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YAYOI(下)  作者: 葉月 優奈
五話:大七夕の奇跡
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夜、和室の居間にいた。

冬子さんは、喪服姿のまま座布団に座っていた。

僕は、かしこまって大きな桐製テーブルを挟んで向き合っていた。足元に、会社のカバンがあった。

テーブルの上には、僕が食べていたお茶漬けがあった。


「これしかなくて、すまんな」

「いえ、冬子さん。相変わらず忙しそうですね」

僕は、お茶漬けを食べていた。うん、本土と同じ味だ。

僕の前の冬子さんは、ため息をついていた。


「次郎さん、亡くなったんだ……」

「次郎さんは、寂しそうだったわ」

遠く目で、冬子さんは葬式の感想を述べていた。


「孤独死だ、次郎さん」

「そうなんだ……奥さんも五年前に亡くなって一人だったから大変だったろうね」


僕も辛い表情で、次郎さんの顔を思い出していた。

どこにでもいる優しい近所のおじいさん。昔は漁師をしていたけれど、腰痛や膝の悪化で漁師を引退した。

奥さんを亡くして、漁師も引退して足腰を悪くしてあまり家の外に出なかった。


次郎さんには子供や孫はいるけれど、みんなこの式部島を離れて行った。

式部島は、若い人が住むには刺激が無い。僕も、そう思って飛び出した人間だ。


「息子とかは連絡ついたの?」

「ううん、つながらないわ。息子の会社に連絡したら、海外勤務しているみたいだけど連絡つかないって」

「そっか……」

無念の顔を浮かべた冬子さん、悲しそうな顔を浮かべていた。

自然豊かな式部島、だけど最近は高齢化が問題になっていた。

特に老人世帯の孤独死が、深刻な問題だ。


「そういえば、井上さんが来た」

「そう、しつこいのね。捜索の打ち切りを、求めてきたんでしょ」

「ああ」僕には、その話で分かっていた。冬子さんは、唇をかみしめた。


あの後、冬子さんはずっと弥生の捜索をしていた。

社長時代の貯金をはたいてまで、いなくなった弥生を捜索していた。

でも、未だに見つかっていない。あのフェリー事故で間違いなくいなくなった妹は、見つからなかった。


「分からなくはない、知人の忠告だろう。でも何とか見つけたい……」

「弥生はきっと海のどこかにいるはず。いや、いなければおかしい」


冬子さんも僕も、ずっと疑っていた。

弥生はどこかで、生きているんじゃないかと。

わずかな希望を、僕たちは信じていた。

どんなに、周りが馬鹿げていると言ってもいい。


あの日、間違いなく朝に弥生はあのフェリーに乗り込んだ。

そしてあの日、弥生は必ず最終便で帰るはずだった。

七月十九日の朝、嬉しそうな顔で志田君というクラスメイトの話をしていた弥生。

その顔を、今でも僕は忘れることができない。


小学校で、弥生が愛する人が愛する人を殺す事件を見た。

それ以来、人と会うことを恐れて好きになることに苦しんだ弥生が、あんなに嬉しそうな顔を見せていた。

だから、絶対に探したい。もちろん冬子さんも、想いは同じ。


「にしても、冬子さんは村議会議員なんだ。噂は本当だったんですね」

「まあ、当然のことだ」

村議会議員のバッジを、誇らしげに見せる冬子さん。


「なんでまた?」

「悲しいことを忘れるために、仕事がしたかった……」

「仕事ですか。僕も同じですよ」

冬子さんは、式部島でずっと家庭菜園をやっていた。

都会暮らしにつかれた冬子さんは、仕事をしないで自給自足の生活をしていた。

だから、式部島暮らしでも仕事には就いていなかった。


「村議会議員ですか、なんでまた?」

「ちょうど選挙があって、村議会。そこに立候補したら、たまたま受からせてもらえたのだ」

「冬子さん、意外と人望あるんですね」

「そうではない、たまたまだ」

謙遜した、冬子さん。それでも、僕は知っていた。

冬子さんが、集落の老人たちにお見舞いしたり、農作業を手伝ったりしているのを。

仕事はしていないが、元社長として礼儀を尽くす。これが冬子さんは選挙に受かった要因だろう。


「それより聞きたいのは仕事の話、駿君、ホームページできるか?」

「ええ、まあ。僕はできませんが、知りあいにホームページ作成のプロがいます。頼むことができますよ」

冬子さんが頼んできたのが、ホームページの作成。


「それで、ホームページをなんでまた?」

「簡単な話、観光誘致だ。前に、駿の学校に行っただろう」

「ええ、来ましたね。三年ぐらい前ですね」

「あの時にいろいろパソコンで見させてもらったな」

冬子さんは、意外なほどにITや家電には疎い。

経営の達人ではあるのだが、ネットがなぜか疎い。

まあ、現役を八年前に退いているからというのもあるけど。


「駿君の学校のホームページを見て、思ったのだ。この島をもっといろんな人に知ってもらいたいと。

最近、観光の売り上げが落ちているのだ。今は、昔と同じ方法ではやっていけんのだよ」

「なるほど」そこは納得できた。

「この前、ようやく村議会で可決させたから、早速駿君に頼んだわけだ」

「分かりました。知り合いに頼んで、ちゃんとしたホームページを作ってもらえますよ」

「それは、助かる」

冬子さんは、少しだけ顔を明るくした。だけど僕には、一つ懸念材料があった。


「でもいいんですか?この島だと見えないですよ」

僕は、そういいながらお茶漬けを食べ終えていた。


「ああ、そうだな」冬子さんは、難しい顔を浮かべていた。

「だけど、そのホームページをまずは作ってもらえぬか?」

「とりあえず、画像とか、動画とか撮らないといけないし。デザインとか決まっている?」

「うーむ、それが分からんのだ」

「とりあえず、電話しておくから」

「そうそう、思い出したぞ」

冬子さんは、そういいながら立ち上がった。


「駿君、明日早速行動してもらおうと思っているがいいか?」

「こ、行動って?」

「島を見てもらうのだ、すでにガイドとカメラマンを呼んである」

立ち上がった、冬子さんはこの部屋を出て行った。

僕は、胡坐をかいたまま去っていく冬子さんを見送るしかなかった。


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