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銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第2章 銀髪の少女と閃光
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第93話 わたしのレンドル 1

 レンドルとジュカはサナロアの治療のため、監視塔と中層回廊に作られた休憩所にいた。


 各隊の兵士が雑魚寝をしている。

 レンドル部隊の兵士たちもいて、言葉を交わした。


 賭け札に興じている者や、激しい戦いや屍人たちの話を肴に酒を飲んでいる者もいた。

 そして、死んでいった仲間たちへの鎮魂歌が響く。


 仕切られた区画の一角は、傷の手当てをする簡易な救護所になっていた。

 光の剣で斬られたタタは、ここで治療を受けたようだ。ジュカの仕事場だ。

 今はレレイラの姿は見られなかった。


 ジュカの護衛としてダロムとザッサが呼ばれた。ノックス大隊長から連絡があったと聞いた。皇国に戻るまでジュカ専属の護衛となった。


 サナロアの治療の間、レンドルはダロムたちと剣牙族について話していた。

 以前、奴隷商人ジーフの屋敷に突入したとき、戦線にいた二人だった。


 ダロムは腕を組んで、顎に手を当て、考え事をしながらレンドルの話に応えた。

 ザッサはいつも通り寡黙だが、真剣に話を聞き入っている。


 今は二人ともヘルムを外している。父と年齢が近そうだ。

 ダロムは茶色い髪だ。耳に掛かる長さで、綺麗に整えられている。中肉中背で、背筋が伸びている。元憲兵隊の出だと言っていたので、立ち姿が当時のままだ。癖が残っているのかもしれない。


 ザッサはレンドルよりも大きく、がっちりとした体格だ。彼も茶髪で、短く切り揃えられていた。

 顎髭と揉み上げは綺麗に整えられ、そのままつながっている。静かにたたずんでいるが、常に周囲を警戒している。威圧感があり、存在感があった。巨大な両手斧を背負ったまま話を聞いている。


「獣人が魔獣になるなんて、そんな話は初耳だな。そのガルルガという奴は、特別な奴だったんじゃないか。刻印された魔法剣を手にしているなら、そうとうな実力者だったはずだ」


「ああ、そう思う。ガルルガの身体に紋様が浮かび上がると、大剣の魔力と繋がって魔獣になった。そういう魔法の道具だったのかもしれない」


 レンドルが切断した魔法の大剣も、魔獣の亡骸も皇国軍の魔法学者によって調査されることになった。その道具の調査結果によっては、新たな武器や魔法が生まれるかもしれない。


「それとガルルガは、エドマンと繋がっていた。だから、奴隷商人と剣牙族には何かあるんだと思う。ジーフともつながっているんじゃないかって」


「なるほどな。ガガットもそうだった。奴隷商人のいるところには、剣牙族がいる。遠い東の国からわざわざ、この皇国まで来ているのには、何か理由がある、そういうことだな」


「だけど、東の国のことは、よく知らないんだ」


「人族の国だけじゃなくて、獣人たちの国があるんだよ」


 レンドルは獣人の国というのを聞いたことがなかった。もっとも、獣人族もこの皇国にはいるし、兵学院にも来ていた。


「どんなところなんだ。想像がつかないな。部族と聞くと、村とか里とか、そんな規模を想像していたんだが」


「俺も最初は、集落のような場所で暮らしているだけだと思っていた。だが、全く違う。生肉を食らったり、川の水を啜るわけじゃないんだ。農業もしてるし、製鉄の技術もある。土木や砦、造船技術だってある。人族と大きな違いはない。一部の獣人たちは、昔ながらの生活をしているようだが」


 驚きだ。まさか獣人族が農業や製鉄の技術を持っているなんて。そんなこと、考えもしなかった。それに船も。


「覚えているだろう、ガガットのことを。洗練された傭兵だったろう? 逃亡専門の傭兵なんて、皇国にはいない。それだけでも、文化の高さが計り知れるんじゃないのか」


 言われた通り、高度な専門知識と技術がなければできないことだ。


「ジュカは人族の言葉を話せるけど、特殊な環境だった。ガルルガも流暢に話をしていた。獣人族が人族の言葉を話せるなんて、みんなそうなのか」


「それについては心当たりがある。言葉の神シータの恩恵を受けた獣人族は、人族の言葉がわかる。そう聞いている」


「言葉の神?」


「神話の時代に、神々に協力した獣人族がいたらしい。その時、人族と獣人族とが言葉を交わせるように尽力した神だ。あまり知られていない」


「言葉の神、初めて聞いた。その神に祈りを捧げているのか」


「全部の獣人族じゃないみたいだがな。剣牙族が人族の言葉がわかるなら、その恩恵なんだろ。それだけじゃない。東の国には、皇国と同じような国家体制に近いものがあるらしいんだ。兵学院や図書院のような、読み書きを学べる場所もある」


