第55話 ズルい質問
「があああ!ギブギブギブ!」
「やっぱり関節技はいいよね!加減さえ見誤らなければ痛いだけで怪我はしないもの」
……えー、なんですかねこの光景。
いや、何が起こってるのかはわかりますよ?
ベルさんが、汚姫様にSTFをかけてるだけです。
わかんないのは、どうしてこんな状況になったかって事ですね。
……まあ、碌でもない理由でしょうし深く突っ込むのは辞めておきますか。
ま、とりあえず……。
「はーいそれまでー。プレゼントがあるので二人とも立ち上がってくだーい」
持って出てきた寓話霊装を二人に渡さないことには話が進みませんからね。
しかし、使用者登録無しに持ち出し可能かどうかちょっと心配だったんですが、普通に持ち出せましたね。一安心です。
「なになに?『匣』の中から持ってきたってことは寓話霊装よね!?」
「え?私にも?……もしかして、おかしの家?」
……あれ?ベルさんどうして私が持ち出してきた寓話霊装がわかったんでしょうか?
「……きっと夢で見たんですの。わたくしも何やら火傷痕を残した姿で、知らない寓話兵装を持って魔王の取り巻きと戦う、とても夢とは思えない夢を見たことがございますし」
……んんん?
「あ!ルテも見たことがあるんだ!?私もね、ルテと一緒に魔王を倒す夢を見たことがあるの!どうしてかわからないけど私が王様になって!」
んんんんん!?
「あー、なんか見覚えがあると思ったらさっきから私に散々関節技をかけてるこの人、夢の中で見たことがある気が……、いや、夢の中の人めっちゃ優しかったし別人じゃん」
……もしかしてこれ。
ト書きさん、やらかしました?
【送った電波が本人に傍受されてた!?】
あー……、なるほどそういう……。
まあ、本人たちが夢と思ってくれてるならそれで押し切りましょう。
ところで、その電波に私の存在が影も形も無いの、どうしてなんですかね?
【ひみつ】
さいですか。
「じゃあ、その夢とやらで見たなら使い方はわかりますよね?はい、ベルさん専用の寓話霊装です」
取り出したるは、焼き菓子にお菓子の家の焼印が押され……てるように見える食品サンプル……ぽいキーホルダー。
流石に本物の食べ物を寓話霊装にすることは出来なかったみたいですね。
……いや、出来るのかな?
よく考えれば、ちーちゃんの比丘尼祝詞は《《肉を食べる》》という行為で他者に受け継ぐことが出来るので性質的にはやれなくもなさそうですよね。
でもアレは肉体変化型のレア装備ですからねぇ……。
「で、私には!?私には!?さっき私にもあるって言ったよね!?」
んで、こちらの駄犬にも持ち出した寓話霊装渡さなきゃですね。
……いや、元お姫さまを犬扱いもどうかと思うんですが、どう見ても尻尾をブンブン振りながら足元を駆け回る犬が想像出来てしまってですね。
「じゃあ、そんなフィアネイアさんには……これ!ほーらとってこーい!」
「きゃおーん!」
あ、しまったつい悪ふざけが。
まあでも、彼女の性格ならこのまま寓話霊装をキャッチしたらそのまま自分の研究所までダッシュでしょうし厄介払いが出来たと思いま……なんで普通に戻ってきてるんですかね?
「ハッハッハッハ」
「いや、犬のマネはいいですから……。寓話霊装の研究しなくていいんですか?」
「ソレはあとからでも出来るけど、おーひさま自体を観察するのは今しかできないじゃん?」
って、目的は私ですか!?私、別に研究に値する変なこととかしてませんよ!?
「……正直、メリーのあれこれを研究したくなる気持ちはちょっとだけわかりますの。だから、少しの間だけ観察を許しますの」
「……まあ、メリーさんだもんね」
で、なーんで私の伴侶はそれに許可出しちゃってるんですかね!?
【傍から見ると常に最適解を叩き出してる超人だからだね】
いや、それはト書きさんが前もって送ったシナリオを知ってるからで……。
……って、それを誰にも話してないんですからそういう印象になりますよね。
いやでも、ここからこの内容を話しても既に知ってるシナリオからは大幅に脱線してますし、その上で色々知ってる人として頼られてももう何も出来ないというかなんというか……。
まあ、今後は今までみたいに全部うまくいく!みたいにはならないでしょうし?これまでのは全部たまたまだった!で片付けましょう!
