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銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第2章 銀髪の少女と閃光
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第63話 閃光のラクア 3 ―― 戦場の剣

 レンドルの背筋が凍り付いた。


 ――なんだこいつ!


「ちょっと!」


 ジークは困ったような顔をして二人の間に割って入った。

 ラクアの腕にしがみつき、精一杯引き離そうとする。


「邪魔だジーク。下がってろ」


 ジークは一瞬何か言いかけたが、何も言わずに腕を放した。

 数歩後ろに下がり、そのまま距離を置いた。

 耳を寝かせ、服を両手でしわになるほど、両手で強く握っていた。


 美しかった銀瞳に、光がなかった。


 ――この男、ジークに何かしているのか。


「ジーク。安心しろ、これは模擬戦だ、怪我で済む」


 近衛騎士がそうだったように、怪我をしたら、終わるということか。


「だめ……ッ!」


 それが合図であったかのように、ラクアが踏み込み、上段から斬撃を放った。

 初撃の切り込みは危なげなく躱したものの、体捌きが滑らかな相手に、その後の反撃の機会を失った。


「黄金騎士、どうだった、レンドル」


 話しかけてくる一方で、淡々と剣を打ち付けてくる。

 躱せない、捌けないわけではないが、決して楽じゃない。様子を見ながら剣を打ち込んでくる。


「強かった」


 一言、素直に思ったままのことを口にした。

 凄まじい連続の突きを浴びせられた瞬間が、脳裏に浮かんだ。

 槍が、蛇のようにうねる攻撃で突かれ、耳を落とされた。


「剣はどこで覚えた」


 ラクアの放つ剣の軌道、出所が徐々に変化しだした。

 突きも払いも見極めにくく、軌道もおかしい。


「……」


 レンドルはあえて沈黙を守った。


「俺は――戦場で覚えた。お前は?」


 ――実戦の剣ということか。


「父から」


「名前は?」


「ファレン・ブレイズ」


「おおー! ファレンか!」


 ラクアが一旦距離取ったが、呼吸の乱れが全くなく、最初から何もなかったかのようだ。

 父を知っているのは当然だ。昔、銀狼討伐で一緒に戦ったはずだ。


 観察するようにレンドルを見てくるその目は、碧い瞳のせいもあって、まるで獲物を吟味している狼のようだった。


 レンドルは、大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。

 黄金騎士から受けた傷の痛みが、じわりと蘇る。

 予想以上に動かされているせいか、体力の消耗が激しい。見事に翻弄されてしまっている。何よりも、この男の剣を受けるたびに、腕がしびれた。

 一つ一つが重い一撃かと思えば、体勢を崩すためのフェイントだったり、無駄があるような攻撃も、その実、一切の無駄がない。


「銀狼と戦ったときにな、ファレンの突きで隙ができた。それを銀狼が褒めてたんだ。くく、あーっはっはっは。魔獣が褒めるってなんだよ」


「銀狼を撃退したって」


「ん? ああ。銀狼も馬鹿じゃない。負うはずのない傷をファレンから付けられたんだ。危険を感じて下がったんだろうな」


「父は加護持っていない」


 一度もそんな話を聞いたことがないし、魔力操作による身体強化を見たこともない。


「そうだ。だから不思議なのさ」


「父と、あなたなら、どっちが勝つ」


「ファレン、だな」


 迷いのない即答だった。


「純粋な剣の技量勝負なら、勝てないだろう。見事としか言いようがない」


 そしてラクアは、無造作に髪をかきあげた。


「まあ、魔力や加護を使えば勝てるかもしれないがな」


 それでも勝てると言いきらない。これほどの使い手に対して、父はまだ先にいる。


「ファレンより強い奴もいる。上を見たらきりがないからな」


「えっ!?」


「昔エルフの剣士に負けたと言ってたぞ」


「な、そんなこと聞いたことがない」


「世界は広いからな。この大陸だけじゃない。強いやつなら、どこにでもいる。冒険家スルズクワイトや、剣聖の物語を知ってるだろ」


 そして、また一気に距離が縮まった。

 しだいに剣閃の速度が増していく。レンドルも剣を打ちこむが、強く切り込むと柔らかく流される。逆に弾くようにされたかと思うと、その瞬間に踏み込まれる。


 ラクアの放つ剣は、ありとあらゆる方向から来る。打ち込まれる角度にも法則がない。

 狙いも急所から外されているかと思えば、致命傷になるような攻撃も混ぜつつ、掴みどころが分からない。守りづらく、速度も軌道も違う攻撃に、対処方法を見出せない。


「そこから、俺が何度も切りまくった。でも、死なないんだよ、あの狼」


 さらに、体捌きが巧みなこともあって、それ自体がフェイントなのか、攻撃が来るのか判断が鈍る。

 踊っているようでありながら、しかし、不規則にステップが踏まれる。


 惑わされる。

 知らない動きに、頭が追いつかない。

 低くかがんで足を斬ろうとする。つま先で脛を蹴りつけたかと思うと、膝を折るよう踏みつけて来る。剣と体術が連動している。

 騎士の剣筋には見慣れない動きも混ざる。喧嘩屋ベックの戦い方が近いが、剣自体は精鋭が振るうそれだ。


 最初の立ち位置から、決まった大きさの円を描くように動いていた。

 それが、だんだんと小さい円に納まっていく。戦いの速度が上がる。


 レンドルの剣はいなされ、手応えはあれど、当たりそうで当たる気配がしない。

 逆に、ラクアの剣を捌き切れなくなった。


 追い込まれつつあった。その瞬間を見逃さず、猛攻がレンドルを襲った。


 ラクアの剣は、こちらの反応を見極めてから仕掛けてくる。

 その剣筋は、こちらの動きの先を読んでいるというより、誘導されているようだった。


「守りが甘くなったな、限界か?」


 刃が、肩口をかすめた。皮膚がひりつく。


 次は――来る。


 反射的に後退した瞬間、夕日の光がレンドルの眼を刺した。足元がわずかに乱れた。

 その隙を、見逃されなかった。


「……っ!」


 ラクアの剣が、吸い込まれるように喉元へ――。


「もうやめて!!」


 鋭い声が割り込んだ。


 一瞬。本当に一瞬、ラクアの踏み込みが遅れた。


 その隙に、剣を躱し、自身の剣を強引に入れて、何とか距離を取る。

 荒く息を吐くと、肺の奥が痛んだ。ジークの声がなかったら、あの剣は喉を貫いてたんじゃないか。止めるような気配も何もなかった。


 ――強い。殺される。


 と、その時ラクアの背後で、誰かが叫んだ。


「おい! なんだあれは!」


 レンドルはラクアから目を離さない。それはラクアも同じだった。


 だが、レンドルはラクアより先に、黒い影がこちらに向かっていることに気が付いた。


 ちぎれかかった腕を振り回しながら、それは(・・・)凄まじい速さで向かってきていた。


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