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銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第2章 銀髪の少女と閃光
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第66話 閃光のラクア 6 ―― 光の剣

 走りながら、要塞の反対側をみると、無数の人影が軍隊のように見えた。

 要塞の門までもうすぐだが、戦いの音が聞こえる。すでに要塞内に入りこんだ屍人たちと交戦しているのは間違いなかった。


 いや、要塞内の浄化の終わっていない死体も起き上がったに違いない。


 ふと視界に飛び込んできた光景に、レンドルは戦慄した。以前、要塞の階段から落として倒した、あの巨人族の男の死体だった。

 その巨大な躯が、壊れた荷台と共に横たわっていた。

 運び出そうとして、壊れたのか。いつだ。歌を聞いていた時か。


 ――こいつも、いずれ起き上がる。


 レンドルが門まで来ると、死体が一つ起き上がった。

 見覚えのある顔だった。レンドルの部隊にいた兵士だった。

 屍人に殺されて、彼は死者の誘いを断れず仲間に加わってしまった。


「たいチょウオォ」


 人とは思えないうめき声を出しながら、彼は右手に持った剣で襲い掛かってきた。

 背中から氷の礫が、屍人の頭を打ちぬいた。首から上が吹き飛んだが、振り上げられた剣はレンドルにおろされた。

 長剣で受け流して腕を切り落とすと、それは動かなくなった。


「門を閉めるぞ!」


 要塞の門の小窓から、兵士がレンドルたちに声をかける。

 その声に、レンドルとジークは要塞内に急いで飛び込んだ。


 屍人との戦闘の跡が残されていた。休息のために、この門をくぐった時には死体一つなかった。

 今は、傷んだ体の死体が、文字通り転がっていた。


 目の前は、屍人と戦う皇国軍、ルベリア軍、ラクロアン軍が入り乱れて戦っていた。

 ちょうど屍人に倒された兵士が、ものの数十秒で起き上がり、濁った眼をしてジークに向かって駆けだす。

 それを灰兎族のタタが膝裏を斬りつけると、崩れたところに、兵士たちの槍が刺さった。


「タタ! 無事だったか!」


「レンドル遅いよ!」


 事情を聴くと、城壁通路にはサナロアが向かい、弓での応戦を指揮しているという。

 死んだ先から、死体となって起き上がるなら、離れた場所から攻撃をしようと、決断した。


 魔法使いたちも同様に連れて、避難と攻撃を同時に行った。

 タタたちは、兵士たち数名で固まりながら、屍人を倒し怪我人を救助している最中だった。

 監視塔の近くの中層回廊には治癒士たちを集めて、そこに運ぶそうだ。

 階段から登って来る屍人を落として、屍人の来る方向を限定しているらしい。

 矢継ぎ早だが、要点だけ整理して教えてくれた。


「エルフ?」


 ジークを見たタタが指摘をすると同時に、要塞の門が音を立てて閉まり出した。


「閉めるな!!」


 大きな声で門の方から声がした。聞き覚えのある声だった。ついさっきまで聞いていた声だ。

 三名の騎士と、ラクアが門が閉まる前に転がり込んだ。


 レンドルは剣を構えると、タタも身構えた。

 何も言わずとも、タタはレンドルの行動を見て判断していた。

 頼もしい仲間だ。


「あれ誰? ルベリアの騎士だよね」


「閃光のラクアだ」


「うあ、大物だ」


「俺は喉を突かれて殺されそうになったんだ。そこのエルフの少女は、ラクロアン軍には居たくないらしい」


「じゃあ、そのエルフを守るってことだね」


「話が早くて助かる」


「レンドルが剣を向けたってことは――」


「もちろん、敵だ」


 碧眼の男がこちらに向かって歩いてくる。飛びかかった屍人を容易く切り伏せた。


「ジークを返してもらおうか、赤髪」


 投げ放たれたことよりも、ジークのことが気になるらしい。

 まったく優し気な雰囲気を微塵も感じさせないまま、彼女のことを最初に口にした。

 本人はラクロアン軍には戻りたくないのに、彼女を返せと言う。