「で、えっと、じゃあフィアネイアさんは私の観察をするということなのでしばらく放置するとして……」
「え?それは酷くない?」
酷くないです。
「ベルさんは、その寓話霊装。おかしなおかしの家の使い方を知っているということでいいですか?」
「うん、大体は……。お菓子の家のパーツを、好きな場所に、好きなサイズで展開できる……で、いいんだよね?」
「はい、正解です。……付加効果については?」
「えっと、お菓子の家は、魔法では絶対に壊れない……?」
「……ほんとに現実じみた夢を見たんですね。正解です」
おかしなおかしの家。
私達が作ってたゲーム、毒クズバーゲン……じゃなかった。正式名称「GrotesqueFairyTail」において全6ルート中3ルートでベルさんのメインウェポンとなる寓話霊装です。
他の性能はともかくこの、《《魔法では絶対に壊れない》》という性質が特定の魔王にめちゃめちゃ刺さるんですよ。
……一応、物理的にはただのお菓子の家なので叩けば簡単に壊れたりするんですけどね。
「で、その寓話霊装を持って、魔王戦に、場合によっては参戦して欲しいって言ったら……、受けてくれますか?」
ただ、問題はここなんですよ。
この世界線だと、ベルさんは基本的に後方で怪我人を治すお仕事の人です。
ト書きさんが送ったシナリオと違って、王様として最前線に出る必要は全くありません。
ただ、彼女が居ることで格段に戦闘が楽になる魔王が何体か居るのも事実です。
……書いていた文字の上なら無条件に戦闘に参加して優位に持っていってくれると嬉しいなって感じだったんですが、実在の友人を死ぬかもしれない戦場に連れ出すための一言と考えると正直、重いです。
ルテはいいんですよ。
もはや私の半身ですし、能力も戦闘向き、何より女王という地位についてしまったので戦闘に参加しないという選択肢が既に無い状況なので。
ちーちゃんも、しょうがないです。
そもそも死なないですし、彼女自身が誰かのために戦うのを当然だと思ってるので。
いやまあ、それでもちーちゃんが怪我するのは気分が良くないので戦ってほしくはないんですが。
でも、ベルさんは……。
「……メリーさんが知ってる魔王の中で、私が居たほうが皆の安全性が上がる魔王がいるんだよね?」
「ええ、居ますね……」
「ルテも、メリーさんも、平気な顔で戦いに赴くけど……。実際にはいつ死んでもおかしくないんだよね?」
「ええ、それを覚悟の上でわたくし達は戦ってますの。……まあ、最初はメリーのためでしたけれど」
……そういえば、そもそも私がトラウマのせいで魔法の制御をミスらなければルテがわざわざ女王にならなくても良かったんですよね。
「……この2ヶ月ぐらいの間さ、ずっと、私だけ安全なところにいて、友達だけ戦場で戦ってるのが心苦しかったんだよね」
一度顔を伏せて目を閉じるベルさん。
……ああ、彼女の性格を識っているからこそ。
この先の彼女のセリフと表情が想像できてしまうのが、すごく、ズルくて申し訳ない気がします。
「だから、私も戦えるなら、戦いたい。千鶴ちゃんだって、あんなに傷だらけになりながら戦ってるんだよ?……私だけ見てるだけなんて、嫌だから」
顔を上げたベルさんの目には、覚悟の光があって……。
開発画面で何度も見た主人公の顔で……。
強い意志と、誰かを護りたいという心が同居したヒーローの顔。
シナリオライターの一人として、見慣れた、希望の象徴。
そして、友人の一人としては断って後方で見守っていてくれても良かったんだよと言いたくなる顔。
でも、そうですよね……。
主人公……ですもんね。
ズルい質問しましたねぇ、私。
「ただその、守って……くれるよね?」
「それはもちろん」
「大切な友達ですもの!」
でも、いい顔なのには、違いないんですよねぇ……。
なお、このやり取りの最中。
どこかの汚姫様は適当に床に座って私を横目で眺めつつ自分に与えられた寓話霊装をひたすら弄くり回してたことを追記しておきます。
そうですよね!こういうやり取りには興味とかありませんよね貴女!
☆★☆★☆★☆
ということで、黒ラベルさんへの参戦願い回でした。
友達全員が死地に赴くのに一人だけ放置されてたら、まあ、主人公気質な彼女はそれはそれで辛かったんじゃないかなという。
そんな彼女が、戦う力を得たらそりゃまあ、一緒に行きたいって言いますよね。
だって、主人公に据えて問題ないぐらいには勇気と優しさに満ちた性格してるんですから。
なお、冒頭で難易度の高い関節技をガリガリのエルフに極めてたのも同一人物である。
ということで、次回は「私だけ置いてけぼりは嫌だよ?」
更新予定は9月30日20時。
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