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ペステ――革命は内側から始まる  作者: fm344
第ゼロ章 そして物語は始まる
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2節 不平等社会

 買い物を終えたミゲルは、いつものように家路についた。

 今日こそ、自分も父さんも幸せに暮らせる。

 ――その期待に胸を弾ませながら。



「うわー最悪だ…」


 彼が歩いていた先では、ある男が突然転んで、買い物袋に詰めたリンゴを落としてしまった。

 ミゲルは無視して通ろうとしたが、彼の良心はそれを許さなかった。


「手伝います…」


 彼はゆっくりしゃがみ、静かにリンゴを拾うのを手伝った。


「ああ、ありがとう」


 男はミゲルに微笑み、感謝した。

 そして全部拾い終わると、彼はそのうち一つを、少年に渡した。


「ありがとうございます…」


 ミゲルは少し戸惑ってから、そのリンゴを両手で受け止めた。

 しかし、その瞬間、ミゲルの手首が僅かに露出した。


 男は急に態度を変え、素早くその場から離れた。

 一方で、ミゲルはそれに気づかなかった。


---


「調べりゃすぐだ。住民記録にいない親子。廃屋に住み着いてる不審者」


 父親は無言のまま、地面を見続けた。

 その様子に、ティアゴの笑い声が漏れる。


「つまり――お前らは最初から“アウト”なんだよ」


 ティアゴはそう言うと、他の警官も続いて笑い出した。


《……僕のせい…》

 

 あの時の男の表情。

 慌てて離れていった理由。

 ミゲルは、自分の不注意が父を危険に晒したのだと、ようやく理解した。


 喉がきゅっと締まり、胸が痛んだ。


「分かったか?」


 ティアゴが、彼を見下ろして笑った。

 他の警官もそれをニヤニヤしながら見た。


「お前のせいで、父親はこうなったんだよ」


 ミゲルは顔を上げた。

 そこにあったのは、軽蔑でも怒りでもない。

 ――“どうでもいいものを見る目”だった。



「……違う」


 警官たちが笑う中、ミゲルは呟く。

 誰に向けたものかも分からない、かすれた否定。


「違う…」


 父が殴られるのは、自分のせいじゃない。

 母が死んだのも、違う。

 村を追われたのも、違う。

 全部、違う。

 だったら――


「……なんで?」


 気づけば、口に出していた。

 警官たちの視線が、一斉に向く。


「――なんで、父さんは殴られてるんですか…?」


 彼は声を震わせながらも、真剣な眼差しをティアゴに向けた。


「なんで、僕は隠れなきゃいけないんですか…?」


 ディエゴはミゲルの腕を離し、驚いて彼を見詰めた。


「何を…?」


 ティアゴは少年の言葉に、自然と苛立ちが込み上がった。

 しかし、なぜか何も言えない。


「なんで、母さんは死ななきゃ…いけなかったんですか?」


 目の潤いを抑え、ミゲルは彼らを見上げる。

 ティアゴは彼の目を見て、愕然とする。


「…我々に聞くな」


 吐き捨てるような一言。

 それにミゲルは少し笑ってから、再び地面を向いた。


 ――見下すような目。

 それらがすべて自分に向かっているように感じる。

 しかし、それは決して新しいものではない。

 いつだって、どこでも、自分と父親に向かっていた。

 当たり前のように。


 けど、果たしてそれは普通なのか?

 誰もが経験することなのか?


《違う》


 今、この場で、ミゲルはやっと目を開いた。



「知らないなんて……おかしい…」


 少し笑うと同時に、目の奥に熱を灯り始めた。


「貴方たちは普通に暮らしてるのに…家族と笑って生きてるのに…」


 彼の声は段々大きく、はっきりとしていく。

 警官たちは誰一人として少年を取り押さえず、ただ側で見ていた。


「この違いは……」


 強く、歯を食いしばる。


「――この壁は…なんなんですか――」


 そう言い終わる前に、強い衝撃が腹を走る。

 ミゲルは、咄嗟に腹を押さえた。


「うっせなあ…」


 ティアゴはまるで子供のように、感情のままミゲルに殴りかかった。

 そして何度も彼に蹴りつけた。

 その様子を、通行人も、他の警官たちも無言で眺めた。


「これはな――“そういう世界”なんだよ」


「やめろ…!」


 奈落の底に落ちていく息子の様子。

 立ち上がることも敵わず、父親は悔しそうに見詰めることしかできなかった。

 それを見ていた警官たちもこのままでは不味いと悟り、やがてティアゴを止めに入った。


「……違う」


 ミゲルは泥で汚れた顔を上げ、深く息を吸った。

 痛みよりも、別の何かが勝っていた。


「ただの…不平等です…」


 その言葉を口にした瞬間、

 ミゲルの胸の奥で、黒い何かが、ゆっくりと燃え始めた。



 ――――――憎しみ。



 警官たちへの憎しみ。

 この街の人々への憎しみ。

 この“不平等社会”への憎しみ。



 ティアゴが再び殴りかかろうとするも、ディエゴが間に入った。


「しっかりしてください――」


 ――殺すまでは許されていないから。


 そう言い訳しながらも、警官たちは内心では分かっていた。

 ミゲルを殺してしまえば、自分たちの負けだと理解していたのだった。



※※※



 警官たちは脱走者を引き取りに来る担当者を待っていた。

 その間、ミゲルは彼らを睨み続ける。

 ――その目に宿るものは誰も知らない。



 同じ頃、この街のどこかで、一人の青年が静かに歩き出した。


 ベレー帽を深く被り、誰にも気づかれぬまま――。

ここまでがプロローグ、次から本編となります。

もし、指摘や感想がございましたら是非聞かせてください。より良い作品にするために頑張っていきます。


それでは、続きをお願いします。

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