第58話 肆の魔王
雷撃、火炎、爆発による閃光……。
私達が歩く、少し先の荒野へ一撃一撃が致命傷となりかねない超出力の魔法が無数に降り注ぎます。
しかし、その魔法を一身に受ける彼女は、それでも歩みを止めません。
彼女を盾として、一定のペースで歩き続ける私達との距離がほとんど縮まっていない事からもそれは明らかです。
「千鶴ちゃん……がんばって!」
身を守るため、ちーちゃんと同じビスケットの扉を盾として呼び出して歩くベルさんが祈るようにつぶやきました。
あれから、30分ほど歩いたでしょうか……。
降り注ぐ攻撃は密度を高め続け、その圧力にとうとうちーちゃんの足が止まります。
いくら不死とはいえ、絶え間なく降り注ぐ凶悪な魔法の中よく頑張りました。
ちーちゃんの歩行速度から逆算すれば、作戦に必要な距離まであとほんの少しと言った所。
よくぞここまで前進してくれましたね。
ここからは、私達の仕事です!
……とは言え、肆の魔王平常時の「最も《《穴》》に近い敵を執拗なまでに攻撃する」という性質を踏まえれば、もうしばらくはちーちゃんに耐えてもらわなければならないんですが。
戦闘が終わったら、全力で抱きしめて褒めてあげましょうね!
さて、ではこちらからも攻撃を開始しましょう。
幸い、相手の火力はめちゃめちゃ高いですが存外防御力は低めなので攻撃自体は普通に通ります。
なにせ、この空に広がる黒いモヤ全部が魔王ですからね。
おそらく、一箇所一箇所防御するなんていう考えは元から持っていないのでしょう。
ただし……。
「では、攻撃開始ですの!」
「もし、攻撃が飛んできたら私の後ろに隠れてね!」
「……攻撃と申されましても、これ、どの様な攻撃が有効なのかしら?」
「とりあえず、影の中に取り込んだら消えましたよ?」
その、空中に浮かぶモヤに対して特段有効な攻撃があるかと言われれば……、まあ、無いんですが。
「とりあえず、魔力で何らかの衝撃を与えればそれだけで破壊できるぐらいには脆いので、思いつく限りの範囲攻撃でヤっちゃってください!」
光線が、魔力光を纏った剣閃が、影の顎が、暗雲を削り取ります。
私も皆の援護のために気流を操作して暗雲を集め、低空へと誘導して攻撃しやすいように調整したりと結構忙しいです……が。
「ねえメリーさん、これ、全然減ってないようにみえるんだけど!?」
はい、観察に徹してるベルさんの言う通りです。
肆の魔王、バカみたいに体積がデカいので削っても削ってもダメージが入ってるかどうかイマイチわからないんですよ!
何より、暗黒物質という性質とルテの光の魔法がお互いに打ち消しあうため、火力担当がいまいち本領を発揮できないという相性の悪さ!
光と闇という性質により、魔法自体はお互い通るんですが、魔法に付与した付加効果が全部消えちゃうんですよ!困ったことに!
なので、正直今のルテの光魔法は広範囲にただただ魔力を放出して攻撃しているのと何ら代わりません。
あえて言うなら、速度自体は光速なだけの魔力放出です。
やはりここは、このために『匣』から持ち出した寓話霊装を使うしか無いですね!
ということで……。
「ルテ、ルテ、ちょっと失礼しますね」
いつものように、熱い接吻をごちそうします。
「あらごちそうさま。メリー急にどうしました……の゛っ!?」
ついでに、ベルさんのほっぺと、ティアリスさんのおでこにも。
あ、アルドラさんには逃げられてしまいました……。
「メメメメ、メリーさん!?」
「あら?何かしら?そういえば、先程狐の巫女さんにもやってらっしゃいましたよね?」
「ティア様以外からの性的接触はご遠慮させていただきます」
せせせ、性的接触ちゃうわ!
とりあえず、固まったルテが再起動してハイライトさんを失踪させる前に寓話霊装を起動しましょう!
「ちゃんと理由があるからルテは騒がないこと!さあ皆に祝福を与えよ、聖女の接吻!」
原型はカエルの王様。
これは、悪しき呪いを解いた乙女のキッスをモチーフにした補助系の寓話霊装。
効果は、接吻を与えた対象を劇的に強化する支援魔法!
……しかし、使用者が実際に《《乙女》》であるかは問わない辺りに若干の闇を感じる寓話霊装なんですよねこれ。
いや、確かに寓話霊装の使用に処女性を要求すると、そもそも『匣』に入れる人間のほとんどが排除されてしまうのでしょうがないとも思うんですが!
……さて、効果の程は?
