第16話 女王と眠り姫の戴冠式
豪奢な絨毯で飾られた式典用施設の一本道を、わたくしは歩いています。
未だ目を覚さないメリーを抱き上げたまま。
喪服にも似た、黒いドレスを身にまとって。
対するメリーは純白のウェディングドレス。
ただし、ヴェールは分厚く顔が見えないような状態で。
わたくしの表情は、それはもう不機嫌な様子を一切隠してませんの。
だって、折角の晴れ舞台を最愛の人に見せることが出来ないんですもの。
『王族を皆殺しにして、新たに王位に付く15歳の少女』
わたくしの事は世界中でとてもとても話題になりました。
かつて無い数の報道陣がこの戴冠式に押しかけるぐらいには。
……いえ、自覚はありますのよ?それはもう大変なことをしでかしたって。
でも、全てはメリーを助けるためでしたし、後悔はしてませんの。
そして、折角の晴れ舞台なのだから微笑むべきことは解ってますの。
それでも不機嫌な表情を変えられません。
その理由は……。
★★★
「治らないって、どういうことですの?」
メリーがひどい火傷を負って倒れた3日後。
聖女ベルクローラ嬢が困惑した顔でそんな事を言い出しました。
……わたくしの火傷痕は毎日の治療でそれなりに薄くなってきてますのに、メリーは治らないなんて、意味がわかりませんの。
「いえその、治らないってわけじゃなくて……。今、リシェルテさんにしてる治療と同じ方法を使うと?なんかその、別人になっちゃうんです……」
「傷を治すと別人になる?どうして?」
「私も意味がわからなくて困ってるの!……見たほうがわかりやすいですよね。こっち来てください」
ベルクローラに手を引かれて、わたくしも毎日足を運んでいるメリーの病室へ連れてこられました。
「髪はさ?女の命だと思うんです。顔もなんだけど。だから、最優先で治さなきゃって治癒の魔法を重点的に掛けたんですけど……。わかりますか?」
……え?
「髪の色が……」
そう、メリーの髪の色がおかしくなっていたのです。
あの翡翠色で美しかった髪が、治療した部分では黒く……。
「うん、最初は、今残ってる髪は染めたやつだったのかなーって思ってたんだけど。でも、数日経過して根本を見ても綺麗な翡翠色で。意味がわかんなくって、私何かミスったんじゃないかってすごく真剣に調べたんですけど、さらに意味わかんない事実が判明しちゃって」
……まあ、黒い髪もメリーには似合ってると思うのでわたくしは別にいいと思うのですけど。
「この、黒い髪の部分と、元の部分、肌の色がちょっと違うんですよ……。これ、いつもの私の魔法で治療しちゃったら、その、顔とか別人になっちゃうんじゃないかって怖くって……」
言われるがままに頭皮を、いえ、頭皮とおでこの境目を覗こむと確かに、僅かに色が違って見えましたの。
「……どういうことですの?」
「私の普段使ってる治癒の魔法は、その人の魂の形を参照して、その人が健康な状態を再現してあげる魔法なんですね?でも、どうしてかわからないんですけど、ジェイドメリアさんは魂の形と肉体が別みたいな感じで……。色んな人を治してきて、こんな事初めてなんです」
わたくし、治癒の魔法のことは詳しく存じませんが、ベルクローラさんがうそをついてないことはわかります。
「……では、どうすればいいんですの?医学での治療では完璧にはもとに戻りませんのよ?メリーはこの先、ずっとこの火傷痕と付き合う運命とでも言うんですの?」
……お嫁には、わたくしが貰ってあげるのでいいのですけれど。
それでも、元の綺麗な顔を取り戻してあげたいんですの!
顔といえば、ベルクローラさんも結構美人ですのよね。
優しい、へにゃっと笑うところとかわたくし結構好みですのよ?
