第40話 いっしょにとれーにんぐ
「こんなの……、絶対……、おかしいよっ!」
何度目かになるか数えるのもめんどくさいゲームオーバー画面が表示されて、篠影さんが筐体の上に倒れ伏しました。
倒れ込んだ筐体の床は、光るパネルが組み合わされて出来ており、ゲーム中は音楽に合わせて踏むべきパネルが光って教えてくれます。
……まあ、有名なゲームなのでプレイはしたこと無くても見たことがある人はたくさんいるでしょう。
『DanceDanceIgnition』
はい、曲に合わせてパネルを踏んでるだけでダンスが出来るようになったと勘違い出来る有名な音ゲーですね。
篠影さんにはこれを、私のリハビリ時間に合わせて毎日3時間プレイしてもらうことになっています。
リズム感、反射神経、ついでに体力まで鍛えられるパーフェクトな運動ですからね、ダンスは。
で、当然私が一緒に居るんですからこれに加えて……。
「何より、背中の《《コレ》》が重すぎるよ!なんで同時にやんなきゃ行けないのこの訓練!」
はい、今、ジャージ姿の篠影さんの背中には大体10kg弱の重さの吸魔銀が背負わされています。
「魔力制御がもうちょっと上手くなって、出力を下げられるようになれば小さくなりますよ?そのサイズが篠影さんの全力ブッパをギリギリ打ち消さない限界なんですから我慢しましょう。魔力制御なんて、魔法を使い続けて練習する以外に上達の方法なんて無いんですから頑張りましょうね?大丈夫、訓練してることが全部身につくまでずっと一緒に居てあげますから」
ダンスで身体の動きを訓練しつつ、同時に魔力制御の訓練もする。
一石二鳥ですね?
「ルテ、あれさ、二兎を追う者は一兎をも得ずって日本のコトワザみたいにどっちも身につかなくなったりしない?」
「それはありませんの。メリーが自ら教師役を勤めている以上、絶対に篠影さんは両方の技能を身につけますの。……だってメリー、出来るはずの技術が身につかない原因を徹底的に解剖して、問題を潰して、その上でメリー自身が力尽きるまでずっと一緒に訓練してくれるんですもの。それに、わたくしのメリーを毎日3時間拘束するんですのよ?身につかなければ、ねぇ?」
「ひえっ!」
なんか後ろでギャラリってるベルさんが顔を青くしてますが、コレぐらいの訓練はルテとの生活においては日課みたいなものでしたし?
ゲームでダンスもどきをプレイしながら、全力でぶちかましてもマッチの火程度しか出ないように吸魔銀を背負って魔力制御の訓練も同時にやる。
そもそも魔力制御の訓練では、「他のことをしながら常に魔法を発動させて操作感覚を身体に覚えさせる」事がスタート地点ですからね。
ちなみに、せっかくなので一緒に強くなってもらおうとベルさんとお姉さん巫女2人にも魔力制御の訓練をしてもらっています。
魚住さんの念動魔法の方が若干習熟度が高そうな気がしますね。
金摺さんの魔力撹乱はまあ、その、練習しても集団戦ではあまり使い道がなかったでしょうからね。仕方ないです。
そして、地味に魔力制御がお粗末だったのがベルさんですね……。
出力が高いのと、制御の腕前であまり結果が変わらないからとゴリ押ししてきた結果ですね。
普通の、私以外の人に使う治癒魔法ならそれで十分なんですが、私に使って身体の構造を逆算して治癒につなげる系の魔法だと多分かなり効率が変わりそうなんですよ。
……あとまあ、ベルさんにはいずれなんとかして寓話霊装を渡す予定なので戦闘しながらの治癒が出来るようになって貰わないとちょっと怖いかなという所があってですね?
陸の魔王は相性差で圧倒できましたけど、例えば篠影さんルートで倒してる肆の魔王なんかはルテのメイン攻撃手段である光線がほぼ無効ですし?
火力と手数がかなりヤバいので戦闘中にも回復手段が欲しくなるんですよね。
……シナリオで魔王を倒してたからって、転生世界でも魔王を倒す必要があるのかというと、まあ、ありますね。
現在進行系で欧州各国が《《穴》》に《《ゴミ》》を捨て続けている以上、魔王を全部ぶち倒して《《穴》》が存在できるようにしておかないと次の魔王も、その次の魔王も生まれることになっちゃいますし?
魔蝕汚染物質の別の廃棄手段が見つかれば良いんですが、そんなのシナリオでは結局出てきませんでしたし?
