↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペステ――革命は内側から始まる  作者: fm344
第一章 アファロス:古びた経済の都
PR
14/29

12節 その頃、三人は

《視点が変わります》


 ジュリオ・プルモンの部屋の外では、三人の男たちがトランプをしながら彼を待っている。


 口数の少ないロベルト・シントゥーラ。

 一番まともで、洞察力の高いウンベルト・アブドメン。

 社交的で、押しが強いジュニオール。


 彼らは長年の友人であり、経験を語り合ってきた仲でもあった。



※※※



 出会いは数年前、彼らがアファロスの鉄鋼工場で働いていた頃。

 

 あまりにも大きい体や、常に威厳がある顔。

 他の要因も加わり、彼らに近寄る人は極めて少なかった。

 起きる。

 働く。

 寝る。

 それらを繰り返して、得た金を家族に送るだけの日常。

 実に退屈な物だった。


 しかし、ある日、三人とも食事をともにしてから、その関係は少しずつ変わっていった。

 気づけば、いつの間にか仲良くなっており、同僚からは“三頭の大ライオン”というあだ名もつけられた。

 そして、共に活動することが増えていった。

 ――つまらない生活から救われたのだ。

 


 しかし、一年近く前。

 ある出来事を機に、彼らの人生はまた大きく変化した。


 ある知り合いが経営するレストランで食事をしていたら、ある二人の男たちと口論になり、ついには喧嘩になった。

 体格では負けるはずはなかったが、その二人の戦略に気づけず、打つ手なしに三人は負けてしまったのだ。


 敗れた彼らに、その内の一人――ロメロは、ある提案をした。 


『この国を変えないか?』


 もちろん、彼らは余裕で拒否する事はできた。 

 できたはずなのに、何かに引っ張られ、協力することにした。


《ロメロと言う男には人を引き寄せる何かがあった。》


 それが何なのかは、説明のしようがなかった。


---


「――俺たち、少し、乱暴だったかな?」


 ロベルトは腕を掻きながら、自信無げに言う。

 昔から、罪悪感を覚えると体が痒くなる癖があった。


「来るかどうか聞いてやっただけでも優しい方だろ。

 ナタリアの場合とか、もっと強引だったぜ。」


 ジュニオールは鼻で笑った。


「そもそもジュリオの命令だったし、彼が逃げ出したんだから、仕方なかっただろう」


 淡々と、悠然とウンベルトは加えた。

 いつもの冷徹な口調を聞いて、ジュニオールはにやりとした。


「――それでも、次からやり方を変えてみるのもありかもな」


 ウンベルトはそう言い、ジュニオールは視線を手札に戻す。

 ロベルトに続き、ジュニオールはウンベルトからカードを引いた。


「上がりー!!」


 彼は笑いながら、揃った手札を捨てた。


「クソ」


 ウンベルトは微笑み、「負けだ」と、両手を挙げながら目を瞑った。



 そんな会話の途中、ジュリオとアレハンドロが部屋から出てきた。


「では、彼らを紹介しよう――」


 ジュリオは単刀直入に会話を始めた。


《縛ったばかりの相手によくそんな話し方ができるな…》


 流石のジュニオールも少し引いたが、ジュリオの事だから、と思い、あまり気にしなかった。

 結局、三人とアレハンドロは和解(?)して、事は難なく済んだ。


「君らはもう休んでいいぞ。あとは俺に任せろ」


 と、ジュリオは言い残し、そのまま家を出て行った。



 勝手すぎる彼に文句も言えず、彼らはいつものように、「bar de bares(バーの中のバー)」に向かうことにした。



※※※



 彼らは歩くだけで人の注目を浴びていた。

 