まあ、それでもメリーには遠く及びませんけれど。
「治る、治りますよ。いえ、絶対に治します!だって、デビュタントに来ていたご令嬢みんなを守って負った傷ですよ?他人の為に頑張って、死にかけて、大事にしてたリシェルテ様が王様になってまで治療を受けさせて……。それで助かったのが命だけなんて散々じゃないですか!助かった人も、助けた人も、誰も幸せにならない結末なんて私、許せないんです!」
「でも、ベルクローラさんの魔法では治らないんですのよね?」
決意に燃える彼女の様子は好ましいですけれど、わたくしが欲しいのは現実的な解決策ですの。
「いいえ、何年かかるかはわかりませんけど、絶対に治せます。……私が、《《普段使っている》》魔法では治せないだけで、身体の方を直接治していく魔法なら時間はかかっても元の綺麗なお肌に戻せるはずです!……ただ、こっちの魔法はかなり効率が悪くて、魔力をすごくすごく使うのでちょっとずつしか治せないかもですけど」
「……わかりましたの。では、ベルクローラさん。メリーのこと、どうかよろしくお願いしますの」
「はい!お願いされました!」
☆☆☆
ええ、メリーの治療がすんなりと行かなかったからです。
わたくしの腕はこんなに良くなりましたのに、メリーの治療には何年かかるかわからないなんて納得いきませんの。
それに……。
「メリーにしては珍しく、お寝坊さんですのね。身体の方はもう全然良くなっておりますのよ?早く目覚めてくださいましね?」
身体の機能はベルクローラさんの甲斐甲斐しい治療もあって治っているはずですのに、メリーは一向に目を覚ましてくれませんの。
ベルクローラさん曰く、身体が燃え上がった際のショックで心が傷ついていて、それが治るまでは目覚めない……とのことでした。
メリーにも困ったものですの。
もう一週間になりますのよ?
今週の模擬戦はわたくしの不戦勝になってしまいましたのに、まだ寝足りないのですか?
シャッターの音が鳴り響く中、わたくし達は首相の待つ壇上へと辿り着きました。
「リシェルテ・ティルテ・グリム・リスクラフト・ザーツバルム・アルトシュリア。貴方はノイ・アトランティス王国の国王として、魔王軍と戦い、世界のために貢献すると誓いますか?」
「ええ、我が最愛に誓って」
……何故でしょう?遠くの一般席から物凄く黄色い悲鳴が上がった気がしましたの。
「次に、ジェイドメリア・リーリア・スタックス・アイゼンヴァルド。貴方は婚礼の儀の後、国王リシェルテを支え、共に魔王軍と戦い、世界のために貢献すると誓いますか?」
当然、返事はありません。
ですので、代わりに私が返答いたしましたの。
「わたくしの最愛ならば、胸を張り、『当然です』とお答えしますわ」
ええ、メリーなら、わたくしが戦いに臨むなら必ず一緒に来てくれるはずですの。
「新たなる国王の宣誓、確かに受け取りました。では、ここに、新たなるノイ・アトランティス国王の誕生を宣言致します!」
首相の宣言と同時に、会場は割れんばかりの拍手に包まれました。
……それだけ、前国王の振る舞いが良くなかったということですの。
ええ、あんな息子のしつけも出来ない駄国王なんて死んで当然ですの!
「続いて、国歌斉唱!」
と、プログラム通りに国歌の演奏が開始された瞬間でした。
会場に響き渡るけたたましいアラーム。
──緊急連絡です。魔王軍の出現が観測されました。貴族の皆様は迅速に装備を整え、戦場へ向かってください。なお、魔王自体は未だ観測されておりません。繰り返します。魔王軍の出現が観測されま……──
……はぁ、無粋ですの。
確かにそろそろ襲撃があってもおかしくない時期でしたけれど、何も今日来なくったっていいですのに。
魔王は前回、3月の侵攻時に参の魔王が時間切れで撤退してるので今回は余程のことがなければ出てきませんの。
なら、今回の侵攻を取りまとめているのは魔蝕性侵略体・首魁止まりなはず。
……その程度なら、寓話霊装と未契約でもわたくし一人で全然平気ですの。
メリーとわたくしの晴れ舞台を邪魔してくれたお礼を。
メリーの傷が何年も治らない八つ当たりを。
存分にぶっ食らわせて差し上げますの!
☆★☆★☆★☆
魂の形と今の姿が違う、なんでやろなぁ?
ということで、戴冠式です。
宗教的なものでも無いので主催は首相が行ってます。
で、死ぬ程集まった報道陣の居る状態での初陣。
果たして、寓話霊装無しでどこまでやれるのか。
次回「鎧袖一触」
更新予定は6月29日20時。
どうかよろしくお願いします。
あ、外野から見た戴冠式の様子回でこの回は完成の予定なので次の次までお待ちください。
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最新話までお読みいただき、感謝致します。
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