第15話 これでわたくしが王ですの。
「んだとてめぇ!なら喰らいやがれ!禍炎の群狼!」
「ならばこちらも合わせよう弟よ!散弾炎岩!」
……拙い魔力運用での、とてもゆっくりとした魔法発動。
これでは、王族の魔力量が宝の持ち腐れですの。
どうりで、咄嗟の防御でもメリーがわたくし含めた皆を守れたはずです。
……逆に言えば、わたくし達を無視すればメリーは傷一つ負わずに防御できたはずですのに。
わたくしがあの「防御を」というメリーの言葉をすぐ理解できていれば……。
ええ、悔やんでも悔やみきれませんの。
……ああ、王子二人の魔法が迫っていたのを忘れてましたの。
「墜ちよ」
とはいえ、魔力を変質させて飛ばすだけの魔法なんて重力で押しつぶしてしまえば何の意味もありません。
……メリーの魔法は繊細な制御が必要で、ずっと魔力を放出して制御しなければ成立しない高度な技術だったが故に遡られて炎に焼かれましたけれど、わたくしの魔法ならこんなものですのね。
その繊細な制御が必要な魔法でわたくしと互角以上に渡り合うメリーと比べれば、この二人のものは覚えたての子供の魔法と変わりませんの。
「なっ!防がれ……」
「飛ばす魔法が効かねえなら殴るまでだろうよ!突っ込むぞオルァ!」
はぁ、その行動は0点ですの。
突っ込んでくる第二王子の真上から強めに重力を掛け、潰れたカエルのように地面に押しつぶしました。
ああ、まだ死なれては困るのでこちらで勝手に横隔膜周辺の重力を操作して呼吸だけはさせてあげましょう。
ただ、声は出させてあげません。
……降参なんて、絶対に、絶対にさせてあげませんの。
「ぐっ、なんだこれは!?我ら二人がかりで返り討ちだと!?」
さて、第一王子の《《処理》》はどうしましょう?
メリーの現状は、第二王子との口論が原因とは言えこの第一王子は直接何かしたわけではありませんの。
……ではそうですね、ここは慈悲深く。
「くそっ、父上の仇かもしれぬが確かに父上が合法的な暗殺に足る条件を満たしていたのは間違いない。……ここは現実を受け入れよう。こうさ」
光刃一閃。
父親と同じく、一撃で痛みもなく殺して差し上げましたの。
ああでも、首を切られた場合って少しの間意識があるのでしたっけ?
ごめんあそばせ?
さて、残るはこの潰れた憎い憎い第二王子だけですの。
「かハッ……ひゅっ、こふっ……」
顔が恐怖に歪んていますけれど、自分の兄に何があったのか察したのでしょうか?
まあまあ、少なくともお猿さんよりは賢いのね。
……では、どうしてわたくしの大事な大事なメリーをキズモノにしたの?
お父さんやお母さんに誰かの大切なものを傷つけてはいけません、って習いませんでしたの?
……ちなみに、わたくしは習っておりませんわ。ええ、一切、全く、完全に。
わたくしが習ったのは、「大切なものを守るためなら、何をやったって自分にとっては正義なんです」というメリーの言葉だけ。
だから、王の暗殺もこの決闘も、わたくしにとっては正義の行いですのよ。
メリー、身体が燃えていくのは怖かったでしょうに……。
あのいつも冷静で、やさしくて、頼りになるメリーがあのような悲鳴を上げるぐらいですもの。
……だから、わたくしはそんな恐怖をメリーに与えた貴方に同じ恐怖を与えてあげますの。
使うのは王と王妃、そして第一王子を殺した光刃の魔法。
それを視線の先に突き立て、ゆっくり、ゆっくりと近づけていきます。
ああそうだ、火傷の痛みも与えませんと。
メリーが受けた苦痛は、せめてそのまま味わっていただかないとわたくしの気が晴れませんもの。
「恐怖もですけれど、メリーの受けた痛みも味わっていただきたいですの。焼き加減はどれぐらいがお好み?レア?ミディアム?ウェルダン?大丈夫。好みに関わらずカリカリになるまで焼き上げて差し上げますわ」
でもどうやって焼き上げましょう?光魔法は今、光刃を使ってるので使えませんし……。
ああ、ちょうど良く風通しが良くなってますので、太陽光なんて面白いと思いません?