 子供は言うまでもなく、良い年をした大人ですら、つい見てしまう。

 群れの中でひときわ目立つ存在だったのだ。


「これはこれで困るな。妙な噂が広まったら、真っ先に俺らが疑われるだろう」


 ウンベルトは人の目が嫌いではないが、それがいつもプラスに働くものではないことは分かっている。


 彼らが人に近寄られないのはそうだが、だからって人に無視されるわけではない。

 無視したくてもつい目に入ってしまう――その人一倍の威厳は、

 ある種の美貌と言ってよいだろう。


「しょうがない。これは…そういう物だ」


 ロベルトは正面を見詰めながら、小さく呟いた。



 彼らはようやくバーに着いた。


「チリーンッ」と、扉を開けると同時に錆びかけた鈴が微妙な音を立てた。


「ラウル、これ鳴らねぇぞ」


 ジュニオールが苦情を言いながら入る。


 いつものようにカウンターにいたラウルは、入り口の方を振り向いた。

 またお前らか――とでも言うような、少し呆れた顔をした。


「後で直すから、そのままにしてくれ」


 心底、彼はその鈴を直す気はない。


「いつものを三杯頼む」


 ウンベルトがそう言うと、男らは手前のテーブルに座った。

 円状に並んでいた三つの席を、躊躇いなく占領した。


 カウンターにはいつもの老人が座っていた。

 酒を飲みながらも、彼らの話を注意深く聞いていた。


 彼らが話している途中、グラスを準備しているラウルは。


「…昨日来た若者は、誰だったんだ?」


 背を向けながら、何気なく訊いた。


「あのベレー帽のヤツなら、ジュリオの知り合いだってさ。心配いらない」


 ジュニオールが、即答と言っていいほどの速さで答えた。


 ラウルは小さく舌打ちをする。


「そうか……じゃあ、彼もジュリオの手伝いをするんだな」


 作業をやめずに、ラウルは視線だけ後方に向けた。


「その通り。彼はジュリオの手伝いをする」


 ウンベルトの言葉に、ラウルは再び険しい顔をした。

 今度こそ、少し怒りの籠もったものだった。 


 

「ほれ、“いつものやつ”だ」


 少し皮肉げに言って注文を置くと、ラウルはなるべく早く離れる。

 彼らに近づくごとに、手が少し震えることに気づいた。

 その原因は彼自身も知らず、ただそれを無視した。

 

 カウンターのおじさんと一瞬だけ目を合わせてから、再び仕事に戻る。

 そして三人の話をじっくり聞いた。


---


 実は、ラウルとジュリオは数年前からの友人だった。

 

 ラウルは娘と妻、そして身分を失い、この世のクズと化してしまった男。

 救いも行き先も、生きる意味も…

 ――本当に全てを失った男に出会ったのだ。


 情け深いラウルは、そんな男にしょうがなく付き合い、アファロスという街で居場所を与えた。

 更に、その人の“親友”と名乗れるくらいまで仲良くなったのだ。


《俺はアイツがアファロスへ来てから、初めに仲良くなった人…

 俺はやつの――プロミネンテの親友だ》


 少なくとも、ロメロという男の存在を知るまで、ラウル自身はそう思っていた。


 なぜなら、ロメロと会ってから、ジュリオの性格が変わった。

 どこか落ちこんでいて、どこか自分を必要としていた彼が変わった。

 変化を感じ取ったラウルは、ジュリオにその理由を聞いたが、ジュリオはプライベートを保った。

 要するに、何も言ってくれなかった。


 突然バーを頼まれたのも、

 あの三人がバーに来るようになったのも、

 ロメロのことを知ってる人を知らせるように言われたのも、

 彼は不思議に思っていた。

 疑わしく思っていた。


 なぜ俺に何も言わない?

 ――そう思って当然だ。


 そこで、彼はジュリオが危険なことに巻き込まれたのではないかと思い始めた。

 精神的に不安定なジュリオを知った彼の身からすれば、決してありえなくはないことだろう。


 自分の友達のために必ず見破る――と言う一心で、彼はここ数カ月を過ごしてきたのだ。

 

 けど、成果は無に等しかった。

 ジュリオにはほとんど会えないし、三頭のライオンたちも重要なことを、何一つ言わない。

 むしろ、彼らが自分の事を監視してるようにさえ見える。


--


「証拠さえ掴めれば…」


 暇を持て余して、カウンターに座っていたラウルが呟いた。

 今日も、三匹のライオンが帰っていくのを見送ることしかできなかった。


 これがもはや、彼にとっての日常となりかけていた。何も得られずに、バーでひたすら働く。

 昨日、アレハンドロがバーに来なかったら、それはもっと続いていただろう。

 