今は欧州だけの問題で済んでるから良いですが、新しい魔王にアトランティスの戦力で対処出来ず、こちらの世界へ《《侵略》》を始めてしまうと流石にヤバいですし?
まあ、そんな感じで私個人としては出来る限りルテの居るこの世代で全魔王を撃破してしまいたいところなんですよ。
……魔王が全滅して、《《穴》》が無くなれば流石に欧州各国も魔蝕汚染物質を別の手段で処理するように成るでしょうし。
「うーん、このさ、ずっと使い続けるって地味に難しいね。しかも出力を微妙に上げ下げしなが何時間も続けるとか、めちゃくちゃ疲れるんじゃない?」
「疲れるよー!うあーん!重りも重いし、足も上がらなくなってきたし、今日はもう辞めでいいよね!?ね!?」
「あ、篠影さん魔法使い忘れてますよ。……とりあえず、ダンスの方はあまりぶっ通しでは雑になるでしょうし休憩にしましょうか。10分ぐらい。……魔法の方は使い続けてくださいね?出力が制御できるようになれば背負ってる吸魔銀も減るんですから、がんばってくださいね♪」
「……鬼かな?」
「メリーは天使よりも優しいですの。鬼ではありませんわ」
「聖書の天使って、別に優しくないですよね……」
しかしまあ、最初は結構疲れますよね。
気分的にはアレです、仕事しながらスマホゲーとかの周回イベント熟してる感じ。
最初はキャラが育ってたり操作に慣れて無かったりして脳のリソースを割かれますが、慣れてくるとオートのボタンぽちーで終わるみたいな?
「私も結構難しいと思うんだけどー、リシェルテ様とジェイドメリア様は毎日どれぐらいこれを練習してるの?」
「え?『常に』ですの」
「起きてる時はずっとって事?じゃあ、1日8時間寝るとして毎日16時間。1年でざっくり6000時間弱かー」
「なるほど、それを10歳で覚醒して……。常時使用の習熟に1年かかったとしても4年間ですか。24000時間……。膨大ですね」
「え?違いますの。『常に』というのは、寝てる間もずっとという意味ですの。それに、わたくしが魔力に目覚めたのは5歳の時で、メリーは8歳の時ですの。……わたしくも《《常に》》使い続けられるように成るまで、メリーから直接指導を受けて半年以上かかりましたけど」
「ご、ごごごごごごごごごご五歳!?」
「寝てる時も!?」
「うあーん!この人達常識がないよー!もう無理だよー!」
「……瞠目院先生。もしかしたら私達は、頼む相手を間違えたのかもしれません」
……なんか、散々な言われようですね?
でも、練習したら練習しただけ上手くなる技術なんて練習しない理由が無いと思うんですよね。
「さて、篠影さん。そろそろ休憩時間は終わりですよ。どうせ比丘尼祝詞の効果で筋肉痛には成らないんですから、時間目いっぱいまで動かないと損ですよ?それにほら、ご自身で気がついてますか?狐火、揺らいでますよ?揺らいでるということは出力が変動してるという事。ほんの少し前に進みましたよ?」
「ほんとだ!ちょっと出来るようになったのかな!?私、もうちょっと頑張る!」
「……ねえルテ?私の目にはメリーさんが炎の周辺の気流を操作して揺らしてたように見えるんだけど、気のせいかな?」
「気の所為ではありませんの。相変わらず、メリーは人のやる気を引き出すのが上手ですの」
「あー……、篠影さんの単純おこちゃまー……」
「でもほら、思い込みの力って結構凄いですから」
ええ、出来る!って思い込みで実際に出来るようになること、結構ありますからね。
なので、私のリハビリ時間が終わるまで一生懸命踊ってくださいね?
大丈夫、私の見る限り魔力制御も、ダンスも、ほんの少しずつ成長してますから!
☆★☆★☆★☆
メリーさん「全部同時に訓練すりゃええねん」
やんなきゃ成長しないんだからやるだけやれ系主人公でした。
メリーさん的には、魔力制御は全ての基本なので根性で技術を習得するしか無いんですねー。
なお、一応ダンスゲーという遊びと訓練を結びつけてる辺りで「楽しく鍛えてもらおう」という温情はある模様。
温情が無かったら?
「今からリズムよく攻撃しますので避けてくださいねー。大丈夫、怪我はしませんから」
になる模様。
で、次回ですが。
ちーちゃんのとりあえずの訓練メニューが決まったのでもう一人の実力者に会いに行きます。
更新予定は8月26日20時。
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