第70話 夕日の沈む死者の国 4 ―― 宙に舞った光の剣
要塞の城門へと向かう途中、ダロムとザッサがいた。
彼らの周りには、動かなくなった屍人が数体切り刻まれているのが見える。
こちらが気づくよりも早く、ダロムが手を上げて呼びかけてきた。
「レンドルか!? 生きてたか!」
おびただしい屍人の返り血を浴びているのがわかる。倒れた兵士が、すぐに屍人になり、新鮮な体を容赦なく切り捨てたのだろう。
ジークの息が荒い。呼吸を整えたほうがいいだろうと判断し、いったん足を止めた。
「ダロム、ザッサ。そっちも無事だったんだな」
「ああ。だが、何が起きているのかわからん。それに、壊れた城門を塞がないと、死人が増えるばかりだ」
「今から城門を塞ぎに行く」
「どうやって!? 巨人族が暴れていて近づけないぞ」
「ラクロアンの騎士たちが戦っていたはずだ」
「ああ、いた。だが、いつまでもつか」
ラクアたちは、まだ巨人族と交戦中のようだ。
「なら、二人とも俺についてきてくれ。彼女――ジークが氷の魔法で塞ぐ」
「そんなことできるのか?」
レンドルはジークに目配せをした。ジークは何かを言いたげだったからだ。
「城門を塞ぐほどの氷を作るには時間がかかるわ。それに近づく必要があるの。……それで魔力も、多分尽きる」
状況は絶望的なままだ。彼女が城門を塞ぐにしても、巨人族がこちらに気づく前に終わらせないといけない。しかし、現状はラクアの活躍で何とか防いでいるが、いつまでもつかは分からない。
ダロムとザッサは言葉を失っている。巨人族がいるなかで、そんなことは出来ないと分かっているからだ。
「やっぱり、巨人をどうにかしないと、ダメみたいだな」
死闘の喧騒はいたるところで聞こえる。だが徐々に小さくなっている。屍人たちは確実に減っているのが分かる。しかし城門に迫る屍人たちが侵入したら、どれほど屈強な騎士たちが奮起しようとも、防ぎきれないだろう。そして、あの巨人族の傭兵が、さらに死人を増やし続けるだろう。
「ダロム。その巨人族と戦っている中に、閃光のラクアがいるんだが――」
「あの巨人族とやり合ってるのは、あのラクアなのか!」
ダロムが驚愕の声をあげた。ヘルムで顔が隠れているが、驚いた表情なのは間違いない。
「あいつは俺を殺そうとした」
ザッサとダロムがお互いを向いて、レンドルに向き直った。
「俺たちと別れた後、そんなことになってたのか……」
「それと、彼女――ジークの護衛を頼みたい。彼女は、閃光のラクアに脅されている」
レンドルは一度言葉を区切って、ダロムとザッサを見た。
「だから、あいつは敵だ」
「それは構わないが、お前はどうするんだ」
「俺も巨人族と戦う。城門から離れるように動くしかない。ジークはその間に塞いでほしい」
「わかった……。でも、死んじゃ駄目よ」
ジークの不安な表情は、さらにひどいものになった。彼女の呼吸は少し落ち着いてきている。大丈夫か、と声をかけると、小さく頷いた。レンドルは、それ以上声をかけなかった。
本当なら城門まで行きたくないだろう。だけど、今は彼女の力が必要だった。彼女自身も、それを分かっているからこそ、ついて来てくれていた。塞がなければ、どうせ、みんな死ぬのだから。
レンドルは城門に向かう途中で護衛騎士の二人に、ラクアとのやり取りを伝えた。突然仕掛けられた一騎打ちのこと。光の斬撃のこと。人の意識を操る魔法を使っていることも。魔法に掛けられた相手を、外から魔力で包むことで防げることも話したが、ダロムから難しいと返答された。
「それは、お前の魔力量だからできたことだ。だが、やってみるしかないな」
ダロムは光の剣について、深掘りしてきた。すると、「まさか」という呟きが聞こえたが、そこで話すのをやめた。目の前で、暴虐の巨人の拳をまともに受けた騎士が、紙屑のように吹き飛ぶ。
光を帯びた剣が宙に舞う。あの剣は、ラクアが携えていた魔法の剣だ。騎士は土嚢へと叩きつけられ、物言わぬ屍のように動かなくなった。
「――ラクアでもだめなのか!」
レンドルは思わず叫んだ。
残って戦っていた騎士たちから戦意が失われていくのが、レンドルにははっきりと分かった。
絶望を感じさせる光景に、レンドルは、共に戦っていたらと後悔するが、何が正しい選択だったなんて、わかりようがなかった。