「……メリー?とりあえず、理由はわかりましたの。けれど、これは後でお仕置きですの!」
ルテの重力魔法が、空の一部を引きちぎり……。
「なるほど、良い効果でしてよ。メリーさんが指揮を担当するなら相性最高の寓話霊装と言えるかしら」
ティアリスさんの、血液で生成されたコウモリの群れが闇を食い破り……。
「えっと、私、強化される必要あった?」
……まあ、ベルさんは攻撃魔法使えませんので、その必要があるかは不明だったんですが念のためということで。
で、寓話霊装による補助によって状況が好転した辺りで……。
「あとさ、今思ったんだけど。千鶴ちゃん、今の位置で大丈夫ならお菓子の家の中に入れちゃったほうが安全なんじゃないかな?」
なーんてベルさんからの提案が。
いやまあ、そうしたほうが安全なのは確かなんですけど……。
「実はこの状態の肆の魔王って魔力感知が苦手なので、お菓子の家の中に入れちゃうとちーちゃんのこと見つけられなくなっちゃうんですよね……。それに、お菓子の家はもっと大事な場面で出してもらいますので出番はもうちょっと先です」
とまあ、色々問題がありまして。
「……わかった。けど、メリーさんってこんなに秘密主義だったっけ?今回の作戦の詳細、ルテにも私にも伝えてくれてないよね?」
「それにもその、理由があるのでもうちょっと我慢してくれればと……」
「大丈夫、わたくしはメリーを信用しておりますもの!」
「ええ、まあ、メリーさんなら何か考えがあってのことなのは察しておりましてよ」
って、こっちの問題はスルーしててくれたんですね。
信頼が厚いなぁ……。
ちなみに。
「なんか、元気になった!」
前の方で未だに攻撃を受け止め続けている健気なちーちゃんからも、元気のいい声が聞こえてきました。
……キスから30分ディレイしても効果があるんですね、これ。
いや、仕様なんで識ってはいましたけど。
さて……。
絶え間ない攻撃は不死身の盾が受け止めて。
空に浮かぶ暗黒物質は刻一刻とその数を減らす。
こちらが一方的に有利な状態になりましたが、どう出ますか……?
余力はあるけれど、このままでは埒が明かない状態。
《《この形態では》》知能が低めとは言え、魔王の端くれがこのままの状況を放置するはずがありません。
私の識る限り、ここで取れる手は2つ……。
《《第二形態》》への以降か、もしくは……。
「いいですね。雑魚の投入の方で来ましたか」
肆の魔王に取り巻きは居ないので純粋に侵攻時に湧き出てくる雑魚の群れをけしかけてきた感じですね。
……ただまあ、その雑魚の群れが肆の魔王の場合少し特殊でして。
「メリー、わたくし達は千鶴さんを守れば良いんですの!?」
「……教科書で見たけど、ほんとにごちゃまぜなんだね」
「おかげで、攻撃の種類やパターンが読みれないのが面倒かしら」
「つまり、自力勝負ということですね。……サボって良いです?」
はい、肆の魔王の侵攻時に湧き出てくる雑魚は他の魔王が引き連れてくる雑魚からランダム抽出した奴らって感じなのです。
「はい!雑魚の物理攻撃を食らってちーちゃんの盾が破壊されるとぼろぼろになった彼女を死んだと判断した肆の魔王の攻撃がこちらに飛んでくるようになる可能性があります!よって、魔法以外の攻撃を絶対にちーちゃんに当てさせないでください!」
しかし、肆の魔王の部下として喚び出された場合、頭がいいはずの漆の魔王の部下も脳筋で突っ込んでくるのがちょっとおもしろいんですよね。
まあ、なんにせよ。
所詮は寄せ集めただけの雑魚の群れ。
なんとかちーちゃんを守り抜いて肆の魔王の第二形態を
拝みに行きましょう!
「ぎゃー!なんかいっぱい来たよおかーさーん!」
ところでちーちゃん?私はおかーさんじゃないですよ?
……まだ、ね。
☆★☆★☆★☆
ということで、メリーさんが持ち出した寓話霊装1個目のお披露目でした。
魔王なんだから、第2形態ぐらいありますわな。
……光の心を持ったものがクリスタルを使わないと!
まあ、その前にちーちゃんのお菓子装備を破壊すべく雑魚を投入してきましたが!
まあ、第一形態と雑魚までは前座みたいなものなので次回でサクッと片付けてしまいましょう。
ということで次回は雑魚掃除と第二形態お披露目回ですかね。
更新予定は10月7日の……ちょっと、普段別の曜日に言ってるびょいーんがズレて入ってるんで時間が遅めになるかもしれません。
多分22時までには更新すると思いますので、どうかよろしくお願いします。
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