけてきた。

「すごいだろ、『大七夕』。薪島の伝統って感じだろ」

「へえ、薪島ってこんなことをやっていたんだ」

ただガラスの織姫が、神輿に乗って大通りを練り歩くだけなのにいろんな感情が出てくるのはなぜだろう。

美しくて、儚く、熱狂的で空しい祭。四つの感情を、同時に感じていた。

前を通り過ぎた神輿、それでも興奮冷めやらない沿道。


そんな時、僕は沿道の反対側である人物を見かけた。

その人物は、僕が覚えている見知った人間の顔だった。

その男は、短い髪の男子中学生。

(あれは……)

男子中学生は一人で、寂しそうに祭を見ていた。


「ちょっと失礼するよ」

なんとなくだけど、僕はカメラマンに一言を言って見物客の一人の方に歩いてきた。


「君は、志田君だね」

僕は学ラン姿の少年、志田君に声をかけていた。向こうも、どうやら僕を覚えていたみたいだ。


「はい、あなたは……やっぱり弥生の兄さん?」

「そうだよ、お久しぶり」

僕は懐かしい顔を見つけて、安堵の表情を浮かべた。

志田君は複雑な表情になっていた。きっと僕の顔を見つけてしまい、弥生のことを思い出したのだろう。


僕と志田君の間に、気まずい沈黙が数秒間続いた。


「駿さん、お久しぶりです。あの……お話があります」

意を決したかのように、志田君は僕の手を力強く引いてきた。


「えーっと、志田君……」

「大事な話です。弥生から受け取ったものを、返さないといけないから」


志田君は、顔を強張らせて歩いていた。僕は、彼に引っ張られるまま、ただ大通りを歩いていた。

ガラスの織姫が通り過ぎてしばらく、沿道の人も徐々にいなくなっていた。


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