第17話 鎧袖一触
いいですかルテ。出現する魔王軍にはおおよそ3つのパターンがあります。
一つは、魔王が率いるケース。
物理法則を、いっそ概念ごと捻じ曲げて自分に都合の良い環境を作りながら進軍してくる一番やべーケースです。
ほっとくと魔王が《《書き換えた》》地域を領土として居座り始めます。
こうなるともう、アトランティス貴族だけではどうにもなりません。
全世界の魔法使いを招集して頑張って魔王をぶち殺さないと《《領土》》が広がり続けて世界が魔王のものになります。
まあ、そうさせないためにこの国があるんですが。
で、二つ目は魔蝕性侵略体・首魁級と呼ばれる強化個体が率いるケースですね。
こっちも魔蝕性侵略体・首魁級に都合の良い環境に周囲を作り変えはしますが物理法則は地球のものが適用される感じです。
魔王が作り出す永久に熱が奪われ続ける世界やら、魔力を介しなければ瞬き一つ出来ない空間やらにはなりません。
ただ、気温が100度を超える空間とか陸上なのにそこだけ水中になってるみたいな空間は作りやがるんで気をつけてください。
……まあ、魔蝕性侵略体・首魁級程度であれば、正直ルテと私の魔法だけで大体対処できると思いますよ。
寓話兵装が使えなくってもなんとかなる範囲です。
そして、三つ目は単純に魔蝕性侵略体が溢れて出てきただけのただの群れですね。
正直これは考えなくてもいいです。
このケースだと王様すら出撃しない場合があるぐらいですから。
ただ、どんな相手でも油断だけはしちゃダメですよ?
相手は人外。
どんな行動をするか予測がつかないんですから……。
戦場たる草木一つ生えない荒野へ立ち、メリーの言葉を思い出します。
迫りくるのは、巨大な無肢竜とその配下。
大気がきらめく様子から見て、周囲の気温を下げてダイヤモンドダストを創り出してると推測出来ます。
……低温系の魔蝕性侵略体・首魁級はこうやって大気中にゴミを増やす場合があって厄介ですの。
だって、ゴミがあると光刃が届きづらくなってしまうでしょう?
「リシェルテ様!本当に寓話霊装無しで戦うのですか!?い、今からでも取りに向かったほうが……」
心配して声をかけてくれたのはあの日メリーが守ったわたくしのお友達、リーズリットさん。
「心配無用ですの。メリーと共に鍛えたわたくしならあの程度の魔蝕性侵略体、物の数に入りません。だから、少なくともあの大きな無肢竜が倒れるまでは安全な場所まで下がっていてくださいまし。……皆さんが傷つくと、ベルクローラさんの魔力をメリーだけに使ってもらうわけに行かなくなりますので」
ええ、心からわたくしの身を案じてくれるのは嬉しいのですけど……。
戦場で下手に怪我をされると、聖女の手が割かれてメリーの治療が遅れてしまいますの。
だから、大人しく下がってくださいね?
わたくしの想いが通じたのか、リーズリットさんを中心とするあの日お友達になった方たちは後方へと下がってくれました。
……これで、思う存分暴れられます。
思う存分、鬱憤をぶつけることが出来ますの。
巨体をのたくらせ、砂埃を巻き上げて迫る無肢竜とその取り巻き達。
およそ1キロは離れていますのに、発する冷気が肌を刺します。
セオリーとしては、王の持つ寓話霊装を使用して先制攻撃をかけ、その優位を持って可能な限り敵軍へ被害を与えるものなのですが……。
わたくし、寓話霊装はメリーと一緒に取りに行くと決めておりますの。
だから、今日は混じりっけなしのわたくしの魔法で地獄へ案内してさしあげます!