「そんなものまで!?」


「獣人族をまとめた王がいる。兵隊は全員が傭兵団に所属している。ほとんどは部族ごとらしいがな。その中でも剣牙族は飛びぬけて優秀らしい」


「そうだったのか。しかし、ダロムはやけに詳しいな」


「俺も詳しかったわけじゃない。獣人族の奴隷を解放したことがある。そこで色々と教えてもらった。急激に変化したのは、ここ百年ほどらしい」


「ダロムの奥方は獣人族なんだ。かなりの美人だぞ」


 寡黙だったザッサが、静かに言葉を挟む。その口から、思いがけない事実が明かされた。


「そ、そうなのか、ダロム。結婚してたんだな」


「ああ。俺は妻が三人いる。人族が二人と、その解放した奴隷だった女だ。皆、良い女さ」


「さ、三人!?」


「皇国は重婚可能なんだよ。俺は平民出身の騎士だからな。稼ぎは俺だけじゃ足りない。妻には頭があがらんよ」


「ダロムは憲兵隊の出だろ? どうやって騎士になったんだ」


「身分としては準騎士だ。レンドルのように指揮権を持たない、戦闘専門の騎士なんだ。知ってるだろ? だから、護衛騎士に向いている。憲兵隊出身者には多いぞ。法服騎士の下で働くのが嫌になったわけじゃないが、ずっといるような仕事じゃないから辞めたんだ。たまたま騎士団長に誘われてな。前より俸給も増えたよ。妻が三人、子供もいる身だからな。この仕事に就いてよかったと思っている」


 憲兵隊なら皇国法にも詳しいし、捕り物も得意だ。皇国の正式な階級にはないが、他領では設けられている階級だ。騎士に準ずる価値があるとされていて、実務経験、戦闘経験ともに豊富な人材として、人気がある。


「ちなみにザッサはいいところの出だが、今は没落貴族だ。加護持ちの騎士を放っておくわけにいかないだろう。俺が誘ったんだ。団長は懐が深い人だ」


 ザッサが大きく頷き、声に出して呟いた。


「団長とダロムは、恩人だ」


 そのとき、こちらに歩いてくる二人の女性の話し声が聞こえてくる。


「ありがとう、ジュカ」


 副官サナロアの声だった。治療が終わったのだろう。


「魔獣化のことをジュカから聞いた。レンドル、礼を言わせてほしい」


 サナロアはすでに日常着に着替えていた。肩や胸元が隠れるケープを羽織っていた。


「もしかして、装備を外してからやられたのか」


「ああ、要塞内の着替えを貰ったんだ。黄金騎士にやられて、血だらけだったからな。本当はそのあと眠るはずだったんだが、奴隷商人たちが来てな。応戦したら無様にやられてしまった」


 本当に迷惑な奴隷商人たちだった。サナロアが無事でよかった。


「心配かけたな。夜も遅い、ジュカも休んでくれ」


 ジュカが頷くと、ダロムが声をかけた。


「ようし、傭兵団のところまで送ろう。この戦が終わるまで、護衛に就くことになったからな。よろしくな、ジュカ」


 また同じような輩が現れないとも限らない。

 ダロムとザッサなら大丈夫だろう。二人の護衛騎士はヘルムを被り直し、武具の確認を素早く行っている。

 さすがに経験豊富だ。油断も隙も作らない。


「ジュカ、ありがとう」


 レンドルが別れ際に声をかけると、ジュカは優しく微笑んで「はい」と応える。

 思わず、その口元に視線が引き寄せられる。


 ジュカは口に手を当てて「おやすみなさい、レンドルさん」と言って、レンドルの眼をじっと見つめた。

 美しい琥珀色の眼に、もう悲しみは宿っていないように見えた。


 レンドルのもとを離れ、護衛騎士と一緒に外へ向かっていく。

 以前、薄紅色だと彼女が教えてくれた髪が揺れていた。


「レンドル……?」


 サナロアの細い声が聞こえて振り向くと、彼女は悲しげな表情をしていた。


「ん? どうしたんだ」


 サナロアは腰辺りで両手を前に組み、落ち着かない様子だった。


「このあと時間をくれないか。話したいことがあるんだ……」


 何かがあったのだろうか。いつもと違い、彼女は弱々しいものに見えた。


 寝る前だったから落としたのか、サナロアの唇には紅がなかった。


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