第3話 救出
連れてこられたのは、いかにもといった部屋。
人体実験でもしてそうな怪しげな場所だ。
壁際にいくつかの棚が並んでいるんだけど、その棚にある瓶がホラー。
大きな瓶の中に人体の一部が入ってて、それが液体の中でぷかぷか浮いてるんだけど、私ホラー映画の世界にきちゃったの?
何となく同じ世界に召喚されたって思ってたけど、もしかして違う世界なのかしら。
あと、部屋の壁にどうみても凶器にしか見えないーーというか拷問器具が並んで飾られていて怖いんですけど。
これから一体それで私を何するつもりよ!
私の本能が全力でやばいと叫んでいる。
ここから逃げなければ死ぬ、と。
こういう時に勇者時代の身のこなしがいきるわ。
私は、すばやく身をひねって、自分を連れてきた連中の一人に体当たり。
私をつれてきた人たちは全部で三人。
最初に体当たりした一人の背中を蹴って、別の一人を転ばせる。
もう一人には自前の拳で下から顎をうつように殴った。
私はその隙に猛ダッシュ。
閉まりかけだった部屋の扉をくぐり抜ける。
こんなところで、わけもわからず死んでたまるもんですか。
夢中で走る私は、勇者時代にできた事を思い返す。
一度目の時は、身体強化の魔法でかなり動けたけれど、何がどうなっているのか、今は魔法が使えない。
鍛えた筋肉もなくなっちゃって元通りのちょっと、贅肉気味の体格になっちゃってるし。
経験だけが今の私の頼りだ。
召喚されるたびにステータスがリセットされる系なのだろうか。
このまま走り続けて、逃げ切れるのかしら。
不安に思っていた私は、考え事をしていたせいか、何かに足をとられてすっころんだ。
顔から床にいかなかったのは、ただ偶然。
頭を打って気絶なんて、この状況じゃ洒落にならないから幸いだ。
まあ、転ぶ直前で体をひねったせいで、おもいきり肩をぶつけてしまったし、足首をひねってしまったけど。
そんな私の背後から足音。
はっとして振り向くと大勢の人が私を追いかけてきていた。
走っていた方向に向き直るけれど、そこからも人がやってくる。
挟み撃ちだ。
これまでか、と諦められるような精神は、勇者していた頃に捨て去った。
生きる限りは精いっぱい目の前の現実にあらがわなければ、と痛む足をおさえて立ち上がると。
声が響いた。
「それでこそ、あなただ」
大人の男性の声だ。
「もう大丈夫だよ。助けに来たからね。僕の勇者様」
どこからともなく現れたその男性は、ものすごい速さで私を追ってきた人たちを倒していく。
たぶん剣?
で相手を斬ってるんだと思うけど、残像しか見えない。
早すぎて何をしているのかまったく分からないわね。
呆然としているうちに、たぶん5秒くらいで全員地面に倒れてしまった。
「久ぶりだね。勇者様」
こちらに歩み寄ってきた彼がにこりと笑う。
歳は20代くらい。背丈は私より高い。
「えっと?」
私は一度目の記憶を振り返るけれど、該当する顔がなくて首を傾げる。
「酷いな。僕の事分からない? あんなに気に掛けてくれたのに」
拗ねたような顔をする目の前の男性を見ていると、該当する顔が一つあった。
私の周囲で元気に飛び跳ねたり、スキップしたり、踊ったりする子供。
けれどそれは、ヒヨコ状態の子供のはず。
「もしかして王子様……ですか?」
「そうだよ。良かった、思い出してくれたんだね。ずっと、会いたかったんだよ!」
嬉しそうな顔でこちらに抱き着いてくる王子の行動は、たしかにあの王子だった。
あの時もよく何かあるたびに私に抱き着いてきてくれたんだよね、と懐かしい気持ちになるが、それどころではない。
「そうだ。とりあえずここから離れないとだめだよね」
王子に手を掴まれてその場から逃げる。
と、同時に私が躓いた原因が、王子の肩にとびのってその位置に落ち着いた。
ネコだ。
王子様のかな。
昔はペットなんて飼っていなかったのに、新しく家族にしたのだろうか。
王子様が私に向けるのは、昔と同じ笑顔。
けれど、私の手を掴むその手は、大きくてごつごつした大人のものだった。
同じ世界に再召喚されたらしいことが判明したけど、十日たったのならこっちの世界では十年か。
ちょっと複雑。