──大気中にゴミが多数舞っている時は、まず重力魔法で空気をキレイにしましょう。……私が居れば大気制御で通り道ぐらいは作れますが、常に一緒に居るわけにもいかないでしょうから──
メリーに教わった通り、まずは重力魔法で光刃の通り道を作りました。
……メリーみたいに、必要な場所だけに道を作れれば良いのですけれど、わたくしの技術では広範囲に重圧をかけて無理やりきれいな空気を作るしかありませんの。
次いで、一閃。
地平の彼方まで伸ばした光刃を袈裟懸けに振るい、無肢竜の首を落としにかかります。
しかし……。
「あら、存外お硬いのですね」
刃は甲鱗を貫通し肉を焼くにとどまり、仕留めるには至らなかった様子。
追撃に移ろうかとも思いましたけど、残念ながら無肢竜は姿勢を低くして地面を抉りながら進む方針に切り替えたようですの。
これでは障害物で光刃の威力が減衰して先程より威力が下がってしまいます。
「むぅ、せっかくいざという時の為にメリーとお揃いに仕立てていたウェディングドレスでしたのに……。これでは砂埃で汚れてしまいますの」
鬱憤を晴らすために戦っているというのに、どうしてこう上手くいかないのでしょうか?
ちらりと服に目を落とせば、目に入るのは胸に付けられたピンマイク。
ああ、そういえば戴冠式からつけっぱなしでした。
……もしかしてわたくしの愚痴、生放送されてしまったのでしょうか?
すこし、恥ずかしいですの。
さて、身体も冷えてきましたし少々運動いたしましょうか。
大地を蹴ると同時に重力を操り、敵の方向へと《《落下》》します。
目指すは無肢竜の直上。
突如、高速移動を開始して接近したわたくしに対し、無肢竜は即座に反応してその巨大な顎を開いて迫ります。
……でも、それは光の魔法で実際の位置とは異なる場所に映した虚像ですの。
本物のわたくしはその伸び上がった首の下、無防備にさらされた殴り甲斐のある顎の正面。
わたくし、実は一度でいいので「殴る」という行為を体験してみたかったんですの!
だって、模擬戦の相手はいつもメリーだったでしょう?
メリーを殴りつけるなんてこと、わたくしには絶対出来ませんもの。
身を撓ませ溜めを作って思い切り……。
「(各自お好みの無敵対空技名を思い浮かべてください)ですの!」
重力魔法でうんと重くしたわたくしのアパカッ!がキレイに無肢竜の顎に吸い込まれていきました。
……これ、殴る方も結構痛いんですのね。
さて、先程はわたくしの光刃を防いだ甲鱗は腹側にはありませんの。
となれば、もう勝負は決まったようなものでしょう?
……たしか、メリーの教えでは必殺の場面で放つ魔法は技名を叫んだほうが良かったのでしたっけ?
では……。
「これで終わりですの!閃光一刃!」
最大出力で放出された光の刃が無肢竜の比較的柔らかい腹を逆袈裟に斬り上げ、致命傷を与えました。
「……これで、あとは雑魚だけですの」
真っ二つに裂かれ、もうもうと砂埃を舞い上げながら倒れ伏す無肢竜をバックに重力魔法を解除して地面に降り立ちます。
何故って?
だって、自分を浮かせたままでは残りの雑魚全部を地面に縛り付ける重力を生み出すのが難しかったんですもの。
後はもう、ただの処理作業でしたの。
残りの雑魚が思ったより多く、わたくしがわざわざ手を下すのも馬鹿らしく感じましたので待機していた貴族たちを呼び出して処理させました。
高重力下でまともに動けない魔蝕性侵略体に遠距離からトドメをさすだけ。
楽なお仕事でしょう?
こうして、わたくしの初陣は終わりました。
怪我は……、わたくしが無肢竜を殴り飛ばした時に負った擦り傷だけ。それ以外の怪我なんて何一つありませんでした。
これで、ベルクローラさんもメリーの治療に専念できますでしょう?
ただ、初めての本物の戦闘、とても背中が寂しく感じましたの。
きっと、初陣のときにはわたくしが十全に魔法を振るえるようにサポートすると言っていた人が居ないから……。
メリー?早く目覚めてくださいね?
やっぱりわたくし、貴方と一緒でないとダメみたいですの。
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ファンケン・シュナイダー、英語に直すとスパークカッター。
大丈夫大丈夫、光の杖で相手をぶっ刺してエネルギーを注ぎ込む方じゃなかったのでセーフです。
ということでリシェルテ無双回でした。
犠牲になった7/6に合掌。
7/6がわからない方は「甲鱗」辺りで検索していただければと。
MTGのアイドルです。
ということで、次回は「戴冠式実況動画のコメントログ」です。
更新予定は7月1日の20時。
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