第36話 自己犠牲中毒者
「大丈夫ですのあれは!?ああ、他の魔蝕性侵略体も来て見えなくなってしまいました……」
「救出、救出に行かないと!」
あー、案の定な状態に……。
しかも遠くから観察するには篠影さんの居る戦場が乱戦模様で見づらくなってきました。
こうなるとオペラグラスでの観戦はちょっと無理ですねぇ。
……なお、気になって後ろを振り向いた所セイラさんも心配そうなお顔でした。
とりあえず、心配いらないよって事を証明するために私がひと肌脱ぎますか。
「鏡よ鏡、篠影さんの戦闘の様子を音声付きで映して?」
便利すぎて、こっちは固定装備だなと思ってる鏡に戦闘の様子を映し出してもらいます。
……見せて大丈夫かな?ちょっと心配になってきました。
さて、映像の中では……。
『蜥蜴丸!』
バッサリと斬りつけられた傷によろめきながらも、篠影さんが神器の名前を叫びます。
呼び出されるのは、直刀に近いシンプルな1本の刀。
それは呼び出されると同時に勝手に宙を舞い、篠影さんに追撃をいれんと斬り掛かった竜人の首を刎ね飛ばしました。
『良い子だね蜥蜴丸。お姉さん今日もがんばるから、皆のために君もがんばるんだよ!』
その様子を見て頷くと、篠影さんは《《無手》》で、他の魔蝕性侵略体のへと向かっていきます。
神器・蜥蜴丸はその周囲を舞って襲いかかる魔蝕性侵略体を斬りつけますが、そうなると彼女を守るものは何もないわけで……。
『ぎゃっ!』
突き出された槍が腹を貫き……。
『うあっ!』
避け損なった斬撃が腕を半ば断ち切るほどの傷を与え……。
『ぎぃっ!』
死に損なっていた獣人型が足を噛みちぎりました。
それでも……。
『あははは!良いね蜥蜴丸!皆が私に向かってきてる!皆が、一番弱そうな私に向かってきてるよ!だから、もっと戦おう!もっと沢山怪我しよう!そうすれば、もっと敵を引きつけられるから!もっと皆の怪我が少なくなるから!』
少女は、己の様子を見て《《曇りのない》》、《《満面の笑み》》でそう言うんです。
神器・比丘尼祝詞の不死性は完璧と言ってもいい性能ですが、再生能力に関してはそうではありません。
いえ、傷自体はどんな傷だろうが一切の後遺症無く完全に治ります。
ただ、漫画やアニメ、もしくは一部のヒーロー映画のように戦闘しながらあっという間に傷が治る……というものではないのです。
でも、別の効果はあります。
『んっ!』
彼女は、千切れた、《《存在しない足》》を踏ん張って立ち上がりました。
それと同時に飛んできた砂の刃がまだギリギリ繋がっていた腕を削り取りますが……。
『まだ、まだだよ!』
何も知らずに見れば最早助からないであろう小さな巫女は、無くなった腕で身体を支えて倒れるのを拒否しました。
……損傷の、無視。
比丘尼祝詞の所持者は、ある程度までの身体の損傷を無視できます。
肺が無くなろうが呼吸出来ますし、足が無くなろうが走れますし……。
『があっ!』
振り下ろされた、岩で出来た腕に頭を半分潰されようが、《《正常な思考》》で行動できます。
『まだ、まだ立てる!動ける!もっと、もっと皆のためにがんばろう?動こう?動けば、まだ狙って《《もらえる》》から!』
そして、彼女の蜥蜴丸は《《所有者が生きている限り》》、周囲の敵へ攻撃を続けます。
これが彼女、篠影千鶴の戦い方。
英雄の戦い、自己犠牲の極地、そして……。
《《自分が傷ついた分》》、《《誰かが受ける傷が減る》》という『事実』が『救い』になってしまった可哀想な、呪われた少女の末路です。
誰だよこれを「ドM」なんて一文で隠して企画書通した奴ぅ!