 それにしても、仲間でないなら、彼女を返せと言う理由が分からない。


 ジークに眼を向けるが、彼女の眼は、体は、ラクアたちのもとに行くのを明確に拒んでいた。


「い、行かない」


「だ、そうだぞ。嫌われてるな。彼女は自分の意思でこっちにいるんだ」


「俺たちを置いて、逃げるなんて随分な真似をしてくれたな」


「氷魔法で助けていたのを、もう忘れたのか? 見捨てるどころか、屍人を何体も倒した」


「ジーク!」


 応えるのを拒むかのように、大声でラクアが彼女を呼んだ。

 英雄といえども、相当頭にきているようだ。


 彼女を見ると、その声に明らかに怯えていた。

 まただ。一瞬青い粒のようなものが眼に入った。


「何度も言わせるな。こっちへ来い」


 ラクアの言葉に、ジークはふらりと一歩、二歩とラクアの方に近づいた。

 その銀瞳からは、光が失われていた。

 レンドルは、思わず彼女の肩を掴み、魔力を彼女の周りを包むように流し込んだ。


「ッ! なんで、わたし」


 確信した。どんな方法か分からないが、ラクアは彼女に命令ができる。

 魔力を流すと邪魔をすることができたのなら、それは魔法なのかもしれない。

 人を操る魔法なんて、そんなものがあるかは知らなかったが、今それがあると分かった。


「ラクア、お前何をした」


「名前を呼んだだけだ。さあ来るんだ」


 ラクアが、こちらに近づいてくる。


「それ以上近づくな。いやがる女性を、無理矢理従わせるのが英雄なのか」


「力づくってのも悪くない」


 こいつも黄金騎士と同じか。この男に黄金騎士の時と同じような嫌悪感が湧いた。

 レンドルは、少し腰を低くしながらタタに呟いた。


「タタ。彼女を連れて、離れてくれ」


 タタは素早くジークの手を取り、「こっちへ」と言った瞬間だった。


 レンドルの目の前でラクアが剣を振ると、光の筋が通った。

 それが視界の端を横切ると、すぐ横のタタに当たり、背中が革鎧ごと斬られて血が飛んだ。


 声もなく崩れ落ちるタタを横目に、レンドルはラクアとタタの射線上に体を移動した。

 ラクアは離れている。だが剣を振って放たれた光がタタの背中を斬り裂いた。


「タタ! 無事か!」


 傷が浅いのか深いのか分からない。

 確かめている時間もない。ラクアの持つ魔法剣の刻印が白く輝きを放った。


「魔法の剣ッ!」


 間違いなく剣の斬撃がタタを斬った。あの男の持つ魔法の剣の特性なのだろうか。

 ジークが屍人の胸を突いた場所から、氷の魔法が発動した。それと同じようなものか。

 それならラクアの持つ魔法の剣からも、魔法が発動しても不思議じゃない。


 碧眼の男の表情は硬い。鋭い目つきが、レンドルに向けられた。

 そして、光が剣に収縮して、まばゆい光を纏った。


 まずい。離れた間合いでは、一方的に攻撃されてしまう。

 まだ、二人の間には距離があったが、このままでは斬られてしまう。


 どうしたらいい。どう防げばいい。避けることができる早さじゃなかった。

 そもそも避けられない。もし、避けたとしても、後ろにいるタタはどうなる。

 また光の斬撃で斬られてしまう。助かるなんて思えなかった。


 黄金騎士の時と同じだ。あの時は左手を犠牲にして突進を防いだが、今度は違う。防ぎようも避けようもない。


 ――閃光のラクア。


 あの、光の剣が由来なのだ。


「放り投げられるなんて、はじめての経験だった。思わず笑った」


 その表情に笑みはない。冷徹にレンドルに報復しようとしていた。


「門が閉まるぞー!」


 ――ドッドン!


 外界から切り離される音が、要塞内に響いた。


 それが合図だと言わんばかりに、ラクアはレンドルに向かって踏み込み、剣を振り上げた。


 要塞の門が閉じられた。これで、外からの屍人が、要塞内に入ってくることはない。ひとまず要塞内の屍人を何とかすることに注力できる。だが、目の前の男をどうにかしなければならなかった。


「その礼だ。受け取れ」


 レンドルの目には、光の剣が、空を分断するかのような稲光に見えた。


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