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銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第2章 銀髪の少女と閃光
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第67話 夕日の沈む死者の国 1 ―― 蘇りし絶望の巨躯

 破城槌で打たれたような轟音と共に、要塞の門が吹き飛んだ。

 あの重い扉が吹き飛ぶなんて思いもよらなかった。

 吹き飛んだ門にぶつかった兵士たちが何人か見えたが、無傷であるはずがなかった。


 急造とはいえ、あの門を作った工作兵たちは賞賛に値するはずだ。

 一体どうして、あれほど大きく重い門が吹き飛ぶなんてことがあるのだろうか。


「なんだ! 何の音だ!」


 ラクアは答えを求めるように叫んだ。だが、レンドルから眼を離さない。振り下ろそうとした剣がそのまま止まっている。この男も、後ろで起きたことを、本当は理解しているはずだ。

 門を通る時に、あの巨躯が横たわっていたのを、必ず見ているはずだったからだ。


「巨人族だ。あんたも見ただろ」


 レンドルは短く答えた。


「なんだと――」


 ラクアは言葉を忘れたかのように、門へ体を向けると、剣を構えなおした。


 門から覗き出た首に、レンドルは最悪の予感が現実となったことを知り、戦慄を覚えた。

 本当に最悪としかいいようがなかった。外に運び出されていたはずの巨人族が、屍人となって蘇ったのだ。


 倒したはずの、あの巨体が何事もなかったかのように、巨躯を屈めて門をくぐり抜け、立ち上がって周囲を見回している。

 何かを探しているのか。そうだ、殺した相手を探しているのだ。


 ――俺を探しているに違いない。


 黄金騎士や、目の前のラクアとは比べ物にならないほどの魔力が溢れ出ている。

 これだけ離れていても、まとわりつくような魔力に、思わず唾を飲み込んだ。

 それは、生きた人族や魔獣とは違って、死に触れたような感覚だった。


 屍人が放つ魔力は、生前とはまったく違う魔力に変貌していた。

 なぜかわからないが、魔力量が、信じられないほどに増えていた。


 レンドルは、身がすくむような恐怖を感じていた。

 そして、ラクアもそうだったのか、素早く体ごと門に向けた。


 巨人族の男がこちらに気が付いたように、不敵に笑ったように見えた。

 無言のまま、大きな足で地面を踏みつけながら、向かってきた。


 それに、おかしいこともある。両目はタタの短剣と、レンドルが刺した剣で見えなくなったはずなのに。

 それが今、赤い眼となって、こちらを睨みつけていた。

 あの巨人も加護持ちだとタタが言っていた。

 再生なのか、治癒なのか、レンドルには判断がつかなかった。


 ラクアが光の剣を振るうと、巨人族の男に当たった。


 ――バシュッ!


 巨人族の男の体には、一瞬で分厚い魔力が湧き出て、濁った銀色に光った。灰色が混じった銀色といったほうがいいのかもしれない。

 光の斬撃は、巨人の体に傷一つつけることなく、霧散して飛び散った。

 魔力で作られた光の剣は、魔力防御によって容易く防がれた。


「ちぃッ!」


 ラクアが舌打ちを一つすると、素早く懐に入り斬りつけたが、強靭な魔力防御に弾かれた。

 上半身が裸で防具がない。あの魔力防御なら、着ける必要すらなかったのだろう。


 レンドルたちが戦ったときは、恐らく油断があったのだろう。棍棒の上を走って来るなんて、思いつきもしなかったはずだ。


 先ほどラクアと対峙したとき、レンドルが魔力防御をしてもなお、ラクアは光の剣を振り上げていた。

 だから、魔力防御を切ることができる攻撃だったのは間違いないだろう。


 フェザインの魔力を纏った剣や、ランパルザの持っていた刻印魔法の剣と同じだ。

 そして、さらに光の斬撃として飛び道具のように使うこともできる剣だ。


 その剣すら、屍人になった巨人には通用しなかった。直接剣を当ててもダメだった。

 どうやって、あの魔力防御を超えて、肉体を傷つけることができるのだろうか。


 レンドルは近くに居た兵士に声を飛ばした。


「タタを治癒士のところまで運んでくれ」


 兵士は頷き、タタを背負って走り出した。

 タタと一緒にいた数人の兵士も、それを守るように駆けていった。


 恐らく巨人族の男は、本当ならこちらに向かってくるはずだった。レンドルを見つけたからだ。

 殺した相手を見つけて、復讐を果たす。未練といえば未練なのかもしれない。


 だが、ラクアが攻撃してくれたおかげで、蘇った傭兵はラクアに向かって拳を振り下ろした。


 凄まじい轟音とともに地面がえぐれた。黄金騎士の投げた大槍のような爆発でも、ここまでではないだろう。ラクアは飛びのいて、躱していた。

 ラクロアンの騎士たちも、巨人族に向かって剣を振るい始めた。


 あの屍人の群れを掻い潜ってきた。おそらく全員何らかの加護を持った騎士たち。

 その攻撃すら、何事もないようにしている。今気が付いたが、騎士たちの持つ剣も、刻印された場所が光っていた。

 ラクアほどの刻印ではないが、小さく刻まれているものだった。

 全員が、加護持ちで、全員が、刻印ルーン魔法の長剣だった。


 このままラクアたちを見殺しにするか、それとも、共闘したほうがいいのか。


 ラクアの背中を狙うべきか。どうしたらいい。

 今度はあの巨人族の拳が、レンドルに振り下ろされるかもしれない。

 直接巨人に手を掛けたのだから。その可能性は拭えなかった。


 レンドルは、静かに後ずさりながら、ジークの手を取る。


「逃げるぞ」


 最初、ジークの手には力がなかった。弱々しいものだった。


「あの巨人族に殺されるぞ。ネオネス――お父さんに会うんだろ」


 彼女の手が、レンドルの手を強く握った。


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