……私ですね、はい。
いやその、自分でシナリオ書いてる時はまあ、ある意味トリップしてるので気になりませんでしたし、映像があるわけじゃないのでそこまでじゃなかったんですが……。
その姿を実際に見ると、だいぶキますねこれ……。
「といった所が日本の祓魔庁から貰った資料にある比丘尼祝詞、篠影さんの神器の能力ですね。……なので、あれだけの傷を負っても死ぬことだけは絶対に無いそうです」
「だとしても、あんまりな戦い方ですの……」
「助けなきゃ、助けなきゃ、助けなきゃ……」
そして、まあ、案の定お嬢様方には刺激が強すぎたみたいで……。
特に、ベルさんなんかは顔面蒼白で親指の詰めをガジガジ噛みながら虚ろな視線で、まばたきすらせずに映像を見つめ続けています。
……魔王軍との戦闘で傷ついた人員の治療するために、人体損傷に関して耐性を持つように教育を受けたはずのベルさんが完全にイっちゃってるのだいぶヤバいですね。
元シナリオだと、彼女とベルさんがもっと仲良くなってから起こるイベントだったのでその時の反応の方がもっとヤバいんですが、あれはある意味中盤のターニングポイントと言うかなんというかだったので物語上のあれこれで多少中和されてたんですが……。
直球で受け取っちゃうとこんなになっちゃうんですねぇ……。
映像の中では、篠影さんが業を煮やした大型の魔蝕性侵略体に思いっきり食いつかれた所でした。
刀1本では流石にどうしようもないサイズの敵。
それに対して彼女が取った行動は……。
『捕まっちゃったら……、やるしか、ないもんね!これはあんまりやりたくないんだけど……、狐火っ!』
吹き上がるのは、彼女自身を焼きながら周囲を焼き尽くす炎。
急激な温度変化による攻撃を封じる環境にあってなお燃え盛る圧倒的熱量の魔法。
炎に口を、顔を灼かれた魔蝕性侵略体は流石に彼女への捕食行動を諦めました。
そして、吐き出されたのは、全身に重度の火傷を負い、残っていた巫女服さえ燃え尽きた裸身の少女。
それでも、彼女は立ち上がって敵へ向かうのです。
ちなみに、戦場自体は平和というか、とても安定した状態で推移しています。
だって、敵の大多数が死なない少女に執着してずっとそちらを追い回してるんですもん。
残った貴族達は、遠くから安全に遠距離攻撃をベシベシやってればいいだけの簡単なお仕事。
指揮官含め、篠影さんの状況を察してる人も何人か居そうですし、残りの巫女さん2人も戦闘に参加してますが、彼ら彼女らにしたって戦闘が早く終わることが篠影さんの負担を減らす一番の方法だと理解していて、火力の投射に余念がないです。
ちなみに、巫女さん達の戦い方は……。
巨大な蟷螂を使役する、珍しい召喚型の神器を使って戦うのが金摺さんで、めちゃめちゃでっかい鉄で出来た弓をばっしゅんばっしゅん速射してるのが魚住さんですね。
……あの、魚住さん?
その胸でどうやって胸に弦を当てずに弓が引けるんですか!?
いやまあ、神器なのでその辺便利にできてるんだと思いますが。
なんでしたっけ、それぞれ「せかぎめ」と「百合若大臣」が元ネタの神器でしたっけ。
あ、そうそう、肝心の魔蝕性侵略体・首魁級の方なんですが……。
赤く尾を引く光を放ちながら、私達が魔王戦で出した速度に負けない高速移動で無双する吸血姫がですね……?
それはもう、ボコボコのボコに切り刻んで蹴り飛ばしててまあ、ひどい状態でした。
やっぱ、《《夜会の時間はほぼ無敵》》なんて効果を持つ、寓話兵装の最高傑作『ガラスの靴』をこの子に持たせたらそうなっちゃうでしょ!
って、あ、タコ頭が切断されて飛んでっちゃった……。
これはもう御臨終ですね……。
さて、対雑魚集団の方も戦闘がほぼ終了したみたいですが……。
「ルテ!私を抱えてあそこまで飛んで!お願い!」
「……わかりましたの。メリー、今回ばかりはあの子が優先ですの!少し待っていてくださいまし!」
と、ルテとベルさんが血相を変えてすっ飛んでいっちゃいました。
まあその、気持ちはわかります。
で、ルテが行っちゃったので彼女が居ないとロクに動けない私は当然お留守番ですね。
「コーヒー、おかわりは如何ですか?豆は先程のもので淹れてございます」
「さすがセイラさん、気が利きますね。……ケーキ、一緒にどうです?どうせルテ達は食べる余裕も気力も帰ってくる頃には無くなってると思いますし」
「あら、いいのですか?では、頂きますね。……あーんとか、してほしいです?」
「ルテにバレた時が怖いんで遠慮します」
しかしまあ、あの様子から見て……。
どう考えてもウチで保護確定ですよねぇ。
☆★☆★☆★☆
……正直、ピアスばっちばちにキメた巫女さんがデカい蟷螂の使い魔を従えるのここでサブキャラに使うのがもったいない気がしてたりします。
いや、別作品にそのまま出しても良いのか、良いよね?
ということで、なぜこれを「ドM」の一言え片付けた!回です。
再生に時間かかるのでしばらくこのままなんですが、まだ自分で歩けないメリーさんとか全身ボロボロの篠影さんちのちーちゃんとか、健常者率が徐々に下がってる気がしません?
で、蜥蜴丸ですね。
国産自律戦闘ビット刀です。
本人がボロボロになって倒れても生きてる限り勝手に戦ってくれる相性抜群の武器ですね!
なお人の心。
さて、では次回「お見舞い」
更新予定は8月17日20時。
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