重力で大気を変形させ、レンズを作って……。
ああそうだ、第二王子へ掛けている重力はそのまま維持しないとです。
となると、とても変な形で重力変化を作り出さなければなりません。
むぅ、これは存外難しいですの。
似たような魔法をあっさり成立させてしまうメリーの魔力制御は簡単には真似できません。
右半身だけ焼くつもりでしたのに、全身満遍なく日が当たってしまっていました。
「ぐがぁぁぁあ!かっ!……ひゅー」
あっ、横隔膜を動かしていた重力圏を忘れてましたの。
……でも、酸欠で意識を失う前には死ぬと思いますし、このままいきましょう。
視線が恐怖を訴えてきますが、貴方がわたくしの宝物を傷つけたのが悪いのですよ?
光刃が近づき、第二王子の両目をまず灼きました。
そのままゆっくり刃が進み……。
ああ、脳に熱が伝わってしまいましたのね。動かなくなってしまいましたの。
こうして、この国の王族は全員、五月蝿い悲鳴を上げることもなく、醜い断末魔を響かせることもなく、静かになりました。
あれ?これで全員なのでしたっけ?
「……ねえ、リーズリットさん?わたくしよく知らないのだけれど、王位継承権を持つ人間って他に居たかしら?」
決闘も済みましたし、お友だちの方へと振り返りながら質問を投げましたが……。
「あ、その、た、確か12歳の王女様が……」
ふむ……、今王位継承権はありませんのね。
……でしたら、殺さなくても済みそうで良かったですの。
わたくしだって、憎くもない相手を殺したいわけではありませんもの。
でも、皆さん流石ですの。
普通のお嬢様方でしたら悲鳴の一つぐらい上げそうなものですけれど、これでも今日から軍人となる身ですものね。
「では、これでわたくしが王ですの。……なにか困ったことがあったら相談にいらして?わたくし、お友だちにはできる限り優しくしてあげたいのです」
……あら、反応が貰えませんでしたの。
流石に怯えさせてしまったかもしれません……。
でも、わたくしにはメリーさえ居れば十分です。
そう、メリー!
聖女に治癒を任せたメリーはどうなりましたの!?
「では、わたくしはメリーの容態を見てまいりますの。……正直、もしもの事があった場合わたくしは自分を抑えきれる気が致しません。ですので皆様、今日の所はこれで解散……と致しましょう。……よろしくって?」
「わかりました、リシェルテ様。……その、ジェイドメリア様がお目覚めになりましたら、是非お礼を言わせていただきたく存じますので連絡……頂けますでしょうか?」
「ええ、必ず……」
もしかして、皆様もメリーの魅力に気がついてしまったのでしょうか?
一次避難する皆様の口から「ジェイドメリア」という名前が幾度も漏れ聞こえてくる気がします。
「……さて、ご令息の皆様に関してもおんなじですの。話は聞こえていたのでしょう?早くお逃げになって?」
あら、男性の方は判断が早いのか居座る度胸が足りないのか。
あっという間に皆さん消えていきましたの。
……では。少し、ほんの少し向かうのが怖いけれど、メリーの容態を確かめなくては。
再び天井の穴をくぐり、メリーと聖女の元へ。
「……メリーの容態はどうですの?」
「なんとか……、一命は取り留めた……と思います。予断は許されませんが、きっと、きっと助かりますよ」
聖女の、ベルクローラ嬢の膝を枕に横たわるメリーは顔半分が、いえ、右半身全体が焼け爛れるほどに酷い火傷痕のままで……。
でも、それでも自分で息をして、生きて……いました。
……あれ?
ホッとしたら、急に足に力が入らなく……。
「ああっ!えっと、名前は存じませんが貴方も酷い火傷をしてるじゃないですか!治療しますからね!答えは聞きません!……私は今ちょっと動けませんので、こちらへ来てください!」
……ふふっ。
今はただ、メリーの命が助かったことを喜びましょう。
わたくしが王になった事とか、王族を皆殺しにした事とか、傷跡の事とか……。
そういった事は、もう、明日考えますの。
「わ!わ!メリーさんほどじゃないですけどほんとに酷い火傷ですよ!?よく平気な顔してられますね!ああもうじっとしてて!治るものも治らないでしょうが!」
今は、この押しの強い聖女の言うがまま治療されましょう。
……ああそうだ、救急車を手配しませんと。
メリーとわたくしの分と、元王族の死体の分を。
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この作品は主人公担当が転生者じゃないのでアレですが。
悪役令嬢モノは転生悪役令嬢と主人公が仲良くなりタイプが好きです!
ということで、リシェルテ様が王になりました。
王になったらすることは?
そうだね、粛清だね!
……みたいな失敗国家パターンはとりません。
ニコニコ辺りに上げてある失敗国家解説動画は面白い上に勉強になるのでおすすめです。
ということで、次回「戴冠式」
更新予定は6月27日20時。
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