第8話 継がれし加護
「あの人が、神官ですか」
レンドルは祈祷場の前に立った人物を見ながら、ネオネスに問いかけた。
「そうです、神官です。祝詞を読みます」
そして、ネオネスに案内され、レンドルはネオネスのすぐ横に立った。
「どちらでも良いです。片膝をつき、片手を胸に当てながら、眼を閉じてください。そして、祈りを捧げてください」
レンドルは言われるがまま、右手を胸に当て、膝を突き、鞘のある左足を前に立てた。
「そして――加護を得たいと、強く願ってください」
神官が両手を太陽に向けて掲げ、祝詞を呟く。
レンドルは、その祝詞にエルフの言葉が聞こえた。全部は分からない。だが、母さんから教えてもらった言葉だった。
やがて、呟きは消え、静寂が訪れた。
――強く願え。
ネオネスの言葉が、胸の奥で響く。
レンドルは目を閉じ、炎の魔法を使えるようにと願った。
そして、ブルード教官のような身体強化がほしいと。
その瞬間――レンドルの体に何かが流れ込んできた。
――なんだこれは。
熱なのか何なのか分からない、確かに体を流れるものが、奥まで染み込んでくる。
不思議な感覚に、思わず目を開けてしまった。
足元から伸びる無数の光の糸がぼんやりと見える。
それが、レンドルの体へと繋がっているのが見えた。
そして、その糸は神官にも伸びていた。
金色と銀色の光が周囲で渦を巻いている。青い粒が現れて、それも巻き上げられ混ざり合う。
初めて見るその光景は、美しかった。思わず、目を奪われた。
光はやがてレンドルを中心に円を描きながら収縮してきた。
そして、一気にレンドルの中に集まった。
そのとき、体が燃え上がるような、焼けつくような感覚に襲われた。
魂と肉体が離れていくようで、恐ろしかった。
光は完全に消えた。
静かにネオネスが声をかける。
「おめでとうございます。加護を授かったようですね。もう立ち上がってよろしいですよ」
おそらく、一分ほどの出来事だった。
レンドルは、信じられなかった。
思わず、ネオネスの顔を見つめる。
ゆっくりと立ち上がると、体中に満ちる力がはっきりと感じられた。
むしろ溢れ出ている、そう言っても過言ではなかった。
――加護。これが、加護か。
その瞬間、レンドルの足元から、さらに光が溢れだした。
今度は金色の光が、銀と青い光を複雑に編み込まれてレンドルを包む。
先ほどと違って、神官には光の糸がつながっていない。
「ネオネスさん、いったい何がッ!」
思わずレンドルは声をあげ、助けを求めるようにネオネスに呼びかけた。
「まさか――」
ネオネスが驚愕し、眼を見開いている。
そしてさらには、紅い光が編み込まれた光を這うように走った。
大きく光が爆ぜ、レンドルに集約された。
「くッ熱い、体が燃えるようだ。何だったんだ……ネオネスさん、今のは」
レンドルの呼吸が乱れ、思わずうずくまってしまった。体が悲鳴を上げている。さっきよりも焼けつくような感覚。本当に自分が燃えてしまうかのようだった。
レンドルはネオネスを見た後、周りを見渡した。
静かな神殿のままだが、神官も護衛の人たちも、緊張しているようだった。
「私も、見るのは初めてです。……もしかしたら、強力な加護を得られたのかもしれません」
ネオネスが、神官のほうに視線を向けた。視界の端で、神官は一礼し、そのまま静かに祈祷場を後にした。
剣を携えた付き添いも、それに続く。
「大丈夫ですか。立てますか」
レンドルは、少しずつ熱が落ち着いていくのを感じた。
「なんとか……」
レンドルはゆっくりと立ち上がった。まだ体の中が熱い。肌も脈打つ感覚が止まらない。
「何の加護を授かったかは、私や神官に話してはいけません」
ネオネスは静かに手を伸ばし、視線を誘導する。
「あちらに神殿騎士レオニード様がいらっしゃいます。今後は、あのお方がご案内されます」
何だったのかは分からない。ただ熱い。しかし、加護を得た感触は確かなものだ。
レンドルは自然と笑顔になっていたのに気が付いた。
その足取りは軽く、神殿騎士のもとへ向かった。
そういえば礼を言ってなかった。
ネオネスに向かって振り返り、礼を伝えた。
「ありがとうございます!」
広場で、ガダンに突き飛ばされても動じなかった男が、レンドルを見て驚いているように見えた。
すぐにネオネスは頭を下げ、小さく礼をした。
――銀瞳が、揺らいだように見えた。