「…やっと帰ったか」


 カウンターに座っていた老人が同じく、ぽつりと呟いた。


「アイツら、今日も何も重要なことは話さなかったな… 

 …ラウル、お前の言ってたこと、だんだん疑わしくなってきたぞ」


 老人は被っている大きな帽子から、目を少しだけ覗かせる。

 ラウルは、その目が気に入らなかった。


「もう少し待ってください…

 昨日だって、ロメロの名前が聞けたじゃないですか?」


 ラウルは、強く訴える。


 何も得てないわけではないと伝えようと、色々考えたが、何も言えずに、結局黙り込んでしまった。


「あぁ…」


 老人は無料で貰った酒を飲み終え、グラスをテーブルに置く。

 そして、ため息とともに、ラウルを睨んだ。



 実は、

 ――この老人は、ラウルが雇った探偵だった。


 ジュリオが何も話してくれないことに疑念を抱いたラウルは、彼を調べるためにわざわざ雇ったのだ。

 その正体は知らないが、彼のおかげでこの街のあちこちで起きていることを知らされている。

 なので、探偵というよりは、情報提供者のようなものだ。


 しかし、その数ある事件の中で、ジュリオが関わっていそうなものは何一つなかった。


「ロメロの名前がなんだって言うんだ?

 78の伝説に会いたいような人はそこらへんにいても、何もおかしくない。

 そもそもこの話は昨日もしたはずだ…」  


 探偵はラウルへの信頼を徐々に失っていた。

 それは当然なことでありながらも、ラウルにとっては捨てがたいことだった。

 何しろ、探偵を味方につけることは、正義を味方につけるようなものだ。

 この危険な世界では保険は欲しいものだ。


「言っちゃ悪いが、こっちにも都合があるんだ。   

 ラウル……」


 ラウルの件に時間をかけることは、彼の本来の目的のための時間を削ることになりかねない。

 万が一、成果がなかった場合、それはロストタイムにさえなりかねない。


 探偵は少し残念そうな顔をして。


「…もう無駄な調査はやめる」


 と、はっきり言った。



 ラウルは唾を飲み込んだ。

 流石の彼でも、探偵にも都合があるのは分かっている。

 でも同時に、自分が狂っていないことも証明したい。  


 ロメロという重要人物が関わっている以上、裏に何かがあってもおかしくない。

 そして、そいつと関わっているジュリオが危険な目に遭ってしまうかもしれない。


《アイツが再び苦しむに違いない…》

 

 でもどうすれば良いのか?

 こんなに時間がないというのに何をすれば良い?

 このままでは、何もしなければ、一向に成果が得られないことだけは確かだ。


『ここで、大胆な選択をするのも良いのかもしれない』


 視線を落としていたラウルは、冷汗をかきながらも、探偵の顔を見上げた。

 そして、彼に言った。


「……だったら…ジュリオの…

   ――ジュリオの家に行きましょう」

 

 その声は不安でありながらも、僅かな自信を纏っていた。

 そんなラウルの様子を見て、探偵は少し目を見開き、微笑んだ。


「急に大胆になるな…」


 探偵は帽子を直し、着ていたコートを整える。


「…でも、良いだろう。実際、そうでもしなければどこにも行かないからな」


 そう言って、静かに立ち上がった。


 今までずっと座っていたせいでよく見えなかった背丈が露わになり、ラウルは少し気圧(けお)された。


「だが…」

  

 探偵は髭をかきながら、ラウルを向く。


「――行くなら今だ」


 探偵は、強く念を押した。 


「…こっちにも本来の依頼がある。

 今日を逃したら、もう付き合えない」


 ラウルはその言葉に再び唾を飲み込み、探偵を見詰めた。



※※※



 壁に貼ってある、幼い子供が書いたような絵を少し見てから、ラウルは店の扉を閉めた。


「(閉店)時間を勝手に早めても、何も言われないのか?」


 探偵はラウルに訊く。


「言い訳ならあります…いくらでも…」


 そして、ドアノブにぶら下がっている、    


      「ABIERTO(開店)」


 の看板を裏返し、二人はバーを出て行った。

この節のように、この話では時々視点変更を行います。

ご理解を